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多部位ではまだ半数に届かず…がん検診の動向をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 年一の健康診断でがん検診を受ける機会はあるのだが……(写真:アフロ)

多種類の傷病の治癒方法の発見や治療法の改善が進むに連れ、相対的に研究進捗の歩みが遅い「がん」の発症率、そしてそれを起因とする死亡率は増加の一途をたどっている。厚生労働省の人口動態統計の最新版によれば、全体ではトップ、男性では45歳から94歳、女性では30歳から89歳において、悪性新生物(がん)を死因とする人が最上位の比率にある。

↑ 2016年人口動態統計月報年計における死因順位(人口10万人対、総数)
↑ 2016年人口動態統計月報年計における死因順位(人口10万人対、総数)

「がん」に対する最良の手立ては、健康的な身体作りと定期的な検診による早期発見・早期対応にある。がん検診に関しては、早期発見によるリスク軽減効果に関する啓蒙が進んでいることもあり、検診率(受診率)は少しずつではあるが上昇傾向にある。その実情を厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」(※)から確認する。

まずは2016年における受診率。男性は肺がん検診がもっとも受診率が高く5割超え、女性は乳がん検診がもっとも高く4割を超えている。女性は子宮がん検診も4割超え。

↑ 性別にみたがん検診を受診した者の割合(2016年)(過去1年間、但し子宮がんと乳がんは過去2年間)
↑ 性別にみたがん検診を受診した者の割合(2016年)(過去1年間、但し子宮がんと乳がんは過去2年間)

女性特有の2検診が「過去2年間の回答」なのは、両検診が2年おきに行うことを基本としているから。各部位別の検診率の違いを見ると、男性は肺がん・胃がんが高めで大腸がんは低め、女性は子宮がん・乳がん・肺がんは高めで胃がん・大腸がんは低めと出ている。一方、厚労省の人口動態統計月報年計から「部位別にみた悪性新生物」で死亡率を確認すると、悪性新生物(がん)の場合男性は「肺」「胃」「大腸」、女性は「大腸」「肺」「胃」の順に死因部位率が高い(2016年時点)。男女とも高めの死因率の肺がんには強い関心を抱いて検診を行い、また女性は女性特有の子宮がん・乳がんが気になり検診率が高い動きが確認できる。もっとも女性では一番死因部位率の高い大腸がんに関して受診率が低めなのが気になるところ(逆に受診率が低いからこそ、発見が遅れて死因率が上になっているのかもしれない)。

最後に、直近4回分の「国民生活基礎調査」大調査における各部位のがん検診受診率の推移が次のグラフ。1997年の女性特有のがん検診は「過去1年間」でのみ問い合わせているので、値が少々低いものとなってしまっている。

↑ 性別にみたがん検診を受診した者の割合(男性)(過去1年間、但し子宮がんと乳がんは過去2年間)
↑ 性別にみたがん検診を受診した者の割合(男性)(過去1年間、但し子宮がんと乳がんは過去2年間)
↑ 性別にみたがん検診を受診した者の割合(女性)(過去1年間、但し2010年と2013年の子宮がんと乳がんは過去2年間)
↑ 性別にみたがん検診を受診した者の割合(女性)(過去1年間、但し2010年と2013年の子宮がんと乳がんは過去2年間)

2010年から2013年にかけて大きく検診率の向上が見られるが、これは各自治体における受診勧奨事業などの効果が表れていると思われる。ただしそれでも検診率は5割、つまり半数に届かず、半分以上ががん検診を直近で受けていない状態にあることに変わりはない。唯一男性の肺がん検診の受診率が、直近で5割を超えたのが目立つほど。

「がん検診」は確実にがんを見つけられるものではない。とはいえ、がんによるリスクを減らせるもっとも良い手立てであることにも違いない。がんは目に見えるものでは無く、特定の病状を有するものでは無い。仮にがんによる病状を覚えても、他の病気と思い違いしてしまうことも多い。是非とも積極的に、がん検診を受診することをお勧めしたい。

勘違いをしている人もいるが、「がん検診を受けるとがんが発症する」わけではなく、「がん検診を受けると発症しているがんを確認することができるかもしれない」のである。

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※国民生活基礎調査

全国の世帯及び世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2016年6月2日・7月16日にそれぞれ世帯票・所得票・介護票、所得票・貯蓄票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収され、集計されている(一部は密封回収)。回収できたデータは世帯票・健康票が22万4208世帯分、所得票・貯蓄票が2万4604世帯分、介護票が6790人分。

今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2016年分)は大調査に該当する年であり、世帯票・所得票だけでなく、健康票・介護票・貯蓄票に該当する調査も実施されている。

また1995年分は阪神・淡路大震災の影響で兵庫県の分、2011年分は東日本大地震・震災の影響で岩手県・宮城県・福島県(被災三県)の分、2012年は福島県の分、2016年は熊本地震の影響で熊本県の分はデータが取得されておらず、当然各種結果にも反映されていない。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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