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コロナ禍の家飲みでアルコール依存症が急増中⁈気を付けておきたいパートナーの「お酒」が原因の離婚問題

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:アフロ)

1コロナ禍における「お酒」の問題

緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置で、飲食店における酒類の提供が停止、自粛要請となった都道府県があるのはご存じの通りです。

緊急事態宣言、まん延防止措置の趣旨は、一部地域における感染の急拡大を封じ込めることにあり、現在、東京都、大阪府、兵庫県、京都府で飲食店による酒類提供が終日停止され、埼玉県、千葉県、神奈川県などでも自粛の要請が行われています。

それに伴い、ますます「巣ごもり」による「家飲み」が増加すると思われます。

実際に、新型コロナウイルス感染拡大の影響で自粛生活が続く中、「自宅でお酒を飲む機会が増えた」という声をよく耳にします。

https://news.yahoo.co.jp/articles/99a21ab67fc9538f533da9d07e8f14e60554fc09

一方、コロナ禍などのストレスを抱えたまま多量飲酒を続けると、アルコールによる健康被害や、アルコール依存症のリスクが高まることが危惧されます。特に家飲みということになれば、飲食店のように閉店時間はありませんので、だらだらと飲み続け、酒量がすすむという話もよく耳にしますし、実際に、離婚相談においても、配偶者の多量飲酒や酒乱に悩む相談が増えてきています。

今回は、離婚につながらないために、気を付けておきたいパートナーのお酒の問題についてお話していきたいと思います。

2離婚原因で「お酒が原因」は何位?

最高裁判所が開示している令和元年度司法統計のデータによれば、夫婦が離婚に至る原因は男女とも「性格の不一致」が第1位で、女性のみの申立て件数では、17,242件となっています。2位の「生活費を渡さない」が12,943件、3位の「精神的に虐待する」が11,094件、4位の「暴力を振るう」が9,039件、5位の「異性関係」が6,800件、「酒を飲みすぎる」は2,774件で10位となっています(「婚姻関係事件数申立ての動機別申立人別全家庭裁判所」による)

順位としては高くはないものの、「お酒を飲む」という日常の行為が原因で、それが女性の全申立て件数46,756件の中の5.9%を占めていることを考えると、かなり高すぎるようにも感じます。

また、このデータは令和元年度のものですので、コロナ禍を経て、今後はさらに女性の離婚原因において、ますますこの「酒を飲みすぎる」が増加していくことが危惧されます。

3アルコールに問題を抱える人の8つのチェックポイント

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトによると、アルコールは依存性のある薬物の一種であり、飲酒を続け、耐性・精神依存・身体依存が形成され、飲酒のコントロールができなくなる状態がアルコール依存症ということです。アルコール依存症になると、身体・仕事・家族関係などの様々な問題が起きます。(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-05-001.html

アルコール依存症とは、酒に酔って問題を起こすこととは異なりますので、飲酒をきっかけに突然性格が変わって粗暴な発言や、無意味または理不尽な暴力行為に及ぶ「酒乱」とは区別されます。

両者の大まかな違いは、酒乱がたまにしか酒を飲まないが、酔った時に暴言や奇行等の問題を起こす人のことであり、これに対してアルコール依存症は、比較的穏やかに酒を飲んではいるが、毎日のように飲酒するなど、飲酒がコントロールできない人のことであるというとわかりやすいでしょう。

ただ、いずれも必要以上にアルコールを摂取することで心身の健康や日常生活に悪影響を及ぼしかねないことは共通しています。

アルコールが原因で離婚問題に発展することを避けるためには、まずパートナーにその傾向があるかどうかを知ることが第一です。

私がこれまでに担当してきた離婚案件では、あくまで私見ではありますが、酒乱やアルコール依存症が疑われるパートナーには、以下のような傾向が見られました。

参考にしていただければと思います。

最近、あなたのパートナーにはこんなところがありませんか?

【アルコールに問題を抱える人のチェックポイント8】

□以前より、酒量が増えてきた

□お酒を楽しんで飲んでいない

□ストレスが溜まりやすい職業についている

□仕事を楽しんでいない

□家系的に酒乱の気がある

□趣味がなく、ストレス発散は主にお酒である

□普段はおとなしく、思ったことを言えないタイプである

□お酒が原因で、仕事に穴をあけたことがある

このチェックポイントが気になる場合は、対策を真剣に考えてみる必要があるかもしれません。

4リモートワークで夫が昼からお酒を飲んでいる……相談者かず子さんのケース

以前、ご相談に来られたかず子さん(仮名/40歳/主婦)も、このチェックポイントに夫がほとんど当てはまると言っておられました。

『夫とは、同じ不動産会社の営業企画部で、先輩後輩の間柄でした。

夫は職場では仕事が出来てリーダーシップもある頼りになるとても先輩で、私はすぐに惹かれました。私から交際を申し込んでオッケーをもらい、2年の交際を経て結婚しました。

憧れの男性と結婚できたのですから、当時は幸せの絶頂にいたと言っても過言ではなかったと思います。

ただ、私たちが勤務していた不動産会社は、給料が良い代わりに残業が多くてストレスが半端なく、退職者が後を絶たないことで有名な職場でした。私も結婚を機に寿退社をして専業主婦になりました。

結婚当初から、夫はほとんど毎日、接待で飲みに行っていました。

ですが、終電までには帰宅して、「あ~、今日はホントまいったよ。部長に飲まされちゃってさあ」などと言いながら、私の作ったお茶漬けを食べるのが日課でした。

その頃は、お酒に飲まれるなんてことはなかったと思います。

ところが、去年から目に見えて飲酒量が多くなってきました。

コロナによるリモートワークが増えてきたことと、可愛がってもらっていた部長が転勤し、一つ下の後輩が部長に抜擢され、上司になったことが原因だと思います。夫は何も言いませんでしたが、私の同期だった女性がそれとなく教えてくれました。

実際に接待は激減しましたから、付き合いで飲みに行くことはほとんどなくなりましたが、夫は家でウイスキーなどの洋酒の強いお酒を飲むようになったのです。

お酒がなくなるスピードも半端なく、通販でケースごと購入しても、1週間も持たずなくなってしまいます。しかもリモートであることをいいことに、昼から水割りを飲んでいたこともあります。

夫は、酒乱ではないけれど、立派なアルコール依存症だと思います。

今のところ、他人に迷惑をかけることはありませんが、午後5時くらいから飲み始め、うつろな目をしている夫を見ていると、父親として子供たちにも良い影響を与えているとは言い難いですし、あの魅力的な夫はどこにったのかしら?と思い、つい冷たくしてしまう自分がいます。

最近は、夫が家にいること自体が嫌でたまらなくなってきて、離婚も視野にいれないといけないと思っています』

かず子さんは深いため息をついて、途方に暮れた顔をしていらっしゃいました。

実はかず子さんと同じような相談は、今年になって、頻繁に耳にするようになりました。コロナ禍における「お酒」が原因の離婚問題は、ひっそりと、しかし確実に家庭を蝕んでいっているように感じます。

5アルコールの問題に家族は何ができるか?

私は、アルコール依存症や酒乱の原因は、ほとんど「ストレス」だと思っています。

アルコール依存症や酒乱の人に共通しているのは、「楽しそうにお酒を飲んでいないこと」

お酒自体は、悪いものでもなんでもないのですが、度が過ぎると健康に悪影響を及ぼします。

家族や夫婦の問題として考えたとき、パートナーがアルコールに関して問題を抱えている場合には、その原因となったであろうストレスを取り除くことが重要です。

辛抱強くパートナーの話を聞いてあげることから始め、ストレスの原因をすべて吐き出させ、その上で一緒に対応策を考えることもできるかもしれません。

「アルコール依存症治療ナビ」では、アルコール依存症の相談ができる最寄りの専門医療機関(病院)、行政機関(保健所、精神保健福祉センター)が検索できますので、一度ご相談に行かれることもご検討ください。

http://alcoholic-navi.jp/

6パートナーの日々の飲酒時の言動に気配りを

私のクライアントの男性で、アルコール依存症で別居していた後、ご自身で努力して改善し、家族とまた暮らすようになった男性が数名いらっしゃいます。

ある方は、飲酒時の彼の言動に苦しんだ妻が子供二人を連れて実家に帰ってしまったのですが、その後夫婦でカウンセリングを受けたり、減酒外来に通うなど努力し、徐々にアルコール依存から抜け出すことができたと仰っていました。

幸運にも、妻も彼の変化を理解してくれて、再度やり直すことができ、今は家族4人で幸せに暮らしておられます。

ただ、この方はご家族の厚い協力が得られ回復に向かったケースで、どんどんアルコール依存が進んでしまった結果、離婚した上にお子さんとも音信不通という最悪の事態になってしまった方もいらっしゃいます。

家族や周囲が協力して本人を支えることが必要ですが、やはり本人が本気で依存症を断ち切ろうという気持ちがなければ、周囲にできることは限られています。

まずは本人にアルコール依存(もしくは酒乱)であることをしっかり認識してもらうことから始めてみましょう。

お酒は楽しく飲めば、日々のストレスを解消するツールになります。限度を決めれば、コロナ禍の「家飲み」が家庭崩壊につながったと言った悲惨な事態は防げます。

「家飲み」についても、「10時以降は飲まない」とか、「1日〇杯まで」などと家庭内のルールを作ってみるとよいでしょう。

お酒の問題は、日常的なだけに誰でも陥る可能性があります。

こうした問題について事前に知っておけば、その予兆があらわれた際にすぐ気づくことができます。コロナ禍における家飲みが原因で酒量が増えてしまい、結果として離婚につながらないように、パートナーの「お酒」の問題は日々注意していきたいものです。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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