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先行きへの不安やや減少…2020年8月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ Go To Travelキャンペーンはおおむね堅調。現場の反応もよい。(写真:つのだよしお/アフロ)

現状は上昇、先行きも上昇

内閣府は2020年9月8日付で2020年8月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、持ち直しへの期待がみられる」と示された。

2020年8月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス2.8ポイントの43.9。

 →原数値では「変わらない」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは43.3。

 →詳細項目は「飲食関連」以外のすべての項目が上昇。「飲食関連」のマイナス4.4ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。

・先行き判断DIは前回月比でプラス6.4ポイントの42.4。

 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは41.0。

 →詳細項目はすべての項目が上昇。「住宅関連」のプラス3.7ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスによる影響を受けてはいるが、持ち直しの動きを継続中。新型コロナウイルス流行前の水準にまで戻ったと判断できる値である。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下げ、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、直近月の7月では持ち直したものの、勢いはまだ弱い。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2020年8月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2020年8月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では2020年2月以降において新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落。4月で景況感悪化の動きは底を打ったようで、5月以降は盛り返しを示している。今回月は前回月比においては1項目を除くすべての詳細項目でプラスとなった。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2020年8月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2020年8月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。「飲食関連」「住宅関連」の値が低めだが、これらの項目では新型コロナウイルスによる影響の大きさと、回復への期待が持てないとの心境が透けて見える。

Go To Travelは効果あり、されど新型コロナへの不安は続く

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・県民割引やGo To Travelキャンペーンなどの宿泊補助金制度のお陰で、露天風呂付き客室を始め単価の高い部屋の稼働がよい(観光型旅館)。

・猛暑に加え、在宅勤務による追加の需要が重なり、エアコンが販売好調となっている。さらに、10年前の家電エコポイント制度の際に購入された冷蔵庫や洗濯機が買換え時期を迎え、よく売れている(家電量販店)。

・猛暑で商店街の人通りが非常に少ない。大阪市内で飲食店の営業自粛が要請され、当店は対象に入っていないものの、消費者が警戒し、来客数が減少している。来客には2人連れが多く、店内の座席も減らしているため、売上が伸びない(一般レストラン)。

・Go To Travelキャンペーンのスタートはまずまずだったが、感染者数の増加により、沖縄方面の取消しが増え、東京除外も大きく影響している。海外の観光旅行は全く見通しが立たない(旅行代理店)。

■先行き

・8月に3密対策をしっかり行って実施した物産展は、前年並みの数字を取ることができた。9月以降も物産展を前年同様に開催予定で、少し明るい材料もある(百貨店)。

・よくも悪くも客が新型コロナウイルスに慣れてきて、秋口に発売される新型車が登場しても春のように自粛ムードは強くならないため、来客数は確実に増加する(乗用車販売店)。

・8月は売上、来客数共に前月より伸びている。9月以降も現状の売上で推移するとみているが、夜の来客数がなかなか伸びず、横ばいである。単価の低いランチ売上が多少の増加になるくらいだろう。ディナーはアルコール飲料の売上が上がってこないため厳しい(高級レストラン)。

・冬に向けての新型コロナウイルスの感染拡大状況による。忘年会や新年会等、宴会の取り込みがない状況である。Go To Travelキャンペーンで恩恵を受ける高級旅館やホテルとの格差拡大などがある(都市型ホテル)。

報道の限りでは散々な扱いを受けているGo To Travelキャンペーンだが、現場からの声は概して良好。恩恵を受けるか否かで格差が生じる云々の類は仕方がないものと判断するしかない。また、総務省の家計調査でも家電製品の売上が堅調な動きが確認できるが、特別定額給付金による影響に加え、「10年前の家電エコポイント制度の際に購入された冷蔵庫や洗濯機が買換え時期を迎え」との要因があったことは注目に値する。

他方、8月は記録的な猛暑となったが、影響はケースバイケースだったようだ。

企業関連でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。

■現状

・リモートワークや映像コンテンツの普及拡大により、放送、通信に関する事業分野では、ネットワークインフラの高速化、高度化の要望が強く、受注は好調である(電気機械器具製造業)。

・建設現場では新型コロナウイルスと熱中症の防止対策で、作業効率の低下とコストアップを余儀なくされており、工事の進捗や収益面でマイナスとなっている。また、民間建築については次年度以降の新規受注案件の引き合いが依然として少ない(建設業)。

■先行き

・当初の生産計画の水準に戻りつつあり、更に6~7月の新型コロナウイルスや令和2年7月豪雨による非稼働日のばん回数量も、上乗せされた生産が計画されている(輸送用機械器具製造業)。

・新型コロナウイルスの影響で年内のイベントなどはおおむね中止が決定し、客の販促広告の削減も継続が予想されており、依然として厳しい状況が続く(広告代理店)。

新型コロナウイルスの影響で発生したリモートネットワーク関連の特需による恩恵を受けるところもあれば、人の流れが大きく制限されたことで生じるビジネスの停滞に頭を抱えているところもある。早くも次年度への不安を覚える状況なところもある。

雇用関連でも新型コロナウイルスが大きな影響を与えている。

■現状

・北海道における新型コロナウイルス感染者数は比較的少ないため、求人意欲は徐々に上向いてきている。特に介護業界や建設業界などはふだんより人材が集まる傾向がみられるなど、堅調である。一方、観光客やビジネスマンの往来が少ないため、宿泊業は大打撃を受けている。飲食店はランチ客が増加傾向にあるが、求人を出すまでの忙しさにはなっていない(求人情報誌製作会社)。

■先行き

・求人数は低調に推移しているが、周辺企業の生産が徐々に戻ってきており、回復までは時間が掛かるが、これ以上は悪化しない(人材派遣会社)。

雇用の観点では新型コロナウイルスの影響は否定できないものの、少なくとも最悪期は脱したとの認識があるようだ。もっとも一部業界では大きなダメージを受けたため、雇用面でも厳しい状態が続くであろうことも予想できる。

今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで4件(前回月2件)、先行きのコメントで18件(前回月12件)の言及がある。不安や懸念といったネガティブな内容が見られるが、それらですら大部分は新型コロナウイルスの話に付け加える形でのものとなっている。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。むしろ消費税率引き下げを望む声すら確認できる。また、2019年9月は消費税率引き上げ直前の駆け込み需要があったことから、次回月となる2020年9月はその反動で大きなマイナスが生じるだろうとの懸念も複数見受けられる。なお「財政再建」は現状・先行きともに一件も言及されていない。

他方新型コロナウイルスに関しては現状で584件(前回月661件)、先行きで871件(前回月956件)。凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦も豪雨も猛暑もすべて吹き飛んでしまった状態。また、直接「新型コロナウイルス」の言い回しではないものの、「緊急事態宣言」「来客数は減少したまま」のような明らかに関連する内容の表現が用いられており、実質的に新型コロナウイルスの影響がほぼすべてと見てもよい。そして内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、先行きでは一部で持ち直しへの期待の声も確認できる。他方、冬場に感染再拡大が生じるとの懸念を持つ人が少なからずいるのが気になる。

なお「Go To Travelキャンペーン」については現状のコメントで75件、先行きのコメントで48件が確認できる。肯定的な意見が多いが、東京除外や恩恵を受けなかったところからの不満の声も少なからず見受けられる。中には「消費の支援が一連のGo To Travelキャンペーンに偏り過ぎである。消費税減税などで、もっと公平な要素を持たせる必要がある」との声もあるほど。

リーマンショックや東日本大震災を超えるレベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ何らかの形で終息(ワクチンや治療薬の開発、普通の風邪と同レベルまでの弱体化)とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなるのには違いない。世界的な規模の疫病なだけに、一刻も早い状況の回復を願いたいものだが。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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