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日本は1.30、韓国は0.81…各国の合計特殊出生率の推移と現状をさぐる(2024年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
子供は国の宝。その数の裏付けとなる合計特殊出生率は(写真:アフロ)

国の人口の増減に関連する指標となる合計特殊出生率。各国におけるこの値の現状と推移をこども家庭庁の「少子化の状況及び少子化への対処施策の概況(こども白書)」をきっかけとした形で確認する。

本来今件記事で該当するデータは「こども白書」で掲載されているものだった。しかし2023年12月に発表された2022年度版からは、その内容が省略されてしまっている。そこで今回は世界銀行の公開データベースを基に、これまでの様式に従う形でデータの精査を行うことにする。

さて「合計特殊出生率」だが、この言葉は一人の女性が一生のうちに出産する子供の平均数を示している(計算対象を一般的な出産可能年齢である15~49歳の女性に限定している)。単純計算でこの値が2.0なら、夫婦二人から子供が二人生まれるので(男性は子供を産まない)、人口は維持されることになる。実際には多様なアクシデントによる減少があるため、人口維持のための合計特殊出生率は2.07~2.08といわれている(これを人口置換水準と呼ぶ)。

↑ 合計特殊出生率(人口動態統計から筆者作成)
↑ 合計特殊出生率(人口動態統計から筆者作成)

世界銀行で公開されているデータでは1960年以降2021年までの推移が示されている。そこでまずはかつての「こども白書」で示された様式に従い、主要国の値の確認を行う。

↑ 主要国合計特殊出生率
↑ 主要国合計特殊出生率

↑ 主要国合計特殊出生率(2021年)
↑ 主要国合計特殊出生率(2021年)

1960年代までは主要国はほぼ人口置換水準を超えていたものの、経済発展やそれに伴う子供の養育コストの増大、結婚や出産に対する価値観の変化、避妊の普及、そして出産後の乳幼児の死亡率低下の影響があり(出産した子供が命を落とさなければ夫婦はその子を養育する必要が生じるため、再び出産へリソースを投入する余裕が無くなる)、一様に低下。そして前世紀末期あたりからは国毎に異なる動きを見せているが、差異はあれど回復傾向にあった。しかしながらアメリカ合衆国では2007年ぐらいから、フランスやイギリス、スウェーデンでは2010~2013年ぐらいから、日本では2015年ぐらいから、そしてドイツでは2017年から再び低下に転じている。

特に大きな上昇が見られたフランスやスウェーデンでは先の記事でも触れたように「嫡出でない子」の割合の増加、子育てや就労に関する選択肢の増加と、環境の整備(経済面だけで無く保育サービスの充実や社会制度上での補助)、高齢出産に係わる技術的な進歩が大きく貢献した。公開資料でもかつて、この点に関して、経済支援から保育の充実、出産・子育てと就労にかかわる選択肢を増やすなどの環境整備、いわゆる「両立支援」の強化によるものと解説していた。ドイツも「依然として経済的支援が中心となっているが、近年、「両立支援」へと転換を図り、育児休業制度や保育の充実等を相次いで打ち出している」と説明し、「両立支援」が成果を上げた結果だと示唆していた。

しかしながらそのフランスやスウェーデンですら2010年ぐらいからは低下傾向に転じており、白書では各対策が付け焼刃でしかなかった可能性をほのめかしていた。

なお日本では1966年に特異な下落が見られるが、これは丙午(ひのえうま)による低下に他ならない。他国で同様の動きがなく、日本独自の動向であるのが分かる。

続いてアジア諸国の動向。

↑ 主要国合計特殊出生率(アジア諸国)
↑ 主要国合計特殊出生率(アジア諸国)

↑ 主要国合計特殊出生率(アジア諸国)(2021年)
↑ 主要国合計特殊出生率(アジア諸国)(2021年)

アジア諸国に限定しても動向はあまり変わりはない。経済成長が進むとともに合計特殊出生率は低下し、いずれも人口置換水準を割り込んでしまっている。出生率の低下は日本だけの問題ではないことがあらためて認識できる次第ではある。韓国の出生率の低下がよく話題となっているが、その韓国と同様の下げ方を中国や香港もしているのが分かる。

なおアジア諸国の出生率の低迷に関して白書では「アジア圏では、婚外出産が少ないことにも一部起因しており、未婚化や晩婚化が出生率変化の大きな決定要素となっている(United Nations “World Fertility Report 2013”を参照)」「東アジアでは教育熱が伝統的に高く、大学進学率も高いが、公的資金の教育費投資が少なく、私的資金による教育費負担が大きくなっていることが、低出生率の一因と考えられる。特に儒教圏(例えば韓国)の出生力が極端に低い理由は、若年層の失業率上昇や収入減に加え、急速に発展・変化する家族外の社会経済システム(教育・職業・政治参加など)と、相対的に変化が緩慢な家族システム(孝重視イデオロギー、夫婦間の役割分担など)との乖離が大きいため」との指摘をしている。

出生率の低下は経済発展に伴う子供の養育コストの増大、結婚や出産に対する価値観の変化、乳幼児の死亡率低下など、先進国共通の傾向を起因とし、いわば先進国病とも呼べるもの。そしてそれを補いうるものとして一部諸国で顕著化しているのが、「嫡出で無い子」の増加。また、最後のグラフにあるように、アジア諸国では婚姻内での出生にこだわる社会文化の影響が強く、それが経済発展とともに出生率が低下したままの状態を生み出しているものと考えられる。

人口少子化傾向を食い止めるには、日本のかつての風習を再度活性化する、今風にアレンジする、欧米の手法を参考にする、色々な手立てが想定でき、そしてどれか一つのみに限る必要は無い。少子化対策は中長期的・戦略的な視点で先人の成功例を参考にし、断行すべき問題ではある。即効性は無く、劇的な変化が見られないので敬遠されがちだが、優先すべき事項に違いない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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