今年の全米オープンは、もともと難コースのトーリーパインズに全米オープンならではの超難セッティングが施されているだけあって、初日も2日目も、多くの選手たちが大なり小なりの「波乱」を味わわされている。

 そんな中、2日目を終えた今、リーダーボードの最上段に見慣れない名前が浮上した。

 英国人のリチャード・ブランド。初日を1アンダー、70で回ったブランドは、2日目は全出場選手の中でベストスコアとなる4アンダー、67とスコアを伸ばし、初日も首位だったラッセル・ヘンリー(米国)とともに通算5アンダーで首位に並んだ。

 無名の新人ではなく、先月までは、ほぼ無名だった48歳。プロキャリアは長いが、ずっと陽が当たらない道を歩んできた。USGA(全米ゴルフ協会)によれば、2日目終了時点で48歳のトーナメント・リーダーは全米オープン史上、最年長なのだそうだ。

【帽子契約も無いが、それでもチャリティ】

 英国でプロゴルファーとして戦い続けてきたブランドは、なかなか成績が上がらない長い歳月を生き抜いてきた。

「これまで、どれだけ予選落ちを繰り返してきたことか。でも私は決して諦めず、ハードワークを続けてきた。サインや握手も、求められれば、いくらでも応えてきた。なぜか?いつか必ず勝てると信じていたから」

 実際、その「必ず」は、今年5月についに実現した。欧州ツアーのブトフレッド・ブリティッシュ・マスターズで、ブランドはキャリア478試合目にして悲願の初優勝を遂げ、同ツアー史上最年長の初優勝者となった。

 さらにデンマークでも3位に食い込み、この全米オープン出場資格を手に入れた。48歳にして、メジャー大会出場は今回が生涯でわずか4回目だという。

 成績が一気に好転したきっかけは「先月からドライバーを変えたこと」だとブランドは言う。

 ドライバーは変えても、スイングコーチは20年来、一度も変えたことはない。英国のスポーツ中継を手掛けるスカイスポーツのTVレポーターも務めているティム・バーターは「いつも私の傍らにいてスイングをじっと眺めている。まるで家具みたいな存在だ」と、ユーモアを交えた語り口調が実に楽しい。

 とはいえ、成績は長年、低迷していたため、ブランドは帽子契約を有しておらず、そんなブランドを応援しようと、彼のホームコースである英国のウィスレイ・クラブは今大会用にキャップ10個ほど大慌てで進呈した。ブランドが被っているキャップに付されている見慣れないロゴマークは、英国のゴルフ場のマークなのである。

【シンク、ミケルソンに続けるか!?】

 なかなか予選通過が果たせない日々を過ごし、賞金が稼げず、全米オープンの晴れ舞台で被る帽子の契約すら持っていないというのに、それでもブランドはバーディーを1つ獲るごとにチャリティ財団に寄付をする活動を、この全米オープンでも、ひっそりと行なっている。

「ゴルフが大好きだから、大好きなゴルフで誰かの役に立ちたい」

 逆に、大嫌いなものは「3パットと動物虐待」だと答える。

 他人にも動物にも優しく、自分には厳しく、優勝というご褒美が48歳になるまで一度も得られずとも、ネバーギブアップの精神で鍛練を続けてきた。

 2009年の全英オープンで59歳(当時)のトム・ワトソンがスチュワート・シンクと死闘を演じ、フィル・ミケルソンが50歳で全米プロを制したのだから、苦労人で努力家のブランドが48歳でこの全米オープンを制することは、決して不可能ではないはずである。

「このトーリーパインズは一目見たときから、『プレーできる、いける』と感じた」

自信を感じさせるブランドのその言葉は全米オープンやトーリーパインズの脅威をまだ知らないがゆえの「怖いもの知らず」と受け取れなくもない。

 ビッグ大会、メジャー大会での経験や実績を考えれば、シンクやミケルソンと同様にブランドも勝てるとは簡単には言い難い。ブランドが決勝2日間を首位で戦い抜いてトーリーパインズを制することは、ほとんど奇跡に近い。

 しかし、「まさか」が現実化するからこそ、それは奇跡なのだ。全米オープンは門戸が開かれたオープン競技のメジャー大会なのだから、思い切り浪花節のチャンピオンが誕生するシンデレラ・ストーリーを見てみたい。