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トップはヤンジャン50万強…男性向けコミック誌の部数動向をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 漫画喫茶でもおなじみの雑誌。男性向けコミックの部数は?(写真:アフロ)

ヤンジャントップの53.5万部、次いでビッグコミックオリジナル

専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由で漫画や文章を読む機会が多数設けられるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇しているとの見方もある。一方で紙媒体を用いた本は相対的にその立ち位置を落とし、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。今回はその雑誌のうち、特にすき間時間の良き友である男性向けコミック誌(少年向けコミック誌よりも対象年齢が上の雑誌。青年向けも含む)について、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(該当四半期の1号あたりの平均印刷部数。印刷数が証明されたもので、出版社の自称・公称部数では無い。売れ残り、返本されたものも含む)から、実情をさぐる。

まずは男性向けコミック誌の直近四半期、2017年1月から3月の実情。

↑ 2016年10~12月期と最新データ(2017年1~3月期)による男性向けコミック誌の印刷実績
↑ 2016年10~12月期と最新データ(2017年1~3月期)による男性向けコミック誌の印刷実績

男性向けコミックは以前解説した少年向けコミック誌と比べると印刷部数の規模が小さく、また飛びぬけた値を示す雑誌が無いため、上位陣では比較的きれいな部数の差異による傾斜のグラフが生成される。また第5位以降の部数差異はごく少数で、ちょっとしたヒット作の登場による部数の飛躍があれば、順位が塗り替えられるかもしれない。

男性向けコミック誌では前四半期と比べラインアップからの脱落、追加誌は無し。半年前に結構な堅調部数を見せていた「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」が脱落したのだが、それの穴を埋めるような雑誌はまだ表れていない。

プラスが4誌…前四半期比

続いて公開データを基に各誌の前・今四半期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。雑誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、雑誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2017年1~3月期、前期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック)(2017年1~3月期、前期比)

プラス計上をした雑誌は誤差領域だが4誌、「コミック乱」「ヤングアニマル」「コミック乱ツインズ」「ビックコミックスピリッツ」。他方、誤差範囲を超えた5%超の下げ幅は1誌、「ヤングアニマル嵐」。同誌は直近では7.7万部の部数を誇る中堅誌ではあるが、部数は低迷中で最近では下げ幅が加速している感は否めない。

↑ 雑誌印刷実績変移(ヤングアニマル嵐)(部)
↑ 雑誌印刷実績変移(ヤングアニマル嵐)(部)

基幹誌となる「ヤングアニマル」よりも部数の下げ方が急なのも合わせ、状況改善の施策が求められるところではある。

季節変動を除外できる前年同期比では

続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2017年1~3月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2016年1~3月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が開いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。数十年もの歴史を誇る雑誌もある中で、わずか1年で数十パーセントもの下げ幅を示す雑誌も見受けられるが、それだけ雑誌業界は大きく動いていることを再確認させられる……とはかつて用いていた表現だが、最近では「見受けられる」ではなく「少なくない」と差し換えた方が良い状況となっている。

↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2017年1~3月期、前年同期比)
↑ 雑誌印刷実績変化率(男性向けコミック誌)(2017年1~3月期、前年同期比)

全誌がマイナスで誤差領域は7誌、誤差を超えたのは9誌。上記で言及した「ヤングアニマル嵐」の下げ幅が2割近くに達しており、強い危機感が改めて認識できる。他にも「アフタヌーン」「月刊!スピリッツ」「モーニング」と名だたる雑誌たちが1割超えの下げ幅を計上している。有名どころ、コンビニなどでも多々目に留まる雑誌が軒並み名を連ねているのを見るに、もの悲しさを覚えるものがある。同時に「そういえば最近になって立ち寄り先のコンビニで見かけなくなったな」と思い返した雑誌も複数あるだけに、複雑な心境にも追いやられる。

兄弟誌の「コミック乱ツインズ 戦国武将列伝」が休刊し、「コミック乱三兄弟」ならぬ「コミック乱コンビ」となってしまった「コミック乱ツインズ」「コミック乱」はいずれも誤差領域内に留まっている。

現在は電子書籍、ウェブ漫画が浸透する中で、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも選択肢が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。これまでは馬車でしか行き来できなかった場所への輸送ビジネスが、バスや電車、飛行機などが登場し、馬車業界において顧客が奪われているような展開とも表現できる。

なお今件の各値はあくまでも印刷証明付き部数であり、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用性向も確実に上昇している。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各雑誌、コミックそのものの需要がそれと連動する形で減退しているとは限らないことは認識しておくべきである。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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