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新興国における携帯電話普及率の推移の実態

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 日常生活に浸透した携帯電話。新興国の普及率の推移を探る

今や多くの人にとって日常生活には欠かせない存在となった携帯電話。躍進目覚ましい新興国におけるその普及率のこれまでの推移と現状を、国際機関である国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)の調査結果をもとに確認していく。

「新興国」との言葉には色々な定義、区分があり、さらに国数も多い。すべてを追いかけていては雑多に過ぎるので、今回はG20各国のうち目に留まった国、具体的にはアジア諸国からは「シンガポール・マレーシア・韓国・インドネシア・中国・インド」、それ以外の国から「サウジアラビア・ロシア・ブラジル・トルコ・メキシコ」を対象とする。

まずは現時点で公開されている最新値、2015年における携帯電話普及率。この携帯電話には従来型携帯電話(フィーチャーフォン)以外にスマートフォンなども含む。また、単純に「契約者数÷人口」で普及率を算出していることに注意。後述するが100%を超える値を示す国もある。

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↑ 携帯電話普及率推移(契約数/人口)(新興国等)(2013~2015年)
↑ 携帯電話普及率推移(契約数/人口)(新興国等)(2013~2015年)

複数国が100%を超えている。これは前述の通り「契約数÷人口」の計算式で算出していることと、「プリペイドの扱いやSIMカード(契約者情報を記録したICカード)の互換性への対応が各国で異なること」を起因としている。

要は複数枚のSIMカードを一人が「契約」し、電話をかける相手によってカードを切り替え、少しでも安い料金で利用しようとする「生活の知恵」的な使い方によるもの。特にこの使い方は、新興国で行われる事例が多数見受けられる。新興国でこの計算方法による携帯電話普及率が高いのは、これが一因でもある。

直近3年間の動きを見ると、サウジアラビアで減少が起きているが、それ以外の国では大よそ上昇している。特に東南アジア地域においてインドネシア、中国の上昇ぶりが目に留まる。両国は人口が数億の単位の国にも関わらず大ききな上げ幅を示しており、両国で加速度的に携帯電話(多分にスマートフォンだろう)が浸透している状況がうかがえる。

一方サウジアラビアの減少については、上記総務省の資料でも詳しい説明は無い(数字上の動向は今件記事と同じくITUベースなので同じものとなって当然)100%をゆうに超しているが、気になる話には違いない(ITUの元資料にも注記は無し)。同じタイミングでLTEサービスが始まっており、これに合わせて契約の整理統合が行われ、名目上の契約者数が減少している可能性はある。

またシンガポールも2013年から2014年にかけて大きな減退が生じている。これは2014年4月からシンガポールにおけるプリペイドカード式SIMカードの購入上限を、これまで1人10枚だったものが3枚に減らされたことによるもの。見方を変えれば同国ではそれまで、少なからぬ人が1人につき4枚以上のカードを持っていたことになる。

続いて2000年以降における、各国の携帯電話普及率推移。

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↑ 携帯電話普及率推移(契約数/人口)(新興国等)(~2015年)
↑ 携帯電話普及率推移(契約数/人口)(新興国等)(~2015年)

元々携帯電話、あるいはデジタル方面のインフラ整備に積極的な韓国やシンガポールは2000年時点ですでに60%から70%と高い普及率を示している。もっとも上昇スピードはほぼ一定で緩やかなもの。シンガポールで2006年から2007年にかけて大きな上昇がみられるが、これは2006年6月に同国で発表された、10か年情報通信マスタープラン「インテリジェント・ネイション2015」、そしてその一環として構築された「次世代全国ブロードバンド網(NGNBN)」(オープンアクセスの光ファイバー網)が一因だと考えられる。また、2014年以降のシンガポールにおける失速ぶりは上記の通り、SIMカードの購入制限の強化によるもの。

他の国のほとんどは、2000年の時点では数%から良くて20%程度の値でしかなかった(特に「その1」のグラフ構成国はそのような国ばかりである)。それが2003年前後から上昇カーブの角度を上向きにし、急速な普及率向上を見せる。とりわけサウジアラビアとロシアの伸び率は著しいが、上記にある「SIMカードの複数契約」がその一端であると考えられる。なおロシアでは2010年から2011年に大きな失速が起きているが、これはSIMカードのカウント方式の基準変更によるもの(登録されているカードのみのカウントとなっている)。

それ以外の国でも普及率の伸び方は非常に大きく、各国のインフラ整備が急ピッチで行われ、それと共に携帯電話の普及も進んでいる。見方を変えれば「携帯電話の普及が新興国の発展のバロメーターの一つ」であると同時に「携帯電話の普及により民間・一般市民における情報や経済交流の活性化が促進され、国そのものの活力向上にも寄与した」と考えられる。

他方中国は上昇率もゆるやかなものだが、確実に増加していることには違いない。同国の人口ポテンシャル(と地域性)を考えれば、この伸び率でも驚異的であると認識すべき。また、トルコは2008年の92.8%をピークに普及率が頭打ちとなっているが、これは同国の携帯事情(本体を利用登録しておかないと利用できなくなる)によるようだ。もっと最近では再び上昇を再開している。さらにブラジルでは直近の2015年で大きな失速が生じているが、集計方法の変更や施策の変化は確認できない。前年のワールドカップの反動、景況感や治安の悪化が影響しているのかもしれない。間もなく開催されるオリンピックに向けて、値がどのように変化するかが気になるところだ。

コストの問題から携帯電話全般ほどの普及率はかなわないものの、パソコンに近い感覚でインターネットへのアクセスが可能で多種多様な機能を装備し、インターネットによる可能性を大きく切り開くスマートフォン。さらに今回取り上げた諸国において、このスマホの浸透が進めば、利用者の情報に対する意識も変化していく。

携帯電話の普及と共に変化する、「不特定多数」の人たちの意識と情報環境。これが社会全体にどのような影響を及ぼすことになるのか。慎重な注視が必要ではある。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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