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2019年の総広告費は6兆9381億円…電通推定の広告費動向をさぐる(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 街を彩る数々の広告。その広告費の動向は(筆者撮影)。

広告費の総額は増加、中身は二極化

電通は2020年3月に日本の広告費に関する調査報告書「2019年 日本の広告費」を発表した。それによれば電通推定による2019年の日本の総広告費は前年比6.2%増の6兆9381億円であることが明らかになった。ただし2019年からデジタル領域やイベント領域の推定分が新たに加わっており、それらを除いた場合、総広告費は6兆6514億円となり、前年比は1.9%増となる。

主要媒体区分で金額動向を見ると、前年比プラスはインターネット広告のプラス3459億円とプロモーションメディア広告のプラス1554億円のみで、それ以外はすべてマイナス。テレビメディアの511億円のマイナスが一番大きなマイナス幅となる。

↑ 媒体別広告費(電通推定、億円)(2015~2019年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、億円)(2015~2019年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、前年比)(2019年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、前年比)(2019年)

2019年は先行き不透明感の強い世界経済や度重なる自然災害の到来、消費税率引き上げに伴う個人消費の減退など広告業界の足を引っ張る要因は多々あったものの、インターネット広告やイベント関連のような好調な分野の広告が後押しする形で広告費へのリソース配分の思惑も高まりを見せ、全体としては前年比でプラスを示した。

他方、広告メディアにおける技術革新、特にデジタル化への影響も大きなものとなり、進化の波に乗るメディアには広告費の投入が積み増しされ、立ち遅れたメディアへの投入が縮小するという、ある意味酷な結果が数字となって表れた。具体的には主要広告媒体の4マスすべてが前年比でマイナスを示す一方で、インターネット広告とプロモーションメディア広告が大きく伸張する形となった。

前年となる2018年では軟調な動きを示したメディアもあることから、その反動も考慮するために2年前比を試算した結果は次の通り。

↑ 媒体別広告費(電通推定、2年前比)(2019年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、2年前比)(2019年)

2年前比でも4マスすべてがマイナスであることに変わりはない。直近の2019年も含めたここ1、2年の総広告費の堅調ぶりは、事実上インターネット広告とプロモーションメディア広告がけん引しているものと判断できる(プロモーションメディア広告は2019年分で新たに追加されたイベントの1803億円を差し引いて計算するとマイナス2.1%になるのだが)。総広告費はプラス8.6%(年換算でプラス4.2%)。リーマンショック後、震災を乗り越え、景況感の回復とともに額面では確実に復調しつつある広告業界全体と、その波に乗れないメディアの動向が顕著に表れる状況が見て取れる。

1985年以降の動向確認

今資料では1985年以降の主要媒体別の広告費一覧(あくまでも電通の推定によるものだが)も掲載されている。その値をグラフ化したのが次の図。なお2014年分から既存の地上波テレビと衛星メディアが統合されテレビメディアとして扱われることになったため、過去の値も逆算した上で反映させている。

↑ 媒体別広告費と名目GDPの移り変わり(電通推定、左軸:GDP・右軸:総広告費、億円)
↑ 媒体別広告費と名目GDPの移り変わり(電通推定、左軸:GDP・右軸:総広告費、億円)

計測基準の変更により、2004年と2005年との間では厳密には連続性は無い(雑誌、インターネット広告、プロモーションメディア広告の3項目で差異が生じ得る)。特にプロモーションメディア広告では変更年前後に大きな差異が生じている。突然、該当広告部門に大規模な変化が生じたわけではないので注意が必要。

中長期の動向をグラフ化すると、(連続性を欠いた部分は別にしても)オーソドックスなプロモーションメディア広告はそれなりに順調な伸びを示していたが、2007年の金融危機勃発以降は下降傾向にあったことが分かる。そして今世紀に入ってから順調に成長を見せているのはインターネット広告のみとなる。テレビメディアは横ばいの動きに見えるし、プロモーションメディア広告は緩やかな下落の動きを示している(直近年の上昇は追加区分によるところが大きい)。

伸び悩んでいる媒体に共通しているのは、1990年代後半(媒体によっては前半)にピークを迎えたあと(広告費の)成長が止まっており、 2002年から2003年あたりから下げ基調を見せていること。この下げ基調の時期は携帯電話やインターネットの普及など、新メディアが世間一般に浸透し始めた時期と一致する。利用者のメディア移行に伴い、広告出稿側も注力・広告費配分のバランス調整を行い、その結果が出たと見るのが無難ではある。

「広告費全体が削られているから4マス、既存メディアの広告費も減っている」との主張がある。しかしそれはさほど筋が通らない。発表資料には総広告費も掲載されており、それによれば総広告費は名目GDPの伸びにほぼ連動する形(起伏率は名目GDPより総広告費の方が大きい)で上昇。1985年と比べると2019年のそれは2倍近くの増加を示している。

↑ 総広告費と名目GDPの移り変わり(電通推定、左軸:GDP・右軸:総広告費、億円)
↑ 総広告費と名目GDPの移り変わり(電通推定、左軸:GDP・右軸:総広告費、億円)

また、この数年の動きをよく見直すと、新メディアの伸長に伴い、広告を出稿する側の企業による各広告メディアに対するバランス調整が行われているのが確認できる。詳しくは別の機会に譲ることにするが、新メディアとして成長を続けるメディアと、相対的・絶対的広告力が漸減するメディアとの間で、各企業による広告費のウェイトが明らかに変化しつつある(経産省の特定サービス産業動態統計調査からもその動きは確認できる)。昨今の金融危機や震災もまた、それらの動きを加速する一つの出来事に過ぎないと考えれば、この動きも容易に理解できよう。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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