「ゴーン追放」で経営崩壊の日産、新型コロナ危機を乗り越えられるのか

日産自動車第3四半期決算発表を行う内田社長(写真:つのだよしお/アフロ)

新型コロナウイルスによる世界的な感染拡大の影響で、世界各地で工場停止や販売急減に見舞われている日産自動車が、大手金融機関に、融資枠(コミットメントライン)の設定分を含めて5千億円規模の融資を求めていると報じられた。中国では、2月の販売台数が前年同月比8割減で、3月も4割超減った。米国では、1~3月の販売が前年同期比30%マイナスとなるなど、同業他社と比較しても日産の自動車販売の減少は著しく、深刻な経営状況にある。感染拡大による世界的な自動車販売の激減は、その後に本格化しているのであり、現在の日産の経営状況は、まさに数字にできない程悲惨な状況だと言える。

こうした中、日産の内田誠社長の【「脱ゴーン」私の秘策を語ろう】と題するインタビュー記事が、文芸春秋5月号に掲載された。早速読んでみたが、そこで内田氏が述べていることは「秘策」どころか、全く在り来たりの、内容のないものだった。

4月15日に発売する拙著【「深層」カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%超が有罪となる国で】では、昨年11月下旬から12月にかけて日本で行ったインタビューでのゴーン氏の話に基づき、「ゴーン会長追放クーデター」をめぐる「謎」に迫った。

新型コロナウイルスによる自動車販売の消滅という重大な経営危機に直面している日産にとって、ルノー・日産・三菱自動車の3社のアライアンスをゴーン氏が掌握していた「ゴーン会長体制」と、内田氏をトップと現在の日産の経営体制と、危機を克服するために、どちらの体制が望ましかったのか。

ここでゴーン氏が話していることと、上記記事での内田氏の話を読み較べてみると、自ずと明らかになる。

ゴーン氏には、客観的で論理的な「経営哲学」がある。自分自身が見舞われた日本での逮捕・投獄という危機的な状況においても、合理的に考えようとしていた。

出国後、初めてレバノンのゴーン氏とテレビ電話で話した際、全世界に衝撃を与えた「日本からの脱出」を決断したことについて、その成功確率についてどのように想定していたのかを問うたところ、ゴーン氏は、次のように述べた。

計画時にはもちろん100%成功させるという計画を立てたが、計画を立てた段階で予想できない事態が最後の最後に起きることもあることを考慮に入れると75%の成功率。しかし、裁判がいつ行われるかについて全く先行きが見えなかったこと、そして、公平な裁判が受けられる可能性が全く見えてこなかったことから、私はこのリスクをとった。

日本の刑事裁判で保釈中のゴーン氏が、保釈条件に違反し、日本の出入国管理法を犯して不法に出国した行為は、明白な犯罪行為であり、決して容認することも、擁護することもできない。しかし、相応のリスクと、ゴーン氏にとっても決して少なくない金額である15億円の保釈保証金の没取を覚悟してまで出国することにしたゴーン氏の「決断力」は、凄いと思う。「失敗」が少しでも想定されるとすれば、並みの人間にできることではない。

一方、まさに未曽有の危機に直面している現在の日産の経営トップである内田氏が、インタビューの記事で語っていることは、「構造改革のロードマップを少し見直さなければならないかもしれません」「私が就任直後から取り組んだのが、国内外の販売拠点や工場など多くの現場に足を運んで生の声を直接聞くことでした。」という程度である。

拙著でのインタビューには、ゴーン氏が当時の日産の経営幹部の評価について述べている部分もある。

前社長の西川廣人氏については、

西川はナンバー2としては非常に優秀だったことは認めたい。言われたとおりに動く。タフな人間。日本人の多くは人あたりがよく、厳しく振舞うのを遠慮する。一方、厳格で人にも自分にも要求がきつい人が起業家として成功する。ソニーやホンダの創業者などもそうだ。この人達はお人よしではない。大企業の創設者は皆、タフガイ。西川はそのバランスがとれた人材、ものすごく厳しい。ただ創意工夫が足りず、コミュニケーションがよくなく、カリスマ性が充分ではない。

一方、長く、ゴーン氏の下のナンバー2であった志賀俊之氏については、

彼はお人好しで、立て続けの業績低迷の前で、時々弱みを示すことがあった。大きな会社を経営するときにはどうしても鬼にならないといけない。それができない人はCOOとして務まらない。

と述べていた。

インタビューの時点で既に新社長に就任して内田氏について、ゴーン氏は、(事件と無関係なので著書では触れていないが)

いい人。だが、いい人がいい経営陣にはなるとは限らない。

と話していた。経営者としての能力・資質については、志賀氏と同様の評価ということであろう。

内田氏がインタビューで述べているのは、ゴーン氏が言うところの「いい人」の発想そのものだ。「私が就任直後から取り組んだのが、国内外の販売拠点や工場など多くの現場に足を運んで生の声を直接聞くことでした」「企業経営においては、部下や現場の意見のだいたい八割は正しいものです。その声を聞きながらガイド役である経営陣が、残りの二割を補うのが理想の経営」「会議の場で安易に結論を出すのではなく、普段から部下たちの『八割の話』を聞くように心がけています」と言っているのが、まさに、従来の日本的企業で定着してきた「ボトムアップ型意思決定」だ。

そして、新型コロナの感染が拡大した現状の認識を聞かれても、「リーマンショックを超えるインパクトになる可能性も高く、構造改革のロードマップを少し見直さなければならないかもしれません」という程度であり、「社長とは何か、これを突き詰めていくと、会社のために決断行動する際に断固とした覚悟を持てる人間かどうかということに尽きます」と述べているが、現在の危機的な状況にどう対応するのかについては、「コミュニケーションを密にすることで、経営方針をきちんと理解してもらう。そして、未来に向かって進むベクトルを一致させる」というものである。

このような、役職員の一体感やモチベーションを高めることを重視し、組織内での「円滑な人間関係」にこだわる考え方は、「平時」の経営には適していても、危機的状況において必要とされる大胆な施策をとることはできない。

ゴーン氏は、1999年、倒産寸前だった日産をV字回復で救済し、記事で内田氏が述べているように、「リーマンショックや東日本大震災の時は、ゴーン会長がいち早くリカバリープランを作ることで、他社に先駆けて業績回復を成し遂げた」。

そして、これらの危機を乗り越える過程で、ナンバー2であった志賀氏について、「お人よし」であるがゆえのCOOとしての能力の限界を感じ、西川氏に交代させた。

今の日産に必要なのは、危機的な状況を的確に把握し、それを乗り越えるための冷徹な判断力と、危機克服に向けて企業組織全体を率いていく強烈なリーダーシップと、経営者としてのプロフェッショナリズムである。

西川氏ら日産の日本人経営陣が「社内調査の結果明らかになった」としたゴーン氏の不正が、検察に情報提供して逮捕させ、会長の座から引きずり下ろすことが当然の、「悪質・重大な犯罪」だったというのであれば、ゴーン氏は「犯罪者」であり、「経営者」としての資格はないということになり、経営者としての内田氏との比較を論じるまでもないということになる。

しかし、「未払いの役員報酬」の虚偽記載の問題は、そもそも犯罪の成立自体に重大な疑問がある。「中東ルート」の特別背任なども「無理筋」の刑事立件であり、弁解を聞くこともなく、来日直後に突然逮捕することの理由になるようなものでは全くないこと、刑事事件にされなかった「不正」も含めて、「日産社内で解決すべき問題」であったことは、前掲拙著で述べているところから明らかだ。

「脱ゴーン」によって、ルノー・日産・三菱自動車3社のアライアンスの基盤は崩壊し、3社の業績は急激に悪化した。内田社長の下、経営の軸すら定まらず、求心力なく迷走する日産は、新型コロナウイルス感染拡大による自動車販売の消滅と、感染終息後にも生じることが予想されている自動車産業をめぐる環境の激変という、未曽有の危機を乗り越えることができるのであろうか。

「ゴーン会長追放クーデター」が、日産の株主・社員・取引先に与えた損失はあまりに大きい。