今、世界の目がかつてないほど気候変動に向いている。

SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、企業が競い合うように取り組みを始めた。16歳の環境活動家の訴えが大衆を沸かせ、世界全体で660万人が抗議運動に参加した。

日本でその気候変動の影響を真っ先に受けているのが、スノー産業だ。10年後には自分たちの仕事がなくなってしまうかもしれない──。筆者もたびたび雪山を訪れるが、目の前で起きている変化を深刻に捉える声は、雪山に近いところにいる人ほど大きい。

自然電力株式会社は、創業メンバーがスノーボーダーでありサーファーというところにルーツがある会社だ。雪山と海を守りたいという思いから、2011年に自然エネルギー発電所を作る事業を立ち上げ、現在では社員数200名まで成長した。

 

自身もスノーボードとサーフィンが大好きで、自然を守るためにもエネルギー産業の転換に人生を賭けてきた自然電力・長谷川代表には、スノー産業に関わる人にこそ真っ先にアクションを起こして欲しいという思いがある。2019年4月には、フリーライドの世界大会Freeride World Tourを日本で運営するFWTジャパンと組んで、自然エネルギーで雪を守る「FWT DENKI」の提供を開始し、スノーコミュニティへの普及を進めてきた。

 

しかし、雪山を愛するがゆえの環境への強い想いから、選択に慎重になる人もいる。「自然エネルギーに変えようとしたんだけど、最後の一歩がね」と話す、スノーボード雑誌DIGGIN' MAGAZINE編集長のDie Go(ダイゴ)氏もそのひとりだ。

 

スノーコミュニティの中心で活動しているDie Go氏と自然電力・長谷川代表。

 

スノーボードと自然を愛する気持ちをそれぞれの手段で形にしてきた2人の対談で、「雪を未来に残す」ための取り組みの本質と可能性を探った。

 

FWT Hakuba Japan 2019にて(左からFWTジャパンマネージングディレクター後藤陽一、FWT Management SA CEOニコラ・ハレウッズ、自然電力代表取締役 長谷川雅也、FWTジャパン代表 宮田誠)
FWT Hakuba Japan 2019にて(左からFWTジャパンマネージングディレクター後藤陽一、FWT Management SA CEOニコラ・ハレウッズ、自然電力代表取締役 長谷川雅也、FWTジャパン代表 宮田誠)

 

プロフィール

 

Die Go

スノーボードジャーナル『DIGGIN' MAGAZINE』の編集者。締め切りに追われ低気圧を追うスノーボーダー。冬の間は車中泊スタイルで日本各地のスノーフィールドに潜伏、もしくは転々とし、ローカルと行動を共にするため、自宅へ帰ることを3ヶ月ほど忘れてしまう。東の空にオリオン座が見えるとソワソワする習性あり。

 

長谷川雅也

大学卒業後、アビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)にて、大手金融機関向けの業務改善プロジェクトに従事。その後、風力発電事業を行う会社にて風力発電所の開発や事業計画等を担当。

2011年6月自然電力(株)を設立し、取締役に就任。翌年12月に代表取締役に就任(現職)。2013年1月juwi自然電力設立後、2018年6月まで同社代表取締役を務める。現職にて、主に案件開発、新規事業、自社保有発電所の運営を担当。

 

サーフィンとスノーボードにのめり込んだ青年時代

 

Die go: 長谷川さんご自身がスノーボーダーであり、スノーコミュニティに電気を広げようとしていると聞いて、自然電力さんへの関心はものすごく高いんです。

 

でもどこかで半信半疑なんですよね。環境問題へのアクションとして、「民間企業が売る電力」を選択することが果たして正しいのかと。結局のところ、「自然エネルギー」という商品を顧客へ販売する民間企業のアクションなのであって、その背景や理念を知り得ない限り、半疑の部分が拭えないんです。だからこそ、まずひとりのスノーボーダーとして納得出来るような話を聞いて、仲間たちにも同じ目線で届けられればと、今回の機会をいただきました。

 

