現状は上昇、先行きは下落

内閣府は2021年12月8日付で2021年11月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響は残るものの、持ち直している。先行きについては、コスト上昇等への懸念のほか、内外の感染症の動向に関する不確実性がみられるものの、持ち直しが続くとみている」と示された。

2021年11月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス0.8ポイントの56.3。

 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」が増加、「変わらない」「やや悪くなっている」が減少。「悪くなっている」が変わらず。原数値DIは58.5。

 →詳細項目は「小売関連」「住宅関連」「雇用関連」以外で上昇。「雇用関連」のマイナス0.7ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外のすべて。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス3.7ポイントの54.6。

 →原数値では「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」が減少。原数値DIは54.6。

 →詳細項目は全項目が下落。「雇用関連」のマイナス6.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「雇用関連」。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、流行第三波の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2021年11月では各種規制はすでに解除され、新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などによるものと思われる新規感染者数の減少を受けた、人や物の動きの復調を反映し、上昇を示している。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2021年11月では新型コロナウイルスの新変異株に対する懸念や、原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足による不安が強くなっており、下落を示している。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2021年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2021年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2021年11月は新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などによるものと思われる新規感染者数の減少やそれに連動して人や物が動き出した実情を反映する形で、全体では前回月比でプラスを示している。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外のすべて。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2021年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2021年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」と「非製造業」以外すべての項目。新型コロナウイルスに対抗するワクチン接種の進展への強い期待があるようだ。一方で半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰による懸念が強まりを見せている。

先行きの不透明さと物不足の足かせと

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・来客数が回復してきており、外出やイベント催事の機会が増えてきていることから衣料品や服装品など物販の販売量が上がってきている。また、これまで厳しかった飲食店の利用者数も増えており、物販、非物販共に回復傾向となっている(その他小売[ショッピングセンター])。

・緊急事態宣言が解除され、11月に入ってから徐々に来客数が増えてきている。ただし、夜の営業時間は新型コロナウイルス発生前のように遅くまで客が来店することはなく、このまま夜の時間帯は減ったままだと思うので、回復には時間が掛かる(一般レストラン)。

・緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置が解除され、新規受注が増加しており、ビジネス需要も動き出している(旅行代理店)。

・ガソリン・灯油価格の値上げや食品全般の値上げにより、客の財布のひもは更に固くなっている(スーパー)。

■先行き

・年末に近づくにつれて、レジャーやイベントに関連した買物が増えている。年明けも2年連続で需要が消えた、卒業や入学、新生活関連などのオケージョン、セレモニー消費が増えると予想しており、取引先も商材確保に動いている(百貨店)。

・現状が続くのであれば、観光客も増加しており、より一層の景気回復が見込める(タクシー運転手)。

・年間を通じて最繁忙期である忘年会シーズンであり、個人需要は一定の予約があるものの、法人、団体の予約が少なく、売上の確保ができていない(高級レストラン)。

・新型コロナウイルスの新変異株に流行の兆しがある。また、食品やガス、電気料金の値上げが景気に悪い影響をもたらし、先行きは厳しくなる(衣料品専門店)。

新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、人や物の流れが回復しつつあることを実感する声が多い。一方でコロナ禍による半導体をはじめとした部品不足の悪影響や商品価格の値上がりへの言及が見られるのが気になるところ。また、コロナ禍で大きく変わった生活習慣や社会様式がそのまま推移し続け、ビジネスに大きな打撃を受け続けている事例も見受けられる。

企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。

■現状

・首都圏の新型コロナウイルスの感染状況も沈静化しつつあり、人の動きも大分活発になってきている。来県者も急激に増加し、当社への来場者も戻りつつある。11月3日より県産新酒ワインが解禁となり、前年を上回る出荷量となっている(食料品製造業)。

・相変わらず建設資材が高騰し、納期の不安定な状況が続いている。新型コロナウイルスの影響だけではないが、今後の見通しも不透明であり、建設資材価格と納期の安定化が望まれる(建設業)。

■先行き

・完成車メーカーから、今後部品の供給不足や半導体問題は多少改善に向かい、生産台数は増えると聞いている(輸送用機械器具製造業)。

・長引く燃料油価格高騰の影響が物流事業者の経営を圧迫している状況であり、今後は運賃・料金値上げに動く事業者が増えると推察される。海外から流入した新型コロナウイルス新変異株による感染再拡大の不安もあり、景気の先行きはいまだ不透明である(輸送業)。

コロナ禍による厳しさは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、また各種規制が解除されたことで和らぐ、回復しているとの実感、今後への期待が受けられる。他方、コロナ禍も影響している、半導体をはじめとする部品不足によるビジネスへの悪影響を受けている、さらに今後悪化するであろうとの懸念を持つところもある。他方、新型コロナウイルスの新変異株への不安もある。

雇用関連では経済の新型コロナウイルスの流行による沈滞からの回復過程にある現状と、問題点が垣間見られる。

■現状

・飲食店は通常営業になったことから、パート求人が増加している。また、自動車部品関連事業所からの受注増加で、製造業の派遣社員募集も増加している(職業安定所)。

■先行き

・製造業の求人は好調であるが、原材料の値上げ等の懸念もある。また、宿泊業や飲食業の求人も活発ではあったが、新型コロナウイルスの影響を受けやすい業界を避けたい求職者とのミスマッチが生じている。こうしたことから、景気は良くならない(職業安定所)。

規制の解除や新型コロナウイルスのワクチン接種の進展による感染者数減少で生じる人の流れの回復と、それによって生じる経済の復調への期待が確認できる。他方、労働力の需給バランスが崩れているため、復調が一筋縄ではいかない事態も生じているようだ。特にコロナ禍で人員削減をした業界では、回復する経済に併せて人材を確保したいにもかかわらず、人員削減の経歴を知っている求職者からは(また何かあればすぐに解雇されるのではとの懸念から)敬遠されるというジレンマが生じている。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは、むしろ社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになる可能性の方が高い。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

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