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ワクチン接種の効果への期待強まる…2021年9月景気ウォッチャー調査

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
ワクチン接種の効果などによる緊急事態宣言などの規制解除への期待強まる(写真:つのだよしお/アフロ)

現状は上昇、先行きも上昇

内閣府は2021年10月8日付で2021年9月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、内外の感染症の動向を懸念しつつも、ワクチン接種の進展などによって持ち直しが続くとみている」と示された。

2021年9月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス7.4ポイントの42.1。

 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは43.3。

 →詳細項目はすべてが上昇。「製造業」のプラス0.7ポイントが最少の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。

・先行き判断DIは前回月比でプラス12.9ポイントの56.6。

 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは56.7。

 →詳細項目はすべてが上昇。「サービス関連」のプラス19.8ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外すべて。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、流行第三波の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2021年9月では新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などによるものと思われる新規感染者数の減少を受けた、人や物の動きの復調を反映し、上昇を示している。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2021年9月では新型コロナウイルスのワクチン接種の進展や各種規制の緩和・解除による期待から、上昇を示している。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2021年9月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2021年9月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2021年9月は新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などによるものと思われる新規感染者数の減少やそれに連動して人や物が動き出した実情を反映する形で、全体では前回月比でプラスを示している。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2021年9月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2021年9月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外のすべて。全項目で前回月から上昇を示している。新型コロナウイルスに対抗するワクチン接種の進展への強い期待があるようだ。

すべては新型コロナウイルス流行の状況次第

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・売上、来客数、単価、いずれも前年同月を上回っている。ワクチン接種が進んで、客の購買意欲が少しずつ前向きになってきたようである(美容室)。

・まん延防止等重点措置から緊急事態宣言の継続により、来客数は厳しい状況であったが、9月の大型連休は昼の営業については少し活気があった。1か月全体では自粛の月であった(高級レストラン)。

・新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、今まで好調であった高額品を含め、前月の中旬から今月の上旬にかけての動きは非常に悪かった。ただし、今月の中旬を過ぎた頃から、徐々に回復傾向となっている(百貨店)。

・緊急事態宣言に伴う営業規制や、外出の自粛による影響が大きく、新規予約の獲得は厳しい状況が続いている。単価を下げて販売せざるを得ず、苦戦が続いている(都市型ホテル)。

■先行き

・9月で緊急事態宣言が解除され、来月になると20時までお酒を提供できるようになるので、その影響で売上が伸びてくるのは確実である(一般レストラン)。

・ワクチン接種が高齢者を中心に行き渡り、国内の近場への旅行や冠婚葬祭などの行事に関連した買物が増えるとみている。今まで不振だったアパレルが復調すると期待している(百貨店)。

・受注は引き続き好調に推移しているが、自動車の減産の影響で配車の見通しが不透明であるため、来年3月の決算期に向けてどのくらい売上に結び付くか読めない状況である(乗用車販売店)。

・当県では時短要請が26日に解除となったが、人の動きはまだ鈍い。ワクチン接種率は向上しているため、10月以降新型コロナウイルスの新規感染者数が収まり、景気が復活することを期待している(タクシー運転手)。

新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、人や物の流れが回復しつつあることを実感する声が多い。先行きではコロナ禍による半導体などの部品不足の悪影響への言及が見られるのが気になるところ。

企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。

■現状

・ホテル関係や4か月ぶりに空港関係への納品が再開している。外食関係の酒類の発注も徐々に増えてきており、緊急事態宣言解除に向けた各納品先の動きが活発化している(輸送業)。

・半導体不足や、コロナ禍による海外からの部品の入荷不足で、自動車各社が2割強の減産を余儀なくされている。それに伴い、自動車向けを中心に、20-30%の減産となっている(金属製品製造業)。

■先行き

・緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除され、飲食業や観光業が少しずつ回復基調になると推測する(食料品製造業)。

・建築資材の高騰が続いており、今後も上昇傾向と予想されている。その影響で、客の発注意欲にも影響が出ている(建設業)。

コロナ禍による厳しさは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、また各種規制が緩和・解除されることで和らぐ、回復するとの期待が多々受けられ。他方、コロナ禍も影響している、半導体をはじめとする部品不足によるビジネスへの影響を懸念する意見が複数確認できる。

雇用関連でも新型コロナウイルスの影響がうかがえる。

■現状

・求人数は底堅く推移しており、製造業や交通警備、製造業派遣などの求人数が少し増えている(職業安定所)。

■先行き

・ワクチンの接種状況が進み、10月からは宣言も解除となる。サービス業中心に復調するとみている(人材派遣会社)。

新型コロナウイルスのワクチン接種の進展やそれに伴う各種規制解除・緩和が回復ムードを形成していることが分かる。

今件のコメントで新型コロナウイルスに関しては現状で390件(前回月497件)、先行きで579件(前回月768件)。凄まじいまでの言及数だが、前回月よりは減少している。一方で「ワクチン」に関しては現状で66件(前回月48件)、先行きで300件(前回月339件)の言及がある。今後の状況好転の鍵として期待されているようだ。実際、現状におけるワクチン関連のコメントを見るに、接種を終えたと思われる高齢者の動きが複数確認できる。また、接種が進んでいることによる心理的な安心感を指摘する声もある。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。合わせてご視聴いただければ幸いである。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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