長谷川:ありがとうございます。電力を切り替えることには、数々のハードルがあると思います。

 

僕は極端な話、自然電力が作った電気でなくても「自然エネルギー」に切り替えればいいと思うのですが、僕らが胸を張って言える違いもあるので、今日はすべてお伝えします。

 

Die go:そうしたら、まず「電力会社代表の長谷川さん」ではなく「サーファー&スノーボーダーの長谷川さん」としてのお話から聞かせてください。なかなかこういう方にお会いするチャンスもないですから。

 

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長谷川:僕は栃木県佐野市に生まれ、同世代の親戚の子どもたちと山に入ってキノコを採ったり、川で捕まえたザリガニを茹でてみたり、とにかく自然がいつもすぐ近くにある環境で育ちました。

 

ところが、6歳で東京に引っ越すことになってしまって。キラキラした自然たっぷりの田舎から、ビルに囲まれて空気が悪い都会へ来て、天国から地獄に落ちたかのように感じました。結局大きくなっても、飲み会してクラブで朝までみたいな都市型の遊びにはなじめなかったんですよね。

 

夢中になれたのはやっぱり自然のなかの遊びで、親に連れられてスキーをするうちに、もっと自由に思えたスノーボードに興味を持つようになりました。

 

中学生だった当時、短期留学で訪れたアメリカ・ユタ州で、安く板を手に入れました。バインディングまで買うお金がなくて、直に乗っかって遊んでいたのですが、しばらくすると装備も揃えて毎年ニセコに滑りに行くようになりました。

 

逆エッジで何度も頭を打って、でっかいキッカー飛んでは骨折しまくり運ばれていく……みたいな無謀な遊び方をしていましたね。みんな中学生だからぶっ飛んじゃうんですよね

 

Die go:当時は教えてもらえるような時代じゃなかったですからね。ギリギリの瀬戸際を攻めて時に痛い目にもあいながら学んできました、という人は、一緒に遊んでいても自然に対する距離感が近いのですぐ仲間になれますね。

 

長谷川:横乗りの文化って、最初は邪魔者でしたもんね。誰も手を付けていないことにチャレンジする感覚も、自分はけっこう好きでした。

 

滑れるようになるとバックカントリーに入って、何日も泊まり込んで滑るようになりました。ラインが1本もない斜面をぶわっと滑り降りて、埋もれて危ない状況になりながらもやめられなくて。その瞬間って頭の中で絶対何か出てるんですよね。

 

大学生になり車が運転できるようになると、年中できるサーフィンのほうが時間が長くなっていきました。真冬にノーズに雪積もらせながら波待ちしているときは、何やってるんだろうなと思いましたけど(笑)

 

スノーボードもサーフィンも、幼いころに大好きだった自然を突然奪われてしまった僕にとって、自分のアイデンティティそのものになっていったんです。

 

雪や海に救われて、風力発電の世界に

 

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Die go:そういった経験は、仕事人としての考え方にも大きく影響していたんじゃないですか。

 

長谷川:大学院を出てコンサルティング会社に入ったのですが、ハードワークを続けるに従って、サーフィンやスノーボードの存在はどんどん大きくなっていきましたね。

 

根性で朝から晩まで働く世界で、優秀な同期たちが倒れていきました。僕も42日間連続で働きづめでさすがに参っていたとき、ふと休みが取れて海に行くことができたんです。何時間も海にいたあとに食う飯は理屈抜きに劇的に美味くて、僕は海に入るとすごくリセットされるなと思ったんですよね。

 

ちょうど同じ頃、『不都合な真実』という映画を見ました。今世紀末には平均気温が最大6℃くらい上がり海面も80cm上昇する、というようなことが赤裸々に描かれていたのですが、そうなったら雪なんて絶対に溶けるし、ビーチも波もなくなってしまう。自然に深く入り込んでいたので、危機感を肌で感じました。

 

Die go:『不都合な真実』は僕も見ましたが、自然のなかで遊んできた人間とそうじゃない人間とで、感じ方は変わりますよね。“自分のフィールドかどうか”という意識の差は大きい気がします。

