新型コロナウイルス感染症の影響で急落…2020年2月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は上昇、先行きは下落
内閣府は2020年3月9日付で2020年2月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に厳しい状況となっている。先行きについては、一段と厳しい状況になるとみている」と示された。2019年2月分までは「緩やかな回復基調が続いている」で始まる文言だったことから、景況感がネガティブさを見せる形が2019年3月分以降、12か月連続する形となっている。
2020年2月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス14.5ポイントの27.4。
→原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは27.4。
→詳細項目はすべての項目が下落。「飲食関連」のマイナス23.8ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス17.2ポイントの24.6。
→原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは26.6。
→詳細項目はすべての項目が下落。「飲食関連」のマイナス26.4ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は皆無。
昨今では現状判断DI・先行き判断DIともに低迷傾向と表現できよう。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中。今回月は新型コロナウイルス感染症による影響を受け、大きな下落を見せている。
先行き判断DIも海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。さらに今回月は新型コロナウイルス感染症の影響拡大を懸念する形で、大きくマイナスを示す形になった。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
2019年11月以降は実際に消費税率が引き上げられた10月の大幅下落からの反動で上昇を示していたが勢いは弱く、消費税率引き上げ直前の値46.6までには戻っていなかった。そして今回月では新型コロナウイルス感染症の影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落を見せる形となる。なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。最大の下げ幅は「飲食関連」の26.4ポイントだが、これは新型コロナウイルス感染症の影響で外出、特に人が集まるような場所への行き来が自粛される状況が、しばらく継続するものとの想定があるものと考えられる。同様の理由で「サービス関連」も下げ幅が大きなものとなっている。
新型コロナウイルスで大打撃
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・客の基本的な消費意欲は低下しているが、新型コロナウイルスの影響により、消毒薬などの需要で店頭の来客数はやや増えている。そのため、今月は全体として横ばいで推移している(一般小売店[医薬品])。
・新型コロナウイルスの影響により、外国人観光客が減少しているほか、観光施設や宿泊施設における国内観光客のキャンセルが増加している。2月の冬季観光シーズンを直撃しており、多大な影響が生じている(旅行代理店)。
・新型コロナウイルスの影響は、土日祝日の来客数減少が顕著で、月平均も8%以上の低下である。販売数も生鮮食品など食料品のマイナスが著しく、10%程度低下している(百貨店)。
・中旬以降、新型コロナウイルスの影響が顕著に表れている。行動自粛要請などもあり、以前とは比較ができないほど、客の動向の落ち込みがみられる(一般レストラン)。
■先行き
・新型コロナウイルスの影響で内食や家飲みが増え、売上が上がると見込む(スーパー)。
・新型車イベントなど販売増を期待する材料はあるものの、新型コロナウイルスの影響が長引くことも予想され、状況の悪化を見込んでいる(乗用車販売店)。
・新型コロナウイルスの感染がいつ落ち着くのか、全く不透明である。外出を控える人が今後も増えるため、来客数の減少が予想される(コンビニ)。
・新型コロナウイルスの感染拡大により、ホテル全体に大きな影響が出ている。長引けば先々の案件への影響も避けられず、開催中止や延期などが考えられる。繁忙期だけに、キャンセルが相次げば取り返しが付かず、厳しい状況になる(都市型ホテル)。
前回月まで見受けられた消費税率の引き上げや暖冬、さらには米中貿易摩擦の話がほぼ吹き飛び、新型コロナウイルス感染症への懸念で埋め尽くされている。一部にはポジティブに影響するところもあるが、ほとんどがネガティブ。人も物も動きが停滞してしまうため、あらゆる方面で悪影響が生じてしまっている。
企業関連でも新型コロナウイルス感染症の影響への不安の声が見受けられる。
■現状
・新型コロナウイルスの影響でイベントが中止され、当日使用する予定であった印刷物の注文がキャンセルとなっている(出版・印刷・同関連産業)。
・新型コロナウイルスの影響は大きい。特に、中国から商品を輸入して国内流通させる寄託者の受注量の減少は、顕著である(輸送業)。
■先行き
・新型コロナウイルスの影響が基幹産業である観光産業にダメージを与えていることから、県内企業の危機意識が高まり、当面の販促活動を控えるなどの動きがある(広告代理店)。
・新型コロナウイルスの影響で、中国から商品、原材料の入荷が止まる。自社製品の製造、仕入商品の供給ができなくなることが懸念される(食料品製造業)。
新型コロナウイルス感染症は国内の人や物の動きを低迷させるだけでなく、国外においても同様の影響を与えているため、それが国内にも悪影響をおよぼす形となってしまっている。特に人が集まることでビジネスとなる業界には大きな打撃が生じている。
雇用関連でも新型コロナウイルス感染症が大きな影響を与えている。
■現状
・新型コロナウイルスの拡散防止の観点から、求職者向けの会社説明会が中止になっている(学校[大学])。
■先行き
・新型コロナウイルス問題がいつ収束するかが不透明で、製造業、観光業、飲食業など幅広い業界が厳しい状況に陥り、求人にも悪影響を与える(求人情報誌製作会社)。
景況感の悪化以前の問題で、感染リスクを減らすために会社説明会が中止になるという事態が生じており、これもまた雇用関連には悪影響となっている。
今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで83件(前回月198件)、先行きのコメントで55件(前回月124件)の言及がある。不安や懸念といったネガティブな内容が多々見られるが、その一方で「影響が薄れ、徐々に回復してくる」「引き上げ後も売上はあまり変わっていない」などの意見も少なからず見受けられるようになった。もっとも一方で「今後徐々に影響が出てくる」との意見も複数確認できるのも事実ではある。いずれにせよ、どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。なお「財政再建」は一件も言及されていない。
米中貿易摩擦に関しては先行きのコメントにおいて「米中」で9件が確認できる。ネガティブな内容がほとんどで、景況感の足を引っ張っていることは間違いない。もっとも今回月では「米中貿易摩擦、新型コロナウイルスともに出口が見えない」「これまで米中貿易摩擦の影響を受けてきた世界経済に、新型コロナウイルスが追い打ちを掛けている」のように、大部分は新型コロナウイルスの言及のついで的に語られている形となっている。
他方新型コロナウイルス感染症に関しては現状で788件(前回月97件)、先行きで1059件(前回月345件)。凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦も暖冬もすべて吹き飛んでしまった状態。内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、先行きでは特に悲観的な意見が多い。景況感のけん引役とされたオリンピックへの影響すら心配する声も少なくない。
今回月でリーマンショックや東日本大震災レベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、しばらくは状況の改善は期待できない。次回月以降も心理的、そして具体的な形で景況感に悪い影響を与えることになるだろう。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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