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【親子で楽しく学ぶ夏休み耐震実験2】人間振動実験で地震に強い建物を知る

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
日本損害保険協会のホームページより

背の高さで揺れ方が違う! 高層ビルはゆったりした揺れが苦手。

 子供に背伸びをさせたり、しゃがんだりさせて、その時に、体を左右に揺すってみてください。背が高い時には、少しゆっくり揺すると大きく揺れ、しゃがんでいるときは小刻みに揺するとよく揺れます。その揺れやすい周期で、エイっとやると、子供は吹っ飛んでしまいます。これを利用すると、小さな力で大きな人を投げ飛ばすことが可能になります。「柔よく剛を制す」でしょうか。背の高い子がゆったりと動いて、小さい子がすばしっこく動くのも、同じ理屈です。高層ビルは長い周期で揺れやすく、低層のビルは短い周期で揺れやすい、という意味でもありますね。

 さて、今回は、子供に色々なポーズをしてもらって揺れを体験してもらおうと思います。台車を使うか、コロ(車輪)の上に板を乗せて揺すれば、地震の揺れを再現することができます。子供をこの地震体感装置の上に乗せて、背伸びさせたり、しゃがんだりさせて左右に揺すってみてください。ある揺すり方をすると、とってもよく揺れることが分かります。でも、人間はすごい性能を持っているので、そのときに、足を踏ん張ったりして、揺れにくいポーズに変えていることも分かりますよ。

日本損害保険協会より
日本損害保険協会より

揺すり方によってよく揺れる! ポーズによって苦手な周期がