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「キャディは必要?不要?」で意見分かれる米ゴルフ界。コロナ禍で揺らいだキャディの立ち位置

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
スター選手たちがバッグを担いでセルフプレー。これは米ツアーの未来図になりえる?(写真:代表撮影/USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月半ばから休止状態だった米男子ツアー(PGAツアー)は、チャールズ・シュワッブ・チャレンジ(6月11日~14日)からの再開を予定している。

 それに先立ち、米フロリダ州内で5月17日に開催された「テーラーメイド・ドライビング・リリーフ」と同24日に開催された「ザ・マッチ・チャンピオンズ・フォー・チャリティ」は、どちらもチャリティが目的のTVマッチではあったが、ゴルフのニュー・ノーマルの試運転的な役割を自ずと担う格好になった。

 会場入りする人数を最小限に抑え、全員にPCR検査を行ない、握手もハグもハイファイブもすべて禁止。常にソーシャル・ディスタンスを維持。

 そんなコロナ禍とコロナ後のゴルフ・トーナメントの在り方や運営方法、さらには課題や問題点を浮き彫りにする上で、2週連続で開催された2種類のチャリティ・マッチは絶好の予行演習になった。

【キャディ不在の2つのマッチ】

 大きな注目を集めたのは、どちらのチャリティ・マッチでもキャディが不在だったことだ。

 コロナ以前のプロゴルフ界でビッグスターの試合となれば、たとえ賞金やランキングとは無関係のTVマッチやチャリティ・マッチであっても、専属キャディは間違いなく選手の傍らに付いていた。

 しかし、コロナ禍で開催された2つのチャリティ・マッチでは、キャディの移動の問題や感染防止のためということで、あえてキャディを付けないセルフプレーが採用された。

 「テーラーメイド・ドライビング・リリーフ」では、ローリー・マキロイ、ダスティン・ジョンソン、リッキー・ファウラー、マシュー・ウルフという4名の選手全員がスタンド付きの軽量バッグを自ら背負い、歩いて18ホールを回った。

 「ザ・マッチ」では、タイガー・ウッズ、フィル・ミケルソン、それにNFLのビッグスターであるペイトン・マニング、トム・ブレイディの4名が、それぞれ乗用カートに1人ずつ乗って18ホールをプレーした。

【討議された「キャディ無しスタイル」】

 果たして、キャディ不在のそのプレースタイルは、どんなゴルフになり、人々の目にどう映るのかが注目されていた。

 というのも、米ツアーは6月半ばからの再開に向けて、そのための詳細プランをすでに発表しており、その中で、選手とキャディは握手もハグもハイファイブも禁じられており、さらには一番肝心と思われるクラブの受け渡しも禁止されている。つまり、選手はショットのたびにキャディが差し出したゴルフバッグから自らクラブを引っ張り出し、ショット後は自らクラブをバッグに戻すことになる。

「そうなると、キャディはバッグを担ぐだけ?」

「それならば、キャディは不要なのでは?」

 そんな声が上がったことは想像に難くない。実際、米ツアーでは「キャディ無しスタイル」の是非が実際に討議されたというのだから、このコロナ禍でツアーキャディの立ち位置が一時的であっても揺らいだことは事実だ。

 だからこそ、キャディ不在で行なわれる2種類のチャリティ・マッチがどんなゴルフになるのかに興味関心が集まり、内心穏やかではなかったキャディは大勢いたはずである。

 しかし、案ずるより産むが易し。やっぱりキャディ不在のマッチにおいて、選手たちは明らかに落ち着かない様子だった。距離がわからず、ボールを拭く作業も要領が決して良いとは言えず、何より、選手とキャディが相談し合って頷くという場面が皆無のゴルフは緊張感と温かみに欠けていた。

 「ザ・マッチ」の会場、メダリストGCをホームコースとしているウッズだけはコースを熟知していて余裕綽綽だったが、ウッズ以外の3人は「ナーバスだった」「最後まで快適とは言えない状態だった」と明かしたほどで、やっぱりキャディのヘルプが得られないゴルフは、プレーヤーにとって、かなりしんどいものになる。

 キャディあってのプレーヤー、キャディあってのゴルフであることが実証されたと言っていい。そして、米男子ツアーの討議においても「キャディ無しスタイル」は、却下されたそうである。

【打ち出された「キャディ無し」オプション】

 折りしも、米女子ツアー(LPGA)は、7月23日から再開する際、当面のテンポラリー処置として、選手たちに「キャディを付けないでプレーする」というオプションを付与すると発表した。

 もちろん、これまで特定の専属キャディを帯同してきた選手たちは、ツアー再開後もこれまで通り、専属キャディを付けて試合に臨むだろうから、このテンポラリー処置とは、おそらくは無縁となる。

 しかし、経済的に余裕がない若手や新人、下部ツアーの選手などは、毎試合、現地でローカル・キャディを雇っており、コロナ後の試合でバックグラウンドをまったく知らないキャディを付けて試合に臨むことは、感染リスク上、お互いに不安が生じる。さらに言えば、キャディを付けずにセルフでプレーすることができれば、その分、選手は経費を節約できるということで、このテンポラリー処置は感染防止とコスト削減の両方の意味合いで捻り出された選手救済のための苦肉の策だ。

 だが、ツアーキャディたちの間からは「感染防止というのは頷けるが、これによってキャディの存在意義が損なわれるのではないか?」「ついに、こんな日が来てしまった」等々、戸惑いや不安の声も上がっている。

 キャディを付けている選手と付けていない選手が同組になったとき、そこに居合わせたキャディは、「キャディを付けていない選手たちの分までボール拭きなどを毎回行なうことになるのではないか」と、役割分担を心配する声もある。

 一部の選手だけがバッグを自分で担いだり、プルカートを引いたりしている場面がテレビに映し出されると、「一流ツアー、一流選手のイメージが損なわれるのでは?」と危惧する声も聞こえてくる。

【二人三脚は見どころの1つ】

 そんな中、米女子ツアー選手、ブリタニー・リンシコムの専属キャディを務めるミッシー・ペダーソンが、米女子ゴルフ界で初めて新型コロナウイルスに感染したことを公表した。

 39歳のペダーソンは、症状が重篤ではなかったため、自宅療養となったそうだ。

「人工呼吸器も入院も必要にならなかったことはラッキーでしたが、それでもコロナの症状が出ていた間は、これまでの人生で最も辛い日々でした」

 その辛い日々をなんとか乗り越えられたのは、ボスであるリンシコムや米女子ツアーのオフィシャル、他選手やキャディ仲間たちからの温かい励ましがあったからだとペダーソンは言う。

「LPGAはファミリーです。私はこのツアーにキャディとして身を置いていることに心から感謝しています」

 米女子ツアーでも、やっぱりキャディは大切な存在と思われている。

 「キャディ不要説」が飛び出したり、「キャディ無しスタイル」の是非までが討議されたのは、きっとコロナ禍で次々に登場するニュー・ノーマルの嵐の中で、米ゴルフ界も疲弊し、混乱していたせいではないだろうか。

 やっぱり、キャディあってのゴルフである。選手とキャディの二人三脚は試合の見どころであり、往々にして2人の呼吸が勝敗を左右する。少なくとも私は、コロナ後もそういうゴルフを見たいし、そういうゴルフを見せてほしいと心底、願っている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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