Yahoo!ニュース

主要国では62%が「公共の場で自分の考えを表現する権利は守られている」と考えている

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 選挙で選ばれた議員が政治を執り行う民主主義。恩恵をどのように認識しているか。(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

民主主義という国家体制、政治的な仕組みは多くの国で用いられているが、その実益を該当国の国民が完璧な形で受けているとは限らない。実際には恩恵を受けていてもそれに気が付かない、実感していないこともある。民主主義国家の国民は、自国の民主主義体制の実益に関して、どのような認識をしているのか。アメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2019年4月に発表した、民主主義諸国における民主主義の浸透度合い、国民の認識に関する調査結果「Many Across the Globe Are Dissatisfied With How Democracy Is Working」(※)の内容を基に、その実情を確認する

今調査対象母集団では全体として自国の民主主義の実情に満足している人は45%、不満足な人は51%。南米では低め、アジアでは高めの値が出ている。欧米では国によって大きな差が生じている。

↑ 自国における民主主義の実情に満足しているか(2018年春)
↑ 自国における民主主義の実情に満足しているか(2018年春)

それでは具体的に民主主義体制において、各国の国民はどのような認識を示しているのだろうか。まずはポジティブな観点からの同意率を確認する。

↑ 自国における実情(ポジティブ方面)(2018年春)
↑ 自国における実情(ポジティブ方面)(2018年春)

「公共の場で自分の考えを表現する権利は守られている」、つまり言論の自由に該当する項目は、全体では62%の人が同意を示している。もちろんこの権利は同時に、表現した内容について本人がその責を持つ義務が生じていることは言うまでもない(義務や責任の無い自由は単なる自由奔放でしかない)。

おおよその国では半数以上が同意を示しているが、欧州の一部、ハンガリーやスペイン、イタリアや南米のアルゼンチン、ブラジルでは4割台に留まっている。ちなみにロシアでは57%が同意。

他方「多くの人が自身の生活水準を向上させる機会を持つ」、つまり経済上の改善機会の平等性に関しては57%が同意を示している。こちらは「公共の場で自分の考えを表現する権利は守られている」とは異なり、国によって差異が大きいのが目立つ。例えば欧州ではオランダやスウェーデンが8割前後の値なのに対し、ギリシャやスペイン、イタリアでは2割台しか同意者がいない。

印象的には現在の経済状態に加え、将来的な経済上の発展可能性が見えているか否か、国民が認識できているか否かで大きな差が生じており、不調な国ほど同意率も低いように見える。経済面で自分自身の現状も将来も希望が見えなければ、国全体の様式にも否定的になるのは必然といえよう。

続いてネガティブな観点からの同意率。

↑ 自国における実情(ネガティブ方面)(2018年春)
↑ 自国における実情(ネガティブ方面)(2018年春)

「誰が選挙で勝っても世の中はさほど変わらない」、半ば民主主義の否定のような諦め的意見だが、この同意率は全体で60%と半数を超えている。特に欧州ではこの値は高めで、ギリシャでは82%と8割を超えている。ロシアでも72%。他方、同じように政情不安定さが伝えられる国でもスペインでは42%、イタリアでは57%と低めの値が出ているのは興味深い。体制の転換による期待が持てるか否か、最近の自国の実情に合わせた値ということだろうか。

あるいは逆で、体制の転換で世の中が変わる、よりよい方向に進むと信じる人の多い少ないが今値(の逆値)なのかもしれない。その観点では日本の62%、アメリカ合衆国の54%という値は色々と考えさせられる。

「ほとんどの政治家は腐敗している」は全体では54%。欧州ではおおよそポジティブ方面で高い値を示している国ほど低い値が示されている、つまり政治家への信頼が高い状態なのが分かる。ギリシャでは実に89%もの人が政治家の腐敗を確信している。ロシアは82%。

興味深いのは民主主義体制への肯定感がさほど高くない南米諸国において、比較的低い値が出ていること。メキシコではわずか27%に留まっている。

ちなみに報告書では具体的な値は例示していないものの、概して回答者が支持する政党が政権を担っていた場合、ポジティブ方面では高い値を、ネガティブ方面では低い値を示す傾向があると指摘している。要は自分の望みの方向性を持つ政権による治世ならば、民主主義は正しく守られ、生活もよいものであると認識できてしまうということになる。よし悪しの判断基準が絶対的なものでは無く、政治的信奉に影響されるのはどの国でも変わらないということだろうか。

■関連記事:

日本の民主主義の実情に満足している人は40%のみ

米大統領選挙直前時点で「マスメディアはクリントン氏にえこひいきをしている」との認識は52%

※Many Across the Globe Are Dissatisfied With How Democracy Is Working

おおよその国では2018年3月から5月にかけてRDD方式で選出された18歳以上の1000人前後の人に対し、電話経由によるインタビュー形式で行われたもので、それぞれの国の国勢調査の結果に基づき男女別、年齢、教育、地域などの属性によるウェイトバックが実施されている。一部の国では対面方式による調査方法が用いられている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事