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全米プロ会場に新ツアー構想SLGの交渉人たちが闖入し、「移籍」交渉中という大胆不敵

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

今季2つ目のメジャー大会、全米プロが間もなく始まろうとしている大事なときに、その“土俵”に踏み込んできている“闖入者(ちんにゅうしゃ)”がいるという。米ツアーの対抗馬として名乗りを上げているSLG(スーパーリーグ・ゴルフ)の交渉人たちが、キアワ・アイランドのオーシャンコースにやってきて、複数のトッププレーヤーのエージェントと接触していることが、米メディアによって報じられた。

かつては水面下で交渉していたSLGだが、よりによってメジャー大会の開幕直前に戦いの舞台にやってきて交渉するとは、あまりにも大胆不敵である。だが、そもそもこの新ツアー構想自体が大胆不敵なのだから、いまさら驚くことではないのかもしれないが、米ツアー(PGAツアー)のジェイ・モナハン会長も全米プロを主催するPGAオブ・アメリカのセス・ウォーCEOも不愉快きわまりない様子である。

SLGは、米ツアーや欧州ツアーに対抗する新たなツアー構想で、以前はPGL(プレミア・ゴルフ・リーグ)と名乗っていたが、コロナ禍の中で消滅したと思われていた。ところが、今月になって突然、再浮上し、その名称はSLGに変わっていた。いや、正確に言えば、まだ新ツアー側からは正式な会見も発表も行なわれておらず、実態も正体も正確にはわからない。わかっているのは、SLGが米ツアーや欧州ツアーの人気選手たちに大金をちらつかせながら「移籍」を持ちかけているという事実だ。

年間の試合数を18~20試合に抑え、少数精鋭のトッププレーヤーたちがストローク戦とチーム戦の双方を展開。ストローク戦は3日間大会で予選カットは行なわず、1試合の賞金総額は10ミリオン(約11億円)。“募集”している人数は、48名という説もあれば、16名という説もあるが、SLGが移籍候補の選手にオファーしている“移籍料”は、各々30~50ミリオン(約33~55億円)とも言われている。

すでに米ツアーのモナハン会長は「新ツアーに一度でも参加した選手は即刻、出場停止処分。永久追放もありえる」と言い放ち、不快感と焦燥感を露わにしていたが、今週18日にPGAオブ・アメリカのウォー会長も「SLGに移籍したら、PGAオブ・アメリカのメンバーシップは失われ、ライダーカップにも全米プロにも出場できなくなる」と語り、米欧両ツアーと歩調を合わせる姿勢を明らかにした。

選手たちの反応はどうかと言えば、“移籍”の意志を明らかにした選手は現状では皆無。だが、フィル・ミケルソンは「興味深い」と語り、リー・ウエストウッドは「シニア入り目前のこの年齢で、50ミリオンをもらって試合に出続けられると言われたら、考えるまでもないよね」。パトリック・リードは「今、僕のエージェントが情報収集中だ。十分な情報が得られてから検討したい」。

そんなふうに移籍の意志を曖昧にしている選手たちがいる一方で、移籍をはっきりと否定している選手もいる。その筆頭は誰よりも先に新ツアー側からアプローチされたローリー・マキロイ。そして、ジョーダン・スピース、ジャスティン・トーマス、バッバ・ワトソン、ザンダー・シャウフェレも米ツアーに忠誠を誓っている。

SLGが新ツアー構想を展開すること自体は、もちろん彼らの自由であり、権利でもある。だが、キアワ・アイランドは全米プロの舞台であり、そこで勝利することを目指してやってきている選手たちのメンタル面、あるいは彼らのパフォーマンスにマイナスの影響を与えることだけは慎んでほしい。なにより、ファンが待っているのは選手たちの熱い戦いであって、ビジネス上の引き抜き合戦ではないのだから――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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