 

長谷川:サーフィンもスノーボードもやっていなかったら、ピンと来なかったでしょうね。

 

僕は自分の身体が動かせる限りスノーボードやサーフィンを続けたい。歯磨きみたいな、人生のパーツにしたいと思っているんです。

 

これは何か動かないとまずそうだぞ、と真剣に考えるようになり、もともと友人で風力発電事業に携わっていた磯野(自然電力共同代表)と再会して話を聞くことになりました。

 

電力についての知識もあったわけじゃないし、その風力発電の会社も知らなかったんですが、今この瞬間にも日が昇って沈んで風が吹いて、地球は止まることなく循環していて。生きるために必要な「電気」を作ることで波や雪山が維持できるなら、それ以上のことはないじゃないかと。

 

無知だったからこそ、解像度の粗いところで本当に大事なことに気づけて、その風力発電の会社で勝負してみることに決めました。

 

危ないからこそ飛び込む横乗りマインド

 

Die go:それでエネルギー産業の世界に入られたんですね。その後、自分たちで会社を立ち上げられるまでの経緯は?

 

長谷川:実は、そこからが人生イチのどん底でした。風力発電会社では、週末のサーフィンもスノーボードも返上で公民館や漁業組合を回り、風力発電所の建設を進めていたのですが、インフラ事業は地元の反発も強く、そう簡単にはいきませんでした。

 

当時、表向きは最先端のエネルギーと言われていても、地元で実際に起きていることは全然違ったんですよね。

 

ちょうどその頃に結婚したのですが、反発を受けてほぼすべてのプロジェクトが止まってしまって。資金状態も厳しく、1年ほどは身銭を切る日々でした。

 

さすがに耐えかねて転職を考えだしたとき、2011年3月11日の大地震があったんです。

 

テレビで水素爆発の映像を見た瞬間、僕がずっと大切にしてきた青い海や白い雪がフラッシュバックしてきました。大好きな場所に一生戻れないかもしれない、二度と取り返せなくなるかもしれない──。

 

今は本当に苦しいけれど、、絶対にこの業界から離れてはダメだ。自分が今挑戦しなくて誰がやるのかと。その翌日、一緒に働いていた仲間で集まり、自分たちで新たに会社を立ち上げることを決意しました。

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Die go:そこまでの強い信念があっても、頭の片隅では「ビジネスとして成り立つか」を考えると思うんです。バランスが取れるイメージはあったんですか?

 

長谷川:具体的な事業プランは全くありませんでした。当時は発電所を買う人なんていなかった。誰もやったことがなく分からないので、拒絶反応を示されやすい事業でしたからね。

 

Die go:そこで行動に移してしまうのがクールですね。

 

長谷川:反逆者精神みたいなものは、横乗りのマインドから来ているのだと思います。事業をやっている親戚にも「絶対に苦労するからやめておけ」と止められました。でも、絶対にやめろと言われたら……、やりますよね?

 

Die go:僕たちはそういう人種ですね(笑)

 

長谷川:はい。スノーボーダーの自分が、「だからやるんでしょ」と。でも斜に構えていながらも、最高に美しい自然を思い出しているときの自分は、結構ピュアだと思うんですよ(笑)

 

雪のコミュニティへの期待

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Die go:最近は、作った電気を白馬などの雪山へ広げようとされています。電力を作るだけでなく、売る・届けるところまで全工程をやりきることには、どんな意図があるんでしょうか?

 

長谷川:「電気を作る」ということはこれまでプロフェッショナルとしてずっと続けてきました。一方で「使う」という要望がないなかで「作る」だけをやっていても、どこかで頭打ちになってしまいます。

 

自然電力の存在意義は「青い地球を未来につなぐ。We take action for the blue planet.」で、それを実現するには、「私は自然エネルギーでいきたいんだ!」という仲間を増やさなければなりません。使う人が増えるから僕たちもどんどん作らないとね、という状態を作りたいんです。

 

雪山や海でずっと変化を見てきた人たちこそ、真っ先にその「仲間」になってくれるはずだと信じています。

 

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Die go:僕らスノーボーダーから始まらなくて、どこから始まるんだって話ですね。

 

長谷川:そうなんです。16歳の環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんが、「私たちの未来を奪わないで」と大人に向けて訴えていますが、ここに気づいてほしいんです。

 

たとえば車でスノーボードに行きますよね。エンジンをかけて3時間ほど車を走らせます。その行為自体が、10年後の雪山が開いている期間を数日縮めているかもしれない。滑り終わって寒い寒いとつけた暖房が、そのコンセントの先で実は化石燃料が燃やされて、未来の雪を溶かしているのかもしれない。

 

自分たちが雪山に向かってする行動が、雪山の命を削ってしまう。スノーボーダーやサーファーたちこそそのことを自覚し、未来の子どもたちにフィールドを残すアクションを起こしていってもらえたらと思います。

 

スノーボーダー発、信念ある消費選択を

 

Die go:雪の世界で生きている人で、環境問題にまるで無関心な人はもういないと思います。ペットボトルを使う仲間もほとんど見かけなくなりました。露骨に雪が減ってますから。これマジで10年後どうなるんだろうね、というのは仲間内では当たり前の会話です。

 

でも彼らの中にも、まだ電気を切り替えていない人は多いんですよね。「信念」を貫くことは大事ですが、どうすれば「経済」を成り立たせていけるのでしょうね。

 

長谷川:そこは僕らにとっても課題です。自然エネルギーにしても電気の見た目は変わらないし、生活が劇的によくなるようなこともない。

 

だからこそ、電気を選ぶことをライフスタイルと捉え、自分の消費選択に誇りを持つ人たちのコミュニティを作りたい。これはDie goさんの周りにいらっしゃるような人たちと一緒に形にしていきたいもののひとつです。

 

Die go:やりたいですね。北米やヨーロッパでは、リフトを動かす電力を、スキー場コース内に設置した太陽光パネルでまかなうようなところも出てきています。日本でも環境意識の高い白馬などは、世界のモデルケースになっていけるはずですよね。

 

バカみたいな発想ですが、スノーボードの板に太陽光パネルを貼り付けて、今1本滑ってきた間に蓄電したエネルギーで1人分のリフトを動かします、とかね。何かアクションを起こすならそういうファンキーなことをやりたいよねと仲間と話したりするんですよ。

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長谷川:そういう「面白さ」も必要ですよね。今世界では、アディダスが海洋プラスチックゴミから作った靴が爆発的に売れていたり、パタゴニアのロゴ入りTシャツが若者に流行っていたりと、ある種のブームのようになっています。

 

課題意識の押し付けではなく、楽しめる要素がないとマスには届かない。知識のある専門家だけでなく、スノーボーダーみたいな人たちにこそ発信してもらいたいと思うんですよね。

 

Die go:雪山とか海のフィールドの住人たち発で堅苦しくないムーブメントを起こしていけたら、未来は明るいですよね。僕らも「あそこの電気屋さんが面白いことやってるんだよ」と、自然な輪を広げていけると思いますし。

 

狭い視点でロケーションを独占するのではなく、もっと広い意味でフィールドを残すために動いていかないといけませんね。

 

長谷川:ぜひ一緒にやっていきましょう。本音を言えば、しっかり膝を突き合わせてこういう話をして、じゃあその電気にしよう!と気持ちの奥から変えてくれるのが理想です。

 

でも現実的には、もっとシンプルでいい。サーファーやスノーボーダーの欲って、削ぎ落とせばただ「自然を楽しみたい」というだけですよね。

 

その気持ちはあるけどアクションのしかたがわからない、という人たちにとって、僕らの自然エネルギーがひとつの選択肢になれば嬉しいです。数々のご縁から生まれたスノーコミュニティとの接点を、これから大切に育てていければと思っています。

(写真撮影 筆者)