Yahoo!ニュース

新聞広告費とインターネット広告費の金額はどちらが上なのか(2021年6月発表版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 新聞とインターネット。そのすう勢・立ち位置を広告費から推測する。(写真:アフロ)

広告市場の取り扱い額は、市場規模を推し量るのみならず媒体の影響力、公知力、社会からの認識力を示す物差しでもある。世間一般への公知力の観点で比較されることが多い(紙媒体としての)新聞とインターネットの広告費の動向を、直近となる2021年4月分までについて、経済産業省の特定サービス産業動態統計調査の公開資料から確認する。

経済産業省の特定サービス産業動態統計調査において、インターネット広告は単独項目として登場するのは2006年1月以降なので、グラフ化による精査もそれ以降を対象とする。

まずはデータを取得できる全期間における推移。恐らくは2006年1月以前にもインターネット広告はそれなりの額が動いていたはずだが、今件データとして収録されたのは2006年1月の約80.3億円が初めて。一方同時期の新聞広告費は約541.3億円。

↑ 新聞広告費とインターネット広告費(月次、億円)
↑ 新聞広告費とインターネット広告費(月次、億円)

インターネット広告費は2009年までは「漸増」との表現が適切な上昇傾向だった。しかし2010年に入ってからは上下変動幅を大きくしつつ、全体的には上げ幅を拡大する流れにある。特に年末の12月と年度末の3月には大きく上振れするのが特徴的。消費一般もこの時期に拡大する傾向にあるため、より効果的な広告効果を狙うべく、機動力を持ち柔軟性の高いインターネットに広告リソースを一層投入しているものと考えられる。

一方、新聞は静かに減少。2010年に入るとようやく下げ止まった感はあるが、時折大きな減少を示す。そして2015年以降は再び漸減の動きを示しているようにも見える。他の調査結果によれば、新聞そのものの発行部数、そして新聞に対する広告出稿の減少は継続しており、今後新聞広告費が再び大きく下げる傾向となる可能性は高い。

2020年4月以降は新型コロナウイルス流行による経済活動の停滞による影響が生じたようで、新聞広告費・インターネット広告費ともに例年と比べて勢いが弱いものとなっているのが目にとまる。ただし勢いの回復はインターネット広告費の方が早く、そして回復度合いも大きく、今や新型コロナウイルス流行以前を超える勢いで増加を示している。

「新聞広告費…下げから横ばい、再び緩やかだが下げ」「インターネット広告費…漸増」との動きがあり、2010年半ば以降何度となく双方がクロスした以上、両者間の立ち位置がいずれ入れ替わるのは容易に想像できた。そして2013年に入ってからは、インターネット広告費が新聞広告費を上回る機会が多々生じ、2015年後半ぐらいからはそれが当たり前となっている。

インターネット広告費の上昇率が大きくなる2010年以降に限り、グラフを再構築したのが次の図。「インターネット広告費>新聞広告費」を記録した月の、インターネット広告費側の値の丸を黄色で塗りつぶしている。さらに差異が分かりやすいように、インターネット広告費から新聞広告費を差し引いた結果の推移も併記した。この値がプラスの場合、インターネット広告費は新聞広告費を上回っていることになる。

↑ 新聞広告費とインターネット広告費(月次、億円)(2010年1月以降)
↑ 新聞広告費とインターネット広告費(月次、億円)(2010年1月以降)

↑ インターネット広告費-新聞広告費の値(月次、億円)(2010年1月以降)
↑ インターネット広告費-新聞広告費の値(月次、億円)(2010年1月以降)

↑ 新聞広告費とインターネット広告費(月次、億円)(直近1年間)
↑ 新聞広告費とインターネット広告費(月次、億円)(直近1年間)

現時点で二者間の立ち位置が逆転、つまりインターネット広告費の額面が新聞広告費を超えた月は2011年3月に始まり、全部で107か月分(直近の2021年4月分まで)。2013年に入ると2月以降は継続してインターネットの優勢が続き、2013年11月と2014年1月にイレギュラー的に逆転現象が起きた以外は、インターネット広告費が優勢の月が続いている(2014年2月以降87か月連続)。

直近における新聞広告費優勢最後の月となる2014年1月分は、都知事選の影響があったことが観測されており、イレギュラー的な要因の結果と考えられる。また1月はインターネット広告の閑散月でもある。そのような出来事が発生する以外においては、「従来型4マスメディアとインターネット」との区分において、「市場規模で比較してテレビ広告の次に来るのは新聞広告ではなく、インターネット広告」との状況は、固定化されつつある。

2020年の春先以降は新型コロナウイルスの流行による経済活動停滞の影響を受けたと思われる特異な減少が生じているが、よく見ると新聞広告費は2020年4月から大幅な減少が見られるのに対し、インターネット広告費は同年5月に入ってからとなっている。同じ広告でも新聞とインターネットで影響が生じるタイミングがずれているのは興味深い。

かつては「あるかもしれない」程度の可能性でしかなかった「新聞の広告市場規模をインターネットが抜き去る」状況が、今やすでに現実のものとなっている。何らかの突発的な出来事によって、今後新聞広告費がインターネット広告費を抜く時期が生じる可能性はゼロではないが、全体的な流れを変えることは無いだろう。

メディアのすう勢を推し量る物差しの一つ「広告費市場規模」に関しては、事実上インターネットが新聞を追い抜いたと見て問題はあるまい。

■関連記事:

【夕刊は実際にどれほど読まれているのか】

【若者層の新聞離れのトップは「お金がかかるから」、その意見に潜むものは……】

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事