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おおよそ流行前の水準にまで回復…2020年6月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 非常事態宣言の解除で街中には人の姿が戻りつつあるが。(写真:Duits/アフロ)

現状は上昇、先行きも上昇

内閣府は2020年7月8日付で2020年6月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、持ち直しが続くとみている」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が2019年3月分以降、16か月連続する形となっている。

2020年6月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス23.3ポイントの38.8。

 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」が増加、「悪くなっている」が減少。原数値DIは38.0。

 →詳細項目はすべての項目が上昇。「製造業」のプラス13.4ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。

・先行き判断DIは前回月比でプラス7.5ポイントの44.0。

 →原数値では「ややよくなる」「変わらない」が増加、「よくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは44.8。

 →詳細項目はすべての項目が上昇。「小売関連」のプラス4.6ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「サービス関連」のみ。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスによる影響を受けてはいるが、大きく持ち直している。新型コロナウイルス流行前の水準にまで戻ったと判断できる値である。

先行き判断DIも海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスの影響拡大を懸念する形で、基準値を下回ってはいるが、前回月よりは改善。こちらも新型コロナウイルス流行前の水準にまで戻ったといえる値に違いない。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2020年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2020年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では2020年2月以降において新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落。4月で景況感悪化の動きは底を打ったようで、5月以降は大きな盛り返しを示している。今回月も前回月比ではすべての詳細項目でプラスとなった。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2020年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2020年6月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「サービス関連」のみ。もっとも前回月比ではすべての詳細項目がプラスを示している。これは景況感持ち直しへの期待の表れと解釈できよう。

打撃は大きいが少しずつ戻る景況感

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・新型コロナウイルス対策に伴う外出の自粛が6月19日に解除されたことで、客の動きが活発になってきている。特別定額給付金として10万円が支給されていること、キャッシュレス・消費者還元事業が6月で終了することも後押しとなっている(百貨店)。

・特別定額給付金の支給により、高額商品が動いている。特に白物家電が好調で、ちょうど梅雨の時期であるため、エアコンの販売が増えている(家電量販店)。

・新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う営業自粛から、6月1日に営業を再開したが、個人客の利用がやや戻ってきた程度で、まだ法人利用はほとんどなく、かなり厳しい(高級レストラン)。

・インバウンド需要はほぼ皆無で、まだまだ在宅勤務者も多いため、以前の来客数のレベルには戻っていない(コンビニ)。

■先行き

・政府、観光庁が行うGo Toキャンペーンが8月より始まる。現在、県で行っているキャンペーンも含めると、状況はよくなると見込んでいる(観光型旅館)。

・月末から通常業務に移行できたので、自動車業界全体も動き出すとみている。イベント開催なども随時計画されているので、少しずつよくなると考える(乗用車販売店)。

・個人客の出控えが続いていることと、多くの学校で夏休みが短縮されることにより、例年並みの水準に回復することは難しく、厳しい状態が続くと考えている(レジャーランド)。

・いまだに新型コロナウイルスの感染者が生じており、今後、第2-3回目の緊急事態宣言が出される可能性もあるため、楽観視できない状況にある。毎年恒例の地域イベントも中止となっており、人の動きは例年よりも少なくなる(タクシー運転手)。

2020年1月分まででは見受けられた消費税率の引き上げや暖冬、さらには米中貿易摩擦の話がほぼ吹き飛び、新型コロナウイルスへの懸念で埋め尽くされている。緊急事態宣言や自粛要請の解除による景況感の回復ぶりを実感する声もあれば、まださまざまな自粛が続いていることや生活様式の変化が生じているために厳しさは相変わらずとの声もある。もっともインバウンドに関しては現状では日本だけでなく他国側の事情もあり、ほぼ皆無なのも仕方がないのだが。また特別定額給付金で消費が大きく動いているようすが確認できる。

企業関連でも新型コロナウイルス流行の影響が見受けられる。

■現状

・社会全体としては新型コロナウイルスの影響を強く感じるが、通信業界では、リモートやオンライン関係での需要増加が顕著になってきており、3か月前と比較すると、景況感は改善傾向にある(通信業)。

・完成車メーカーの生産ラインがストップしており、部品供給の下請会社も生産量が少なくなっている(輸送用機械器具製造業)。

■先行き

・現時点より生産台数は、当初の計画に対して9割レベルで緩やかに回復している。また、客により、台数の回復にばらつきがあるため、生産体制などは、引き続き調整している(輸送用機械器具製造業)。

・今後の民間工事では、新型コロナウイルスによる打撃で、企業の設備投資意欲は縮小していく。建設業では手持ち工事がなくなり、新たな受注も相当困難になると予想される(建設業)。

人や物、お金の動きが縮小し、直接・間接的にマイナスの影響を受けるところが見受けられる。一方で外出や他人と容易に接触する機会の自粛によるリモートやオンライン関連の需要急増で、特需が発生している業界も見受けられる。

雇用関連でも新型コロナウイルスが大きな影響を与えている。

■現状

・6月に入り、求人数が前月の倍、3か月前との比較では、同数の注文数になっている。また、求職者も前月より増加している(人材派遣会社)。

■先行き

・飲食やサービス関連の事業所では、新型コロナウイルス第2波の感染拡大を警戒して、事業拡大にちゅうちょしているようである(職業安定所)。

雇用の観点では新型コロナウイルス大流行(とそれに伴う各種規制の強化)の再来への懸念が強いことがうかがえる。この問題が解決されれば、「雇用関連」はもちろんだが、他の項目も力強い回復を示すのだろう。

今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで1件(前回月2件)、先行きのコメントで5件(前回月4件)の言及がある。不安や懸念といったネガティブな内容が見られるが、それらですら大部分は新型コロナウイルスの話に付け加える形でのものとなっている。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。むしろ消費税率引き下げや消費税廃止を望む声すら確認できる。なお「財政再建」は現状・先行きともに一件も言及されていない。

他方新型コロナウイルスに関しては現状で555件(前回月661件)、先行きで707件(前回月651件)。凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦も暖冬もすべて吹き飛んでしまった状態。また、直接「新型コロナウイルス」の言い回しではないものの、「緊急事態宣言」「来客数は減少したまま」のような明らかに関連する内容の表現が用いられており、実質的に新型コロナウイルスの影響がほぼすべてと見てもよい。そして内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、先行きでは一部で持ち直しへの期待の声も確認できる。

なお「特別定額給付金」については現状のコメントで46件、先行きのコメントで35件が確認できる。現状では肯定的な意見が多いが、先行きでは効果が薄れるとの指摘や次なる施策を求める声も多々見受けられる。

リーマンショックや東日本大震災を超えるレベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、数字の上ではようやく流行前の水準にまで景況感が戻った感はある。しかし第二派などへの懸念から、それ以上の回復が難しい状態となっているのも事実ではある。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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