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「適応障害」にならない生き方のコツ 理不尽な上司に向き合い過ぎない

舟木彩乃ストレスマネジメント専門家(Ph.D.,ヒューマンケア科学)
(写真:maroke/イメージマート)

「適応障害」と診断されて芸能活動を休止していた女優の深田恭子さんが、8月末から復帰されたそうです。「抑うつ状態」(気分が落ち込んで生きるエネルギーが乏しくなっているような状態)を特徴としていることから、「うつ病」と誤診断されるケースも多いと言われる適応障害ですが、実際はどんな病気なのか・どのように対処すればいいのか。

適応障害になり、休職を繰り返すことになってしまった会社員Aさん(女性20代後半)の事例を用いて解説します。

◆上司が変わって気が休まらない日が続いたAさんのケース

Aさんは金融関係の営業職で、仕事にはやりがいを感じ、かなりの営業実績をあげていました。引っ込み思案なところもありますが、コツコツと努力する姿勢は顧客の信頼を得ており、上司の評価も高かったようです。しかし、所属していた課の合併に伴い上司が変わり、その補佐役にAさんが付いたことで状況が変わってきました。

Aさんは1日も早く新しい環境に適応できるよう努力しましたが、新たな上司であるB課長(男性50代)との関係に悩むようになります。B課長は機嫌の良し悪しが顔に出るタイプで、大きな声で「今日はイライラする!」と言って目の前にある物に当たり、気に入らないことがあると意固地になって自分の考えを押し通すようなタイプです。同僚はB課長の性格に慣れてくると、機嫌が悪い時は「また始まった…」と言いながらやり過ごしていました。

しかし、補佐役の立場のAさんはそうもいかず、いつまでもB課長から愚痴を聞かされたり、ときにはとばっちりを受けて怒鳴られたりと、気が休まらない毎日が続きました。彼女はしばらくすると、B課長の何気ない動作にさえビクッとするようになったそうです。

ある日の朝、B課長が「今日は機嫌が悪いからよろしく」とAさんに言ってきました。仕事をたくさん抱えていたので、勇気を出して「今日は忙しいので…」と遠回しに言うと、「補佐の仕事は上司に気持ちよく仕事をしてもらうことだろう!」と、鬼のような形相で怒鳴られました。そのあと、B課長の話を何時間も聞かされ、何度も謝らざるを得なかったそうです。

◆最初は「うつ病」に間違えられた

補佐役になってから3カ月ほど経った頃、Aさんは翌日の仕事のことを考えると寝付けなくなり、気分も落ち込みがちになり、仕事のミスが増え、B課長の顔を見るだけで動悸が激しくなりました。そんな症状が1週間ほど続いたある朝、身体が鉛のように重く感じられ、どうしても出社できなくなったので、内科を受診しました。しかし異常がなかったので、精神科にまわされたところ、「うつ病」の診断がついて会社を休職することになったのです。

休職後Aさんは回復に向かい、1か月経って元の職場へと復職しました。上司との関係が原因のうつ病でも、職場環境が変わることがストレスになったり、違う上司や部署では本人への対応法が分からなかったりすることから、いったん同じ職場、同じ上司の下へ復職させるケースも多くあります。

しかし、AさんはまたしてもB課長の鬼のような形相を思い出して気分が悪くなったり、会話をすると身体に異変を感じたりするようになり、睡眠も乱れていきました。その後、休職と復職を2回ほど繰り返し、主治医に職場環境について詳しく話すと、診断名が「適応障害」に変わったそうです。

適応障害は、仕事や人間関係、被災体験などはっきりした出来事をきっかけに発症しますが、ストレスの要因を取り除くことで6カ月以内に症状が治まるとされています(『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き』・アメリカ精神医学会)。

Aさんの場合、復職後の職場環境が同じだったことから、ストレス要因が取り除かれず、休職を繰り返すことになってしまった可能性があります。

適応障害からの復職の判断は難しいと言われていますが、職場環境を変えることも再発防止のための重要な選択肢となります。会社は、部下を適応障害に追い込んだ可能性のある上司にヒアリングを行なったり、B課長の補佐役から外さないような場合では、復職した社員への対応方法について産業医などからレクチャーを受けてもらうなどの対応が必要です。

◆Aさんのケースでとるべきだった対処法と、適応障害が疑われる場合の予防法について

まずは「適応障害」という疾病について正しく理解していることが大切になります。本人がはっきりとストレス要因を自覚し、適応障害の可能性を疑えるのであれば、社内の然るべき人に話したり、早い段階で医師に相談したりすることが可能になります。会社も、従業員が適応障害かもしれないという可能性が視野に入っていれば、役職や配置転換などについて、復職前に本人と適切な話し合い・調整ができるようになります。

適応障害を予防する上で最も重要なのは、「無理にでも環境に合せようとする真面目さ」を捨てることです。適応障害と診断された人の多くは、Aさんのように理不尽な扱いをしてくる上司に対しても、自分を犠牲にしてでも適応しようと試みるところがあります。また、職務内容や役職が自分の適性や働き方に明らかに合わないと分かっていながら身体を壊してまでも適応しようとすることもあります。つまり、真面目すぎる面があるのです。

職場の人間関係では、ある程度の適応力は必要ですが、普段から境界線を持っておくこと、特に、理不尽な扱いをしてくる人に対しては毅然とした対応を心掛けるようにしましょう。自分も職場ではAさんのようなタイプかも知れないと思われた方は、特に強く意識してみてください。

ストレスマネジメント専門家(Ph.D.,ヒューマンケア科学)

ストレスマネジメント専門家〈博士(ヒューマン・ケア科学)/筑波大学大学院博士課程修了)。株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。文理シナジー学会評議員。AIカウンセリング「ストレスマネジメント支援システム」発明(特許取得済み)。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタントなどを保有。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁のメンタルヘルス対策に携わる。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館新書)、『なんとかなると思えるレッスン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)等がある。

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