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天災で軟調…2018年9月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが。(ペイレスイメージズ/アフロ)

・現状判断DI(※)は前回月比マイナス0.1ポイントの48.6。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.1ポイントの51.3。

・「北海道胆振東部地震」「台風21号」の影響が生じている。

現状は下落、先行きも下落

内閣府は2018年10月9日付で2018年9月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、コストの上昇、通商問題の動向などに対する懸念もある一方、災害からの復旧などへの期待がみられる」と示された。

2018年9月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス0.1ポイントの48.6。

 →原数値では「よくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは47.3。

 →詳細項目は「小売関連」「非製造業」「雇用関連」以外が下落。「雇用関連」のプラス1.7ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.1ポイントの51.3。

 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「変わらない」が減少。原数値DIは50.7。

 →詳細項目では「小売関連」「サービス関連」「雇用関連」以外が上昇。「飲食関連」のプラス2.4ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「飲食関連」以外すべて。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減速への懸念も、消費動向に影響を与えてきそう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からはおおよそ回復している。昨今では現状判断DIにおいてやや低迷、ぬるま湯的な軟調さと表現できる動きにあるのが気になるところ。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年9月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年9月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは総計で前回月から0.1ポイントのマイナス、詳細項目では「小売関連」「非製造業」「雇用関連」以外で下落。もっとも大きな下げ幅は「サービス関連」が計上した2.6ポイント、もっとも大きな上げ幅は「雇用関連」による1.7ポイント。「サービス関連」の下げは「北海道胆振東部地震」「台風21号」による影響が大きい。

景気の先行き判断DIは詳細項目では「小売関連」「サービス関連」「雇用関連」が下げ。下げ幅は「小売関連」の0.6ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年9月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年9月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目は「飲食関連」以外すべて。

相次ぐ自然災害の到来による影響

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・月初めに、台風に備えたまとめ買いによる売上高のプラスもあり、月間を通じて安定的に売上高の伸びが良かった(スーパー)。

・秋物の動きがよい状況である。コートなどの重衣料も前年より早く売れ出している(衣料品専門店)。

・月の前半は30度以上の暑い日が続き、後半は台風を含め雨天が多かったので、今月は来客自体がかなり少ない(一般レストラン)。

・9月は北海道胆振東部地震の影響で外国人観光客および近郊のイベント関連での宿泊客が激減してしまった。国内の観光客、ビジネス客による宿泊は若干回復基調にあるが、補填にはほど遠い(観光型ホテル)。

■先行き

・早めの忘年会が定番化しており、年末に限らず11月に入るとそれなりに予約が増えていくため、現状よりはよくなる見込みである(一般レストラン)。

・BS4K・8K放送によりテレビの販売量が増える(家電量販店)。

・原油価格が上昇しており、商品単価も徐々に値上がりしているなど、よくなる要素がない(スーパー)。

・今夏の天候不順などで米を中心とした農作物の作柄が悪いことから、今後の景気は悪くなる。北海道胆振東部地震の影響により、客の買い渋りが強まることも懸念される(コンビニ)。

今回月では西日本、特に近畿地方における「台風21号」、そして北海道における「北海道胆振東部地震」と、自然災害が景況感を大きく引っ張る形となった。7月では「平成30年7月豪雨」の影響が多々見られたことと併せ考えると、今年は自然災害の当たり年の感は否めない。また自然災害以外の天候要因では、プラス・マイナスの影響双方が見られる。早くも秋物がよく売れているとの意見もある。

企業関連の景況感でも自然災害に関する影響が確認できる。もっともその方向性はプラス・マイナス双方。DIの下げ幅がさほど大きく無かったのも、マイナスの影響ばかりでは無いのが原因のようだ。

■現状

・平成30年7月豪雨災害を契機とした取引先での事業継続計画に関する情報システムの提案依頼が増加している(通信業)。

・原材料を始め様々なコストアップ要因が収益を圧迫している。その対策として取引条件や販売価格の見直しを進めているが、その影響からか一部で受注量が減少している(食料品製造業)。

■先行き

・年末にかけてある程度の設備投資が見込まれるのと、当社製品の販売が増えるという期待感がある(電気機械器具製造業)。

・災害の復旧に助成金が出るほか、年度内での完了といった条件もあるため、建築や設備などの特需は続く(経営コンサルタント)。

原油価格は高止まりの中にあり、燃料費のコストも厳しい状態が続いている。他にも原材料価格の上昇や人件費の高騰が生じており、その上、米中貿易摩擦による影響の懸念、さらには影響の実体化のコメントも地域の詳細コメントでは確認できる。全体的なコストアップが企業の思惑に影響しているようである(まさにインフレ化に向けた動きに他ならないのだが)。

雇用関連では人手不足の現状を推し量れる意見が見受けられる。

■現状

・長期的事業を見通し、人材確保、育成が必要な状況である会社が多くなっている(職業安定所)。

■先行き

・募集をかけてもなかなか人材が採用できない企業が、現在勤務している従業員の離職を防止する方に予算をかけ、採用費用を減らしつつある(求人情報誌製作会社)。

長期雇用は見方を変えれば、従業員における長期的な継続収入の確保を意味する。消費活動の活性化も期待でき、景況感にもプラスとなる。他方、新規人材確保に至らない企業が、せめて現状維持を確かなものにしようと、現行従業員の待遇改善を模索している様子がうかがえるのは興味深い。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計38件、先行き計52件、合わせて90件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好12件、やや良好28件、不変93件、やや悪い20件 悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

人手不足に言及するコメントを精査すると「最低賃金の改正で、現行の人件費が上がり、人手不足も重なり、募集単価も上昇している。既存の契約金額の値上げ交渉も進まず、見通しは厳しい」などのように、雇用市場の変化に対応しようとしない、できない企業において、人手不足感が強いとの印象を受けるものが少なからず見受けられる。他方、現状を見据えた上で「これからも人手不足は続くため、特に福利厚生など従業員の優遇策を考えていかなければならない」「改正労働者派遣法が労働市場にどう影響しているかは分からないが、今まで販売員を非正規で雇用していた大手小売業で人手不足から積極的に正社員求人に転換する動きもあり」「人手不足を強く訴える企業は、引き続き変わらない状況にある。そのなかで、今まで職業安定所を利用していなかった、若しくは、しばらくの間利用していなかった会社からも、最近は求人を持ち込まれるケースが数件見受けられる」「人材不足、派遣労働者の3年満了による雇用安定措置、非正規社員の最低賃金の上昇などの問題から、非正規社員の無期化、正社員化、給与改定などが進み、人件費の上昇が加速する」などのように、問題意識を明確にし、状況改善へとかじ取りをする企業の動きや状況認識もある。

「働き方改革」に関しては「人手不足や働き方改革、採用難といった人材を取り巻く環境の中で、省力化を目指したり、教育によって生産性を高める動きがこれからも続く」「人材不足解消の秘策の一つとして、元気のある女性を活用するための働き方改革は急務といえる」のようなポジティブな意見がある一方で、「日本の働き方改革による労働力確保の困難な状況」「働き方改革を進めていくなかで、人員確保のため人件費部分への投資がこれからかなり必要となる」などの否定的な意見も見受けられる。状況の改善のために必要不可欠なコストをどのように認識するかで、意見が大きく分かれているようだ。

昨今問題視され今調査でも多々意見が見受けられ、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。

現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。

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※DI

※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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