縮小するスキー産業 4度の五輪代表・佐々木明が語る本当の魅力とジュニア育成の課題

(撮影・平野敬久)

「日本の雪」が注目されている。上質で大量のパウダースノーは海外でJAPOW(Japanese Powder Snow)と呼ばれ、ニセコや白馬などのスキーリゾートに遊びに来る観光客は増加の一途をたどっている。

2022年に北京で冬季五輪が開催されることで、中国のスキー人口が爆発的に増えることも予想されている。観光庁はスノーリゾート活性化に向けた検討会を組織。スポーツ庁も昨年12月に「アウトドアスポーツツーリズム」と題した動画を公開して魅力を発信している。

インバウンド観光の文脈でスキーの注目度が高まる一方で、国内のスキー・スノーボード人口はピークの90年代から1/3以下の530万人まで減少している。

なぜ日本人はこれほどまでにスノースポーツをしなくなったのだろうか。

アルペンスキー選手としてオリンピックに過去4回出場、ワールドカップで日本人最多の3回表彰台に立った佐々木明は、引退後もバックカントリーにフィールドを広げスキーを続けている。

2018年に、全日本スキー連盟(SAJ)のアルペン強化アドバイザーにも就任。1956年以来オリンピックでのメダルがない日本のアルペンスキー競技の改革にも取り組む。

スキーについて誰よりも考え抜いてきた佐々木明に、日本のスキー業界の課題を聞いた。

(C)Jacob Slot
(C)Jacob Slot

スキーヤーとしての活動とSAJアドバイザーの仕事

-- ソチオリンピックでアルペンスキーヤーとしてのキャリアを引退して、今はどんな活動をしているんですか?

「今はスキーという遊びの原点に戻って、いろんなところを旅しながらスキーをしてます。

世界中の山に登って滑り、映像に残す『AKIRA’S PROJECT』で、これまでモンゴル、ノルウェーの山や、日本の谷川岳に行きました。

引退してから本格的なバックカントリーを滑るようになって、スキーは選手の時に知っていたよりもずっと奥が深くて、アルペンスキーがあくまでスキーの中の1つのジャンルに過ぎなかったんだな、って思いますね。」

-- 2018年からはSAJのアルペン強化アドバイザーとして、公的な仕事もされるようになりましたよね。

「日本にスキーが入ってきて107年経つけど、アルペンスキーで世界トップと言われる第1シード15人の中に入ったことのある日本人は、過去に6人しかいないんです。

俺はレーサーとしてフィジカルも技術もトップクラスだったと思うけど、オリンピックのメダルはとれなかった。ワールドカップではベストな滑りをしたけど、100分の4秒足りなくて2位だった。

全てやりきったのに結果を残せなかったって理由を、やめてからこの4年間ずっと考えて、自分に足りなかったことの1つが、「心技体」の「心」の部分だったと思ってます。

だから、SAJのアドバイザーの最初の仕事の1つとして、マインドフルネス・コーチに強化チームに入ってもらったんです。

マイケル・ジョーダンと(そのコーチの)フィル・ジャクソンはマインドフルネスをすごく重視してた。日本はアメリカに比べてメンタルの部分に対して科学的なアプローチが少ないから、SAJに取り入れているところですね。

もう1つが、チームワーク。サッカーにはブラジルのスタイルとかスペインのスタイルがあると思うんだけど、日本のスキーの場合は、まだ国の強化の方針がない。

全国各地のコーチそれぞれの指導方針は尊重しつつ、日本代表が1つのチームとして何をするか、どういう方針でやるのかを示す強化メソッドを、世界のトップチームの最先端の情報を取り入れながら作っています。

アスリートのプライムタイムがだいたい23歳から24歳。そこでオリンピックに出ることを考えると、19歳か18歳では世界の舞台に立たないといけない。それを見据えて、国際大会に出られる16歳までにどういうトレーニングをする。10歳、12歳、もっと言えばスキーを始める段階ではどういうテクニックを身につける、と逆算していくんです。」

2010年 バンクーバー五輪 アルペン 男子回転 予選(写真:ロイター/アフロ)
2010年 バンクーバー五輪 アルペン 男子回転 予選(写真:ロイター/アフロ)

幅広い選択肢を与える大切さ

-- トップ選手の強化の方針も重要だと思うのですが、そもそもスキーをする若い人が減っているという課題もあると思います。全日本学生スキー連盟の参加大学は1997年174校で、2018年は114校まで減ってます。

「中学校から高校に進学するとき、高校から大学に進学するときにスキーをやめていく人が多いですね。この年代のジュニアに必要なのは、幅広いスキーを教えてあげることだと思ってます。

野沢温泉村って、日本一多くオリンピック選手を輩出している村なんですけど、野沢温泉スキークラブの指導方針がすごく面白い。

小学生の間はジャンプ、クロスカントリー、アルペン、どれでも自由に競技を選んで練習できる。そして中学生からはその中から好きな、自分に適性があるものを選べる。

そうすれば、アルペンやって芽が出なくても、フリースタイルでも、スキークロスでも、他の競技にチャレンジできる。今は競技フリーライドの世界大会まであるんだから、いろいろな選択肢を与えてあげることが重要だと思う。

1つの種目で芽が出なかったからと言って、能力がないわけじゃない。たまたま適していなかっただけの話。それだけ。

ソチオリンピックのスキーハーフパイプで銅メダルを取った小野塚彩那はもともとアルペンの選手。彩那はアルペンには適していなかったけど、ハーフパイプに転向したらぐっと伸びた。

スキークロスも、アルペンから転向した選手がたくさんいて、新しい滑り方を開発して競技として発展しているんです。」

写真:アフロスポーツ
写真:アフロスポーツ

スキーは遊び

-- 明さんが子どものころは今ほど競技の選択肢が多くなかったですよね。どうやって「スキーの幅」を学んだんですか?

「俺にとっては子どもの頃から今もずっと、スキーは『遊び』なんですよね。

これは俺の親の育て方というか、親のスキーに対しての接し方が素晴らしかった。スキーは家族で楽しむため、旅行に行った先で楽しむツール。できれば生涯、スキーは「遊び」として捉えてほしい、というのがうちの両親の願いだった。

例えば、俺が小学校2年生のときにサロモンが発売したスキーがどうしても欲しくて、クリスマスプレゼントに買ってもらった。

そのあと、他のメーカーから用具提供の契約の話が来たんだけど、うちの両親は断ったんだよね。

後から理由を聞くと、好きな道具が使えなくなることで、俺がスキーを嫌いになってしまうんじゃないかって思ったらしい。

だから俺はスキーが仕事だと思ったことはないです。現役選手のときも、トレーニングの合間にレーシングスーツのままパーク入って『遊んでるんじゃねえ』ってコーチに怒鳴られてたしね。

当時はキッズたちがそれをまねて遊んだりしてたけど。最近またそういう遊びの部分がなくなってきたね。」

(C)Jacob Slot
(C)Jacob Slot

遊ばせる勇気がない日本のスポーツ

-- 今のジュニア世代の選手にも「遊びのスキー」を伝えてるんですか?

「今若手のアルペン競技でトップにいる加藤聖五(かとうせいご)と若月隼太(わかつきはやた)の2人には、幼稚園の頃からずっと、競技だけでない幅広いスキー観を持てと言ってますね。

スキーは遊びであって、その根っこの部分はレースの結果には関係ないと。

『世界で勝つためには徹底的に考え抜いてトレーニングをやらなければいけないけど、そのストレスを遊びのスキーでケアするんだ』って。スキーってそういうもんだって植え付けてきた。

テクニックやフィジカルに関しては彼らのコーチに任せて、俺はとにかく一緒に遊ぶ。地形遊びから、パークから、ついてこいって言ってずっとフリーライディングしてる。

フリーライディングで心のテンションを緩められる選手は強いですから。そのやり方を教えてます。

-- 遊びの時間をトレーニングの間に入れるのは、短期的に成績が下がるとか、怪我のリスクとかもあると思います。コーチや親が、実際に取り入れるのは難しいかもしれないですね。

「『遊びは無駄な時間だ』って言う人もいるけど、それは勇気がないだけなんですよ。

じゃあ何が無駄で何が勝つための近道なのか。それが分かるなら俺も今からもう一回、正しいことだけやって、オリンピック目指しますね。(笑)

分からないからあらゆることをやらないといけない。

俺は、レースのコースだけじゃなくいろんなところを滑って、食から、マインドの持ち方、治療法、あらゆることをいろんな角度からトライしました。

そういった知識とトライアルの数はどんな分野のアスリートにも負けないと思うし、お金も時間もかけました。

オリンピックまで365日を4年間、毎日何をやるか、どこで風邪をひくかまで全部計算して動いていた。俺の場合、6月1日から7日間だった。」

-- どこで風邪をひくかまで。

「そう。免疫を作る時期です。そういう試行錯誤は無駄ではないんです。

それを無駄だと考えてしまうので、日本はどのスポーツも勇気を出したアクションが少ないんだと思いますね。」

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スキーを続ける道

-- 一般の人に範囲を広げても、スキーをする日本人はすごく減ってますよね。若い時に体験したスキーを社会人になっても続けてもらうことはスキー業界の大きな課題だと思います。

「結局続けられるかどうかは、スキーをするためのお金をどう稼げるかにかかってると思う。」

-- お金を稼げるかどうかは、若い人がスポーツを始めたり、続ける決断をするのにとても重要な要素ですね。

「重要だね。スキーをやっている若い人が、将来の仕事も含めていろんな選択肢を持てるようにしないといけない。

それを今すごい勢いで作っているのが全日本スキー連盟常務理事の皆川賢太郎さん。賢太郎さんの持ってるビジネスの世界も含めた多角的な人のつながりは、未来のスキーヤーに新しい道を作ってる。」

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オープンマインドが遊びも仕事も楽しむ人間を作る

-- 他の競技でも言われていることですが、日本では伝統的にスポーツ=教育で、スポーツをビジネスやレジャーに繋げることを良しとしない文化があることも弊害になっている気がします。

「日本の教育は基本的に、『気を付け、前倣え、休め』でしょ。

そこには言ったことをしっかりやるっていう日本人の強さもあるんだけど、何を目標にするのか、目標に対してどうアプローチしていくかを、多角的に考えられる人間がもっと生まれてもいいんじゃないかなって思う。

若い人には、自由な、オープンマインドを常に持って、どんなシチュエーションにもフィットできるようになってほしいですね。若いうちから「俺にとっての幸せはこれ」とか、自分の器を決めてしまわないほうが良い。

人はだれでも、遊びと仕事のバランスを決めて生きていかないといけない。それは自分にとって何が豊かかっていうことを知って、自分の感性で決めるしかない。

仕事でしっかりお金を生んで、そのお金で楽しんで。楽しむことで仕事のクオリティーも上げていく。俺だったら、新しいサーフボードをシェイプするために、アスリートのときやってこなかったような仕事も頑張ろう、って考える。

よく陸上の末續慎吾くんとサーフィンするんだけど。彼とサーフィンをしながら『生きることって何だろうね』っていう話をするんですよ。それで、やっぱり遊びも仕事も楽しむ、っていうところにたどり着くんですよね。」

-- 明さんは今遊ぶためにどうやって稼いでるんですか?

「今の収入源は大きく分けて2つあって。

1つは、スポンサーから頂いている契約金。これは全部スキーの活動に使うと決めていて、生活費には使わない。

生活費は自分の会社の事業で作っていってる。ゴーグルのブランドを立ち上げたり、トレーニングジムのコンセプトメイキングだったりコンテンツプロデュースだったり。

遊ぶためのお金を作るという意味では、俺は最近都内から辻堂に引越したんだけど、それだけで月10万ぐらい浮く。浮いたお金でスキーとかサーフィンに行けるし、キャンピングカーも買ったんだよね。そう考えると、世の中無駄なことって結構多いですよね。

俺のゴールはずっとスキーを続けること。賢太郎さんみたいに、ビジネスとか、公的な仕事に力を入れるのとは少しやりかたが違うけど、キッズやジュニアに、ずっとスキーをする道を見せてあげられたらいいなと思いますね。」

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佐々木明(ささき・あきら)

スキーヤー、SAJアルペン競技アドバイザー、EMUSIオーナー。

北海道北斗市出身。3歳でスキーを始め、16歳でアルペンスキーの日本代表に選出される。19歳で世界選手権、その後ワールドカップでデビュー。4大会連続で日本代表に選ばれた。競技引退後は、スキーヤーとしてビッグマウンテン(バックカントリー)を主な活動の場としている。

【この記事は、Yahoo!ニュース 個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】