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「第三者委員会」の明言が根本厚労大臣の“最大の失敗”

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:ロイター/アフロ)

 1月22日に、厚生労働省が、「第三者委員会」として設置した「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の調査報告書を公表した時点でYahoo!ニュースにアップした【”報告書公表まで7日間”の「第三者委員会」はありえない】と題する記事で、以下のように指摘した。

 1月16日の委員会の設置の段階では、「調査の中立性や客観性を明確にするため計6人の外部委員で構成する第三者委員会としての特別監察委員会を設置、初会合で根本匠厚労相は、早急な原因究明と再発防止策の策定を委員に要請した。」と報じられていた。また、今回公表された調査報告書にも、「第三者委員会として設置されたものである」と明記されている。

 しかし、この委員会は本当に「第三者委員会」と言える存在であり、初会合で厚労相から独立した委員会としての調査を委嘱されたのだろうか。そうであれば、それ以降は、委員会が主導して「何をどのように調査し、どのように原因究明、再発防止策策定」を行うのかを決定し、委員会の責任において調査を行い、調査結果を取りまとめる、ということでなければならず、いずれにしても、日本の行政組織の信頼そのものを大きく揺るがしかねない今回の問題について、その真の原因を徹底して究明することが必要なのに、「言語道断である」「考えが甘すぎる」「想像力が著しく欠如していた」などという「叱責の言葉」が並び、ありきたりの「見方」が示されているだけだ。調査の結果明らかになった事実に基づく原因分析らしきものは全くない。

 この委員会が、中立性・独立性を持った「第三者委員会」なのであれば、まず、設置の段階で、委員会が調査事項を確認し、調査の方針、調査の手法を議論し、それを調査の実行部隊に指示し、調査結果について逐次報告を受け、その結果に基づいて委員会で原因について議論して、調査結果と原因論を報告書に取りまとめることになるはずであり、これらについて「調査補助者」を活用することは可能だが、いずれにしても、基本的な部分は、委員会が主導して進めていくのが当然である。

 そのような第三者委員会の調査であれば、事実関係のみならず原因究明も含めて、わずか7日間で調査報告書の公表に至るということは絶対にありえない。それを、最初から、わずか7日間の期間で調査報告書を公表する「予定」で、「第三者委員会まがいの委員会」を立ち上げて、ほとんど原因分析も行わず幕引きを図ろうとしたとすれば、そのような厚労省の対応自体が、一つの「不祥事」であり、それを誰がどのように意思決定したのかを問題にすべきだ。そして、今回の勤労統計をめぐる問題について、改めて本物の第三者委員会を立ち上げて、徹底した調査と原因分析を行うべきだ。

 その後、この「特別監察委員会」の調査に関して、調査における事情聴取の多くが、厚労省の職員によって行われており、委員会が直接聴取したのは、対象者37人中12人だけだったこと、委員会による聴取に厚労省の官房長が立ち会っていたことなど、「第三者性」に疑念を生じさせる事実が明らかになっている。

 上記記事で指摘したように、今回の「特別監察委員会」の調査とその結果についての報告書は、その設置と報告書公表の経過から考えて、本来の中立性・独立性を備えた「第三者委員会」とは到底言えないものだったことは間違いない。しかし、ここで、問題を整理する必要があるのは、「第三者委員会」というのは、不祥事の事実解明・原因究明のための手段であり、(1)「特別監察委員会」が「第三者委員会」としての実体を備えたものと言えるかという問題と、(2)今回の勤労統計不正の問題の事実関係やその原因の問題とは区別して考える必要があるということである。

 今回の「特別監査委員会」のメンバーは、もともと自ら聴取を行うことを前提にしているとは思えない。最初から、調査は基本的に厚労省の事務方に委ね、主要な関係者の聴取にだけ委員会メンバーが同席する、という方針だったのであろう。そうであれば、なぜ、設置の段階で、根本匠厚労大臣が、「第三者委員会としての原因究明と再発防止策の策定を委員に要請した」などと明言したのであろうか。それ以降、「第三者委員会」としての調査であることが前提とされ、それと調査の実態とがあまりに乖離していることで、“第三者委員会の偽装”のようにとらえられてしまった。

 最近の中央官庁の不祥事として記憶に新しいのが、一昨年の森友学園に関する「決裁文書改ざん問題」である。議会制民主主義の根幹を損なう行政機関の国会及び国民に対する裏切りであり、到底許容できない問題であった。それが明らかになった当初から、私は、以下のように指摘していた(【森友文書書き換え問題、国会が調査委員会を設置すべき】)。

 この問題に関しては、客観的な立場から、事案の経緯・背景を解明し、行為者を特定し、なぜ、このようなことが行われたのかについて、詳細に事実を解明することが不可欠であり、犯罪捜査や刑事処罰は中心とされるべきではない。その調査を、今回の問題で著しく信頼を失墜した財務省自身が行っても、調査結果が信頼されることはないだろう。独立かつ中立の立場から信頼できる調査を行い得る「第三者による調査」の体制を早急に構築することが必要である。そして、その調査体制の構築も、当事者の財務省に行わせるべきではない。今回の問題の性格・重大性に鑑みると、「書き換えられた決裁文書」の提出を受けた「被害者」とも言える「国会」が主導的な立場で調査を行うべきであり、福島原発事故の際に国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」のような、国会での国政調査の一環と位置付けるべきだ。

 しかし、実際にはどうであったのか。

 財務省は、「第三者委員会」どころか、外部者を含めた調査を全く行わず、検察当局の不起訴処分直後に極めて抽象的で曖昧な内容内部調査結果を公表しただけだった。だが、「第三者委員会」を設置しなかったことに対する批判はほとんどなかった。そして、内部調査である以上、その結果に責任を持つのは、財務省のトップの麻生太郎財務大臣だが、調査結果の公表の際、「改ざんの動機」を質問された麻生大臣は、「それがわかれば苦労しない」などと開き直った。

 このような財務省の「決裁文書改ざん問題」への対応と比較すれば、今回の厚労省の対応は、はるかに“まし”と言えるだろう。厚労省にとっては、最初から、監察チームによる徹底した内部調査を行い、その調査手法、調査結果等について、厚労大臣の諮問機関としての外部者で構成される委員会に検証してもらう。また、その意見を踏まえ、さらなる調査と原因究明を行うという選択肢もあったはずだ。

 そういう意味では、問題の重大性から調査の「第三者性」にこだわった根本大臣の姿勢は、決裁文書改ざん問題における麻生財務大臣の対応より、はるかに真面目だったと言える。しかし、最大の問題は、根本大臣が、「第三者委員会」というものの意味を十分に理解しないまま、「特別監察委員会」の調査について、「第三者委員会による調査、原因究明、再発防止」と表現したことにある。調査報告書の公表後も、国会で、国民民主党大串議員から、調査結果について誰が最終責任を負うのかと質問されて、「調査結果については第三者委員会が責任を負う」と答弁し、責任の所在についても「第三者委員会」を強調してしまった。それによって、調査の実態が「第三者委員会」というレッテルとは大きく乖離していたということで野党やマスコミの激しい追及を受け、調査の枠組みに関する問題に議論が集中したため、統計不正の事実関係とその原因や、今後の再発防止策という重要な点に議論がなかなか進まない現状を招いている。 

 官公庁、企業を問わず、組織の重大な不祥事対応において「第三者委員会」の設置が検討されるが、実際には、第三者委員会をめぐって、様々な問題が起きていることも事実であり、今回の厚労省の問題も「第三者委員会の失敗事例」と言ってよいであろう。

 「第三者委員会」を設置することについては、設置することがどのような意味を持ち、それがどのような効果等をもたらすのか十分に認識理解した上で判断を行う必要がある。そのために、「第三者委員会」についての基本的な理解と適切な活用方策について述べたのが、昨年出した長文ブログ記事【企業を蝕む「第三者委員会」の“病理” ~横行する「第三者委員会ビジネス」】である。そこで前提として書いている「第三者委員会の基本論」を踏まえた対応が行われていれば、厚労省がこれ程までの混乱に陥ることもなかったのではなかろうか。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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