新型コロナウイルスの影響でDI値は低迷継続…2020年5月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は上昇、先行きも上昇
内閣府は2020年6月8日付で2020年5月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響により、極めて厳しい状況にあるものの、悪化に歯止めがかかりつつある。先行きについては、厳しさが続くものの、持ち直しへの期待がみられる」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が2019年3月分以降、15か月連続する形となっている。
2020年5月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス7.6ポイントの15.5。
→原数値では「ややよくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」が増加、「よくなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは15.4。
→詳細項目はすべての項目が上昇。「雇用関連」のプラス4.4ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でプラス19.9ポイントの36.5。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」「やや悪くなる」が増加、「悪くなる」が減少。原数値DIは37.3。
→詳細項目はすべての項目が上昇。「住宅関連」のプラス13.8ポイントが最小の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。
昨今では現状判断DI・先行き判断DIともに低迷傾向にある。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスによる影響を受けてはいるが、悪化に歯止めがかかったようだ。
先行き判断DIも海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスの影響拡大を懸念する形で、基準値を下回ってはいるが、前回月よりは改善。持ち直しへの期待が大きく膨らんでいるようである。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
2019年12月以降は実際に消費税率が引き上げられた10月の大幅下落からの反動で上昇を示していたが勢いは弱く、消費税率引き上げ直前の値46.6までには戻っていなかった。そして2020年2月では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落。今回月は悪化に歯止めがかかったとの思惑が多数におよんだようで、すべての詳細項目で前回月比でプラスを示している。特に「飲食関連」の上げ幅は大きいが、これは前回月が前代未聞のマイナス値だったことの反動の意味合いもある。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。もっとも前回月比ではすべての詳細項目がプラスを示している。これは景況感持ち直しへの期待の表れといえよう。特に「サービス関連」は前回月比で23.3ポイントも上昇し、41.7ポイントと全詳細項目の中で最大値を示している。
新型コロナウイルスで大打撃は継続中
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・新型コロナウイルスの自粛要請が段階的に解除され、営業の再開が順調に進み、来客数も回復傾向にある。売上は平時の半分以下であるが、客の消費マインドは確実に上向き傾向にあると感じる(百貨店)。
・内食化傾向がまだ進んでおり、食料品、生活必需品を中心として販売量が多い(スーパー)。
・5月は緊急事態宣言のなか、最も稼ぎ時であるゴールデンウィークに全く人が動かず、売上も、前年同月比85%減という結果となっている(都市型ホテル)。
・新型コロナウイルス対策で4月下旬から5月前半まで休業した。通常営業を復活したが、なかなか客が来ない(一般レストラン)。
■先行き
・6月1日から時間短縮での営業を再開することにした。休業中の今が最底辺であるため、今後は、少しずつでも日常を取り戻していけると期待している(観光名所)。
・元々家電は生活必需品のため落ち込みが小さく、今夏の猛暑が予想されているためエアコンの伸びが期待できる。また、定額給付金の効果もあるため、景気はややよくなる(家電量販店)。
・緊急事態宣言は解除されたが客足の戻りは鈍く、まだまだ警戒感が抜けない。他県との往来が少ない現状では回復がなかなか難しい(コンビニ)。
・緊急事態宣言は解除されたものの、その後の先行予約状況は例年に比べかなり鈍化しており、観光需要の回復はまだ当面先になる(その他サービス[レンタカー])。
2020年1月分まででは見受けられた消費税率の引き上げや暖冬、さらには米中貿易摩擦の話がほぼ吹き飛び、新型コロナウイルスへの懸念で埋め尽くされている。特に観光関連は稼ぎ時のゴールデンウィークが事実上無くなったことで大きな影響が生じたようだ。他方、巣ごもり化などライフスタイルの変化により、恩恵を受けたところもある。一方先行きについては緊急事態宣言が解除されたことで、人や物、お金の流れが回復することに期待する声も多々あるが、回復そのものへのスピード感に疑念を覚える声も少なくない。
企業関連でも新型コロナウイルスの影響への不安の声が見受けられる。
■現状
・新型コロナウイルス感染症拡大による影響が大きい。新規感染者数の減少で、荷動きが少し回復しているものの、依然厳しい状況が続いている(輸送業)。
・今回月は、前年同月比で売上は半減しており、自動車向けの量産ラインは、全面的に停止状態にある(一般機械器具製造業)。
■先行き
・テレワークおよびWeb授業用にモバイル端末やネットワーク環境構築の要望が増えている(通信業)。
・新型コロナウイルスの影響で、受注先から減産の生産調整がきている。これからも低迷が続くことを危惧している(精密機械器具製造業)。
人や物、お金の動きが縮小し、直接・間接的にマイナスの影響を受けるところが多々見受けられる。一方で自粛によるテレワークや自宅からの授業受講という環境の変化に伴う新たな特需を受けるところもあるようだ。
雇用関連でも新型コロナウイルスが大きな影響を与えている。
■現状
・新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛体制で採用活動が停滞しており、例年に比べ求人情報が激減している(学校[専門学校])。
■先行き
・自動車メーカーや工場によっては、海外輸出の動きや人気車種、新型車種製造ラインの9月頃までの生産見通しが立ち、新型コロナウイルス発生前の生産体制となり、ややよくなると見込む。ただし、一部のメーカーや工場のため、全体的には変わらないと考える(アウトソーシング企業)。
そもそも来社や企業説明会のような就職活動の機会そのものが自粛を余儀なくされる状況に加え、景況感悪化(の継続)への懸念から求人を抑える動きがあり、雇用市場は決してよい状況とはいえない。一部企業で景気のよい話が見受けられる程度。
今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで2件(前回月3件)、先行きのコメントで4件(前回月1件)の言及がある。不安や懸念といったネガティブな内容が見られるが、それらですら大部分は新型コロナウイルスの話に付け加える形でのものとなっている。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。むしろ消費税率引き下げや消費税廃止を望む声すら確認できる。なお「財政再建」は一件も言及されていない。
米中貿易摩擦に関しては現状のコメントで1件、先行きのコメントで1件が確認できる。ネガティブな内容で、景況感の足を引っ張っていることは間違いない。もっとも今回月では消費税同様に、ほとんどが新型コロナウイルスの言及のついでに語られている形となっている。
他方新型コロナウイルスに関しては現状で661件(前回月846件)、先行きで651件(前回月940件)。凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦も暖冬もすべて吹き飛んでしまった状態。ただし前回月よりは現状・先行きともに減少しており、悪化に歯止めがかかった感はある。また、直接「新型コロナウイルス」の言い回しではないものの、「緊急事態宣言」「客の減少が顕著」「巣ごもり状態」「3密」のような明らかに関連する内容の表現が用いられており、実質的に新型コロナウイルスの影響がほぼすべてと見てもよい。そして内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、先行きでは一部で持ち直しへの期待の声も確認できる。
なお新型コロナウイルスの流行に関しては、今秋から冬にかけて流行の第二波を想定する声が少なくない。これもまた景況感の足かせとなっているようだ。
リーマンショックや東日本大震災を超えるレベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、しばらくは全面的な回復は期待できない。次回月以降も心理的、そして具体的な形で景況感に悪い影響を与えることになるだろう。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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