冷戦終結間際以降の主要国の軍事費推移を複数視点で確認する
抜きんでる米国と中国
米ソ冷戦時代が終わると共に国家間の軍事関係も大きな変化をとげ、軍事費も状況に合わせた変容を見せている。その実情を国際的な軍事研究機関であるストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute、SIPRI)の調査公開値から確認していく。
直近2016年において軍事関連支出がもっとも大きかった国はアメリカ合衆国、次いで中国、ロシア、サウジアラビアが続いている。無論これは額面だけの話で、軍事力そのもののパワーバランスはまた別の話となるが、指標の一つには違いない。
そこで2016年時点の米ドル換算による軍事費上位10か国における、冷戦終結間際以降の軍事費動向を確認したのが次のグラフ。各国とも少なからぬ通貨価値の変動や国内情勢の変化、経済の伸張が生じているが、特にロシアでは1991年末までソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)として成立しており、以後所属共和国のいくつかが分離独立し、主要通貨ルーブルの大変動や構成地域の変容を経て現在に至る、大きな激変の中にある。グラフでは継続した形でグラフを生成しているが、厳密には半ば断絶した形であり、注意を要する。
比較をし易いよう縦軸を揃えたところ、6位以降の国の動向グラフがほぼ底辺にはいつくばる形となってしまった。それほど上位国の軍事費が圧倒的なのは理解できるが、それ以降の上位国動向がまったく分からない。そこで上位の米中、そして過去においてはアメリカ合衆国に次ぐ値を計上していたロシアをのぞいた形で縦軸を調整し、もう一つグラフを新たに生成している。
ソ連・ロシアはソ連崩壊時からロシアへの再構築の際に統括エリアが減ってしまったことに加え、通貨ルーブルが暴落したこともあり、値はソ連時代と比べてロシア時代は低いままとなっている。代わりに台頭したのが中国で、特に経済成長が顕著となった2005年前後からは飛躍的な伸びを示している。
米中ロをのぞいた上位陣で見ると、いずれも増加している……ように見えるが、サウジアラビアやインドのような新興国の勾配がやや大きく、伸びが急に見える。一方でフランスやイギリス、ドイツ、日本などは2007年の金融危機ぼっ発以降横ばい、あるい漸減の動きに転じているのが分かる。金融危機は軍事費への注力に関し、先進国・新興国双方にとって一つのターニングポイントとなったようだ。
なおサウジアラビアが直近年で大きく下落しているのは、他国への軍事援助額が計上されていないため。突然軍縮にかじを切ったわけでは無い。
自国通貨で変動を確認
次に米ドルベースなどの対外額面ではなく、それぞれの自国通貨の額面における軍事費の推移を確認する。もちろん個々の国で単位通貨は異なるので、2016年における米ドル換算上の上位10国を対象に、額面が取得可能な1992年分の値を基準値とし(ロシアは1991年分が無く、それ以前はソ連邦の値なので大きな断絶が生じており、基準値として用いるのは問題が生じる)、その基準値の何倍に当たるかを算出し、その動向を見ていくことにした……のだが。
ロシアのみが突出した値となり、それ以外の国はほぼ底面にへばりついたグラフが出来上がってしまった。これはソ連邦崩壊後のロシアにおいて、自国通貨ルーブルの大暴落(ロシア通貨危機)が生じたのが原因。ソ連邦の崩壊と市場経済移行の際の不手際、混乱などで、先進国の現代史の中では記録に残るほどの通貨下落が生じている。これが軍事費の「自国通貨における額面上の」急上昇の一因となったことは間違いない。米ドルベースで換算した前項目のグラフを見れば、その実態も把握できるはずだ。
とはいえこれでは少々問題がある。そこでロシアをのぞいて再構築したのが次のグラフ。
やはり中国、そしてインドの伸び率が著しい。またサウジアラビアもここ数年大きな上昇率を見せている(直近年の下落は上記説明の通り)。それ以外の国は自国通貨の額面上でも、さほど大きな変化は示していないことも確認できる。韓国がやや上昇基調にあると表現しても良いぐらいだろうか。
シンプルに差が分かるよう、基準値の1992年と直近の2016年を比較し変動倍率を算出したのが次のグラフ。やはりロシアが特異値を出してしまうため、ロシアをのぞいたグラフも併記しておく。
国内通貨上の額面でも中国とインドが大きく増加している状況が改めて確認できる。もちろん20年余りの間にはそれぞれの国でインフレも進行しているため、いくぶん差し引きをする必要はあるが、軍事費上位国のうち少なくともこれらの国が大きく軍事費の上乗せ計上をしていることが改めて理解できよう。
■関連記事: