スウェーデンとウクライナ、エジプトでの組織や制度への信頼度の実情をさぐる(2017~2020年分)
諸国の人たちはどのような組織や制度に信頼を寄せているのだろうか。最近見聞きする機会が多い国として、スウェーデンとウクライナ、エジプトにおける実情を、国単位の価値観を中長期的に定点観測の形で調査報告している「World Values Survey(世界価値観調査)」(※)から確認する。
今回信頼に関する精査対象となる組織・制度は「宗教団体」「自衛隊(国軍)」「新聞・雑誌」「テレビ」「労働組合」「警察」「裁判所」「政府」「政党」「国会」「行政」「大学」「大企業」「銀行」「環境保護団体」「女性団体」「慈善団体」「国連」。
それぞれの組織・制度に対して選択項目に「非常に信頼する」「やや信頼する」(以上肯定派)「あまり信頼しない」「まったく信頼しない」(以上否定派)「分からない」「無回答」が用意されているが、このうち「非常に信頼する」「やや信頼する」を足して、そこから「あまり信頼しない」「まったく信頼しない」を引き、各組織・制度の信頼度(DI値)を算出する。要はこの値が大きいほど、その国では対象の組織・制度が信頼されていることを意味する。
まずは開放的なお国柄と福祉国家として知られる一方、最近ではその仕組みのひずみが次々に露呈し、福祉の問題を再確認させられる事例としても知られるようになったスウェーデン。なお「女性団体」「慈善団体」「テレビ」「大学」「銀行」の値は現在集計中の模様で値は非開示。あるいは元から設問が用意されていない可能性がある。
「公的実力行使組織」のうち「警察」に対する信頼度が極めて高い一方、「国軍」に対する値はそこそこなプラスに留まっている。ここまで大きな差異が生じるのは珍しい。さらに「環境保護団体」のような市民運動に対する信頼度も高め。
「国会」「行政」に対する信頼度が高いのも特徴の一つで、秩序だった社会の中で市民独自の自己主張も平然と行われている雰囲気が見受けられる。全体的にマイナス値を示す対象が少ないのもポイント。
一方でメディアや「政党」への信頼度は低め。「政府」や「行政」へは信頼がそれなりに置かれているのに、「政党」への信頼が今一つなのも、スウェーデンの特徴の一つ(大抵は国会・行政・政府・政党のセットで低めの値が出る)。
続いて国内の分裂騒動に絡み東西大国(勢力)の綱引きに巻き込まれている感も強い、そして今なお紛争が続いているウクライナ。調査実施時期は2020年で、ほぼ最新のデータとなる。
ウクライナでは「大学」に対する信頼度が高い。一方でスウェーデンではあまり信頼されていなかった「宗教団体」が「国軍」に次いで高い値を示している。具体的にどのような組織・団体をイメージしての回答だったのか、気になるところではある。
「公的実力行使組織」のうち「国軍」への信頼が厚い一方で、「警察」にはあまり信頼を寄せていないのも特徴的。さらにメディア、そして行政一般には概して不信感を抱いており、「警察」でマイナス20.9%、「行政」でマイナス23.3%という低い値が出ている。全般的にマイナス値が多く、信頼ができる組織・団体が限られているのも特徴的。
最後はエジプト。調査実施期間は2018年で、現在の大統領シーシー氏が再選される大統領選挙前後の期間となる。なお「国軍」「警察」「裁判所」「政府」については現在集計中の模様で値が非開示となっている。あるいは元から設問が用意されていない可能性がある。
「宗教団体」への回答値が異様に高い以外は、押し並べて低めな値に留まっており、行政機関への信頼度も低い。また「国連」の信頼度が非常に大きな形でマイナスに振れているのも特徴的である。何もかも信じがたいという状況か。非開示の「国軍」「警察」の値が気になるところだ。「政府」は「政党」が大きなマイナスである以上、プラスなのは望めないだろうが。
「最近見聞きする機会が多い国」として3か国を挙げたが、ウクライナは紛争であわただしいということもあり、特徴的な値が示されてしまっている。エジプトのマイナス値が多いのも、恐らくは経済政策と治安の維持が上手く行ってないからだと思われる。次回の調査、恐らくは5年後において、少しでもよい方向に事態が動き、信頼度が回復してくれることを祈りたいものだ。国政が安定化し、信頼に足る施策が行われれば、それなりに値は回復するはずなのだが。
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※World Values Survey(世界価値観調査)
世界100か国以上が参加して実施している国際的プロジェクト「世界価値観調査」によるもの。各国・地域毎に全国の18歳以上85歳以下の男女1000サンプル程度(実際には1000~2000人程度)の回収を基本とした個人対象の意識調査。調査そのものはおおよそ5年おきに実施されているが、調査期間によって一時的に対象外となる国も少なくない。また現時点では集計が完全には終わっておらず、値が掲載されていない国もある。直近の調査結果は2017年から2020年にかけて行われたものだが、記事執筆時点で項目によって調査結果が掲載されていない国が複数確認できる(最終的な報告書は2021年秋に発表予定)。
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(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。