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生活意識は全体と比べややゆとりあり…高齢者の生活意識の変化をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 現役を引退した高齢者はゆとり感がどれほどあるのだろうか。(写真:アフロ)

・高齢者世帯では生活意識についてゆとり感のある人は5.4%。苦しさを感じている人は54.2%(2017年)。

・苦しさを感じる人の割合は2005年ぐらいまでは漸増。その後は横ばい。

・高齢者世帯においては全体平均と比べ、生活で余裕があるか否かの点ではやや余裕がある状態が続いている。

生活のゆとり感はお財布の中身だけでなく、さまざまな要素で判断される。現役を引退した人達はどのような心境なのだろうか。厚生労働省の定点観測調査「国民生活基礎調査」(※)の公開値から、その推移と現状を確認する。

今回対象とする「生活意識の状況」は毎年調査が行われており、複数年の調査結果の値を取得できる。これは生活意識について「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「たいへんゆとりがある」の5選択肢から1つを選んでもらい、その回答を集計したもの。そのうち高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、またはこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯)における各年の結果を抽出し、グラフ化したのが次の図。

↑ 生活意識別世帯数の構成割合(積み上げグラフ、高齢者世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(積み上げグラフ、高齢者世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(折れ線グラフ、高齢者世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(折れ線グラフ、高齢者世帯)

昔から現在に近づくに連れて「苦しい派」(「大変苦しい」「やや苦しい」の合計)が増加するのは全体値での動向と同じだが、「普通」の減少が2005年前後でほぼ止まり、最近ではむしろ微増の動きすら見られたのが「全体値」との大きな違い。全体値では「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」の値が互いに近づきあう雰囲気すらあるが、高齢者世帯に限ればその動きは顕著なものではない。時代の流れとともに生活への厳しさが積み増される点では変わりないが、「全体」と比べて非常にペースはゆるやかといえる。

2014年は「苦しい派」が大きく上昇している。消費税率の引き上げは高齢者世帯の景況感には大きく左右したようだ。それ以降では生活の苦境感がいくぶん減少を見せているのは全体値と変わらない。直近の2017年においては前年比で「苦しい派」がやや増加しているのが、これは前年の大きな減少のリバウンドのようなものだろう。

この状況を分かりやすくするため、全体・高齢者世帯ともに「苦しい派」の動きを見たのが次のグラフ。

↑ 生活意識別世帯数の構成割合(「大変苦しい」+「やや苦しい」、全体と高齢者世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(「大変苦しい」+「やや苦しい」、全体と高齢者世帯)

1998年前後と2005年前後にはほとんど差異が無い状態になったものの、それ以外の期間では概して5ポイント前後の違いが生じている。

1998年前後と2005年前後にはほとんど差異が無い状態になったものの、それ以外の期間では大よそ5%ポイント前後の違いが生じている。

ただし一つ前のグラフを見返し、「苦しい派」のみで動きを見ると、2005年で約半数に達した後は大きな動きは無いものの、内部では確実に「大変苦しい」が増加しているのが分かる。「苦しい派」の中でも「大変苦しい」が増加していること、それが「苦しい派」を底上げしているのが、最近の高齢者におけるトレンドといえる。

それゆえに、2016年における「大変苦しい」の大幅減少による「苦しい派」の急落は、全体とのかい離が大きなものとなったのも含め、注目すべき動きに違いない。念のため確認したが、回答用紙の記述方法をはじめとした、調査様式の変更によるものではない。

今件データは「世帯が調査日時点での暮らしの状況を総合的にみてどう感じているかの意識」を選択肢から選んでもらったもの。回答者一人一人の主観によるところが大きい。例えばエンゲル係数や可処分所得の推移のような具体的な数字の変化ではないため、その点を留意しておく必要がある。つまり心理的影響が多分にある。

その上で、高齢者世帯においては全体平均と比べ、生活で余裕があるか否かの点ではやや余裕がある状態が続いている。この実情は把握しておいても損はあるまい。

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※国民生活基礎調査

全国の世帯および世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2017年6月1日に世帯票・所得票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収され、集計されている(一部は密封回収)。回収の上集計が可能なデータは世帯票が4万6399世帯分、所得票が6541世帯分。今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2017年分)は簡易調査に該当する年であり、世帯票・所得票のみの調査が実施されている。

また1995年分は阪神・淡路大震災の影響で兵庫県の分、2011年分は東日本大震災の影響で岩手県・宮城県・福島県(被災三県)の分、2012年は福島県の分、2016年は熊本地震の影響で熊本県の分はデータが取得されておらず、当然各種結果にも反映されていない。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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