日本の報道賛美の姿勢が顕著に…メディアと「報道の自由」への考え方の相違
一般市民がより健全で正しい判断ができる材料を提供するとの観点から、公明正大なスタンスを前提として、報道の自由は民主主義国家において保証されてしかるべきものとの認識がある。他方、報道の質の劣化や偏向化(の露呈)、不特定多数が情報発信・受信を可能とするメディア環境の激変に伴い、「報道の自由」が意味するものの再定義と現状認識への問いかけが世界各国で成されるようになっている。今回は新聞通信調査会が2017年4月に発表した、アメリカ合衆国やイギリス、フランス、中国、韓国、タイへのメディアに関する世論調査「諸外国における対日メディア世論調査(2017年調査)」(※)の内容から、各国の一般市民が考える、報道の自由に関する現状について確認を行う。
次以降の項目は「報道の自由」に関する問いに、同意(強弱)・反意(強弱)の計4択で答えてもらった結果。実際にはグラフの通り「無回答」もあるため、実質的には5択となっている。また「報道の自由」の文言そのものに対する説明は特にないため、その言い回しから回答者が想像するものに対する想いが回答に反映されている。国によるイメージの違いも多分にあるのは認識しておくべき。
また日本の値は今件調査では無く、新聞通信調査会が別途行った「メディアに関する全国世論調査」(2016年9月実施)の値から抽出したもので、回答条件も異なるため、参考値でしかないことにも留意する必要がある。
まずは「報道の自由は常に保障されるべき」との問いに対する反応。
すべての国で8割以上が肯定意見を有し、アメリカ合衆国とフランス、韓国では9割を超えている。それぞれの国では6割強が強い肯定意見を持っており、「報道の自由」に関する意思の強さがうかがえる。他方イギリスでは5.0%が強い否定意見、無回答が9.1%もいるのが印象的。
続いて現状の報道に対し、その品質や内容、正当性を鑑み、圧力をかけられても仕方がないとする意見に対する反応。
意外(!?)にも圧力を肯定する意見は中国でもっとも強く、強弱合わせて8割強に達している。強い肯定派だけでも4割に近く、これも諸国で一番高い値。その他の国ではややタイが大きめだが、大よそ5割前後。米英仏韓は肯定・否定派がほぼ競っている状況。先の「報道の自由は常に保障されるべき」の肯定意見が大きい国では、反意の声も大きめとなっている。
他方日本は他国と大きく異なり、肯定派が4割程度でしかない。強い肯定意見も唯一1ケタ台%で、強い否定派こそフランスと同程度だが、弱い否定派は35.2%とこれも最大値。年齢階層別の回答値を確認すると(上記の通り日本のみ昨年の別調査によるもの)、10代から20代では肯定派が4割後半で30代から50代までが大よそ4割強、60代以降で3割台へと下落しており、年齢階層間の認識の違いも生じている内情であることが分かる。
続いて政府・国益とメディアとの関係。
具体的指標や例が無く、あくまでも一般論での話ではあるが、もっとも肯定的なのはタイ、それとほぼ並ぶ形で中国とイギリス。8割が国益のためならば政府がメディアに圧力をかけることを容認している。アメリカ合衆国は6割強、フランスや韓国は5割近く。
他方日本では参考値ではあるものの、賛意者は3割でしかなく、否定派は7割近くにも及んでいる。
最後はメディアの暴走的行為に関する意見。
イギリスでは8割近くが肯定、韓国では7割、アメリカ合衆国、フランス、中国、韓国、タイでも6割から7割が肯定派。
他方日本では諸国とやや様相が異なり、肯定派と否定派がほぼ均衡している。元資料を見る限り、10代から50代までは肯定派が優勢で20~30代は差異が大きく開いているが、60代以降は否定派がむしろ大勢を占める形。メディアの挙動への認識に関して、世代間ギャップが生じている内情が見えてくる。
「報道の自由」の文言の定義が無いこと、各国でその言い回しに対する見解や意味するもの、指し示すものが微妙に異なる抽象的概念であることも要因だが、この結果が各国の「報道の自由」に対する姿勢の違いを包括する形で示したとはいいがたい。他方、一般論として、それぞれの国における報道(と呼ばれる対象)への心服性を認識する観点では、良い指標となることは間違いない。
あえてざっくばらんに総括するとすれば、「報道の自由は常に保証されるべきだが、今の報道は責務を果たしておらず、保証対象には当たらないのではないかとする認識が多々見られる」「しかし日本では報道の自由は常に保証されるべきで、今の報道はしっかりやっているから問題は無い、今の報道姿勢は許容できるとの認識が多分を占めている」となるのだろうか。
※2017.05.03 12:25 図版を1点追加しました。
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※諸外国における対日メディア世論調査
直近年分はアメリカ合衆国、イギリス、フランス、中国、韓国、タイに対し、2017年2月から3月に行われたもので、アメリカ合衆国・フランス・韓国は電話調査、イギリス・中国・タイでは面接調査で実施されている。調査地域は中国・タイは都市圏、それ以外は全国。回収サンプル数は各国約1000件。過去の調査もほぼ同様の調査スタイル。