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キャッシュレス化進むも100円玉と500円玉は増加中だったが…硬貨の流通・発行動向(2024年時点)

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
小銭の持ち運びが面倒という人も増えているが(写真:イメージマート)

ゆうちょ銀行など主要金融機関では硬貨の預け入れや払い戻しが有料化されているが、これは現金、特に硬貨の利用が減少しており、硬貨取り扱いでのコストがかさむのが原因。実のところ、家計の日常的な支払いでの資金決済手段の動向を見ると、現金が減り、クレジットカードや電子マネーの利用が増えている。次に示すのは金融広報中央委員会による家計の金融行動に関する世論調査の結果を基にしたデータだが、二人以上世帯では現金支払い率が減り、クレジットカードや電子マネーでの支払い率が増えている。

↑ 日常的な支払での主な資金決済手段(二人以上世帯、2つまでの複数回答で「現金」率、支払金額別)
↑ 日常的な支払での主な資金決済手段(二人以上世帯、2つまでの複数回答で「現金」率、支払金額別)

↑ 日常的な支払での主な資金決済手段(二人以上世帯、2つまでの複数回答で「クレジットカード」率、支払金額別)
↑ 日常的な支払での主な資金決済手段(二人以上世帯、2つまでの複数回答で「クレジットカード」率、支払金額別)

↑ 日常的な支払での主な資金決済手段(二人以上世帯、2つまでの複数回答で「電子マネー・デビットカード」率、支払金額別)
↑ 日常的な支払での主な資金決済手段(二人以上世帯、2つまでの複数回答で「電子マネー・デビットカード」率、支払金額別)

グラフ化は略するが単身世帯もほぼ同じ動向にある。

それでは硬貨の流通枚数や発行枚数は利用状況に合わせる形で、減少傾向にあるのだろうか。その実情を日本銀行や造幣局のデータから確認する。なお硬貨は逐次傷ついたものなどが回収されるとともに、市場の利用状況をかんがみて足りない分が新たに発行される。流通枚数が少ないと判断されれば多めに発行され、過剰ならば発行枚数は抑えられ、さらには発行されないこともある。無計画に発行されているわけではない。

ちなみに日本銀行券は日本銀行が、硬貨は政府が発行している(厳密には造幣局が製造し日本銀行へ交付されるが、この時点で貨幣が政府によって発行されたことになる)。

まずは1円玉から500円玉までをすべて合わせた硬貨の流通枚数。

↑ 硬貨流通枚数(億枚)
↑ 硬貨流通枚数(億枚)

流通枚数は前世紀末あたりからほぼ横ばい、2006年の919.2億枚をピークに漸減、2011年ぐらいからはほぼ横ばいの動きとなっていたが、直近2年間で下落の動きに。直近の2023年では850.0億枚。

続いてこれを硬貨の種類別に見たのが次のグラフ。

↑ 額面別硬貨流通枚数(億枚)
↑ 額面別硬貨流通枚数(億枚)

額面が大きい100円玉や500円玉は現在に至るまでほぼ同じペースで流通量は増加している。より多くの流通枚数が必要だと認識されているようだ。他方、50円玉は前世紀末あたりで頭打ち、10円玉も同じような動きで、むしろ2007年ぐらいから一度減少の動きすら生じているが、ここ10年ぐらいは再び横ばい。そして硬貨流通枚数同様、直近2年間では減少の動きに。

小額の額面となる1円玉と5円玉は前世紀末でピークを迎え、しばらくの横ばいの機会の後に漸減の動き。特に1円玉は減少度合いが大きなものとなっている。市場需要的にも政府の判断としても、1円玉と5円玉は必要性が薄れているということなのだろう。

そこで小額額面の1円玉と5円玉について、流通枚数だけでなく発行枚数を確認したのが次以降のグラフ。流通枚数を調整するには基本的に発行枚数を調整するしかないので(必要があれば還収も行われる)、発行枚数の動きを見れば、その硬貨の必要性に関する政府の認識を推し量ることができる。

まずは1円玉。なお次の5円玉と合わせ、発行枚数の最新値は2023年分。

↑ 1円玉の発行枚数と流通枚数(億枚)
↑ 1円玉の発行枚数と流通枚数(億枚)

1円玉の発行枚数のピークは1990年の27.69億枚。消費税が導入された1989年は3%という税率の影響で釣銭による1円玉の需要拡大が見込まれるため、大幅に発行枚数を増やし、その勢いが1990年にも続いた形。

消費税率が5%になった1997年以降、発行枚数は極端に抑えられていく。2014年の8%引き上げで多少持ち直しを見せるが、電子マネーなどの利用が進んだことで需要は伸び悩み、結局ほぼゼロ状態が続いていく。2019年の消費税率10%引き上げ時にわずかながらも多くなった程度。直近2023年ではグラフ上は0.00だが、実質的には46万3000枚。

続いて5円玉。1円玉と比較しやすいよう、縦軸の区切りは1円玉のグラフと統一している。

↑ 5円玉の発行枚数と流通枚数(億枚)
↑ 5円玉の発行枚数と流通枚数(億枚)

5円玉の発行枚数のピークは1898年で10.3億枚。枚数そのものは1円玉より少ないが、値の動きは1円玉とほぼ同じ傾向にある。消費税が導入された1989年は3%という税率の影響で釣銭による1円玉の需要拡大が見込まれるため、大幅に発行枚数を増やし、それ以降は漸減。今世紀に入るとほとんど発行されない状況が続き、2014年の8%引き上げで多少持ち直しを見せるが、その後は電子マネーなどの利用が進んだことで需要は伸び悩み、結局ほぼゼロ状態。2019年の消費税率10%引き上げ時にわずかながらも多くなるぐらい。直近2023年ではグラフ上は0.00だが、実質的にはこちらも1円玉同様に46万3000枚。

硬貨が不必要になることはあり得ないが、政府がキャッシュレス決済比率の2025年目標4割を掲げていることもあり、今後さらにキャッシュレス化が進んでいくことは容易に想像できる。ゆうちょ銀行での硬貨の預け入れや払い戻しの有料化で、硬貨が使いにくくなったと考える人も多数いるはずだ。今や小銭貯金ですら、(一定枚数以上は)預け入れに手数料が取られるのだから。

流通枚数動向の限りでは、10円玉や50円玉、100円玉、500円玉の需要が減ることはないと思われているが、直近2年で減少の動きを見せていることもあり、今後この流れが続けば「需要はゆるやかに減っている」と判断を変えねばならない。一方で1円玉や5円玉は今後さらに需要が減少し、その動きを受け、発行枚数は抑えられ、流通枚数が減るような施策が取られていくものと考えられる。キャッシュレス化が加速することで、1円玉や5円玉だけでなく、10円玉や50円玉、100円玉、500円玉も本格的な需要減少およびそれに伴う発行枚数の減少が生じることは、容易に想像できよう。

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(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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