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「無料で聴ける手段が増えた」「懐がさみしい」…音楽購入が減った人の事情をさぐる(2023年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
音楽を無料で聴ける機会は増えている(写真:イメージマート)

音楽を楽しむスタイルは多様だが、大きな区分の一つに「金銭的な対価を支払うか否か」がある。音楽業界としては対価がなければビジネスとして継続することはかなうはずもなく、音楽聴取者の消費性向は非常に気になるもの。今回は日本レコード協会が2023年3月に発表した最新の調査結果資料「音楽メディアユーザー実態調査」(※)の直近分の結果を基に、音楽の対価を支払ったもののその購入度合が減った人に向けて行った質問「なぜ減ったのか」の結果を見ていくことにする。

今件調査では音楽との付き合い方に関して、新曲への関心の度合いや商品購入などの面から、大きく次の4つに区分を設定した。

・有料聴取層:

「音楽を聴くためにCDや有料音楽音源など音楽商品を購入したり、お金を支払ったりしたことがある」(定額制音楽配信や有料のコンサートへの参加も含む。通信料金や聴取機器の購入は除く)

・無料聴取層:

「音楽にお金を支払っていないが、無料動画サイトやテレビなどで新たに知った楽曲を聴いた経験がある」

・無料聴取層(既知楽曲のみ):

「音楽にお金を支払っておらず、以前から知っていた楽曲しか聴かず、新曲は(テレビなどでも)聴かない」

・無関心層:

「音楽にお金を支払わない。特に自分で音楽を聴かない(音楽には特段積極的な好意、関心を持たない。音楽への本当の意味での無関心派)」

↑ 該当期間における音楽との関係でもっとも当てはまるもの
↑ 該当期間における音楽との関係でもっとも当てはまるもの

そして楽曲の購入について、前年同時期と比べて使ったお金の額が減った人を対象に、なぜ減ったのかについて尋ねた結果が次のグラフ。

↑ 楽曲購入減少の原因(前年同期から購入が減った人限定、複数回答、上位陣)(2022年)
↑ 楽曲購入減少の原因(前年同期から購入が減った人限定、複数回答、上位陣)(2022年)

トップに挙げられたのは「無料聴取手段増加」で36.8%。今回年で初めて用意された選択肢だが、群を抜く形で最上位となった。今調査の別項目結果によれば、音楽の聴取手段としてYouTubeを挙げる人が前年比で19.1%も増加していることも踏まえ、無料の音楽聴取サービスを利用する人が増えたと考えられる。

次いで「金銭的余裕減少」が22.7%。心底アーティストを好み発売された楽曲が気に入っても、肝心のお財布事情が厳しければ購入することは難しくなる。「音楽聴取の時間減少」なども回答者側の事情によるもの。これらは音楽業界の動向とはあまり関係がないように思われる。

次に「現在所有楽曲で満足」で19.5%。音源がデジタル化し検索・カテゴリ化・ランダムアクセスが可能となり、多数の楽曲を保有しても気軽に聴きたい曲をすぐに選べるようになったのが現状。1000曲の楽曲保有でも、CDが1000曲分と音源ファイル1000曲分とでは、利用スタイルはまったく異なる。当然、後者の方が隔てなく何度となく音楽を聴取・利用可能。

デジタル楽曲の取得と蓄積により、保存の場所を取らずに即時に検索して該当楽曲を聴取することが可能となっただけでなく、ランダムに聴取すれば「自分のお気に入りの音楽を多様な組み合わせでエンドレス状態にして聴く」こともできるため、CDなどの物理メディアで楽曲を取得し再生する音楽聴取スタイルと比べ、新規の購入動機は手元の楽曲が増えれば増えるほど減っていく。お気に入りの曲の雰囲気、歌手やグループにスポットを当てて音楽を楽しんでいるのなら、該当領域内の手持ち曲が増えれば、それで満足感を堪能できてしまう人が増えてくる。要は「お腹いっぱい」「手持ちのと比べてもっと新しいもの、よい曲でないと買うに値しない」との判断を下した結果に他ならない。

「好きなアーティストに関係なく買いたい曲が減った」「音楽への興味減少」「好きなアーティストの新商品の発売が減った」「好きなアーティストが居なくなった・減った」は音楽業界における魅力、訴求力が(相対的に)減ったのも一因ではあるし、同時に回答者側の心境変化も要因として考えられる。

昔と比べてデジタル化、聴取ツールの増加に伴い、音楽への門戸はより大きく開かれているはずなのに、音楽そのものへの興味自体を持たなくなった、減ったがために楽曲を購入しない人が確実に一定数存在している。対価支払いをしている・していた人も、手持ちの曲で満足してしまったり、無料のもので音楽への需要を充足してしまい、購入動機が減少している。音楽に関する環境の変化を今一度確認した上で、根本的なビジネスモデルの再構築が必要な時期に来ているのかもしれない。あるいは無料の聴取手段を上手く活用し、有益なビジネスとするための工夫が求められているのだろう。

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※音楽メディアユーザー実態調査

直近分は2022年11月に12歳から69歳の男女に対してインターネット経由で行われたもので、有効回答数は4500人。男女別・年齢階層・地域別(都市部とそれ以外でさらに等分)でほぼ均等割り当ての上、2020年度の国勢調査結果をベースにウェイトバックを実施している。また設問の多くは過去半年間を対象に答えてもらっているため、2022年6月から11月時の動向が反映されていることになる。過去の年の調査もほぼ同じ条件で実施されている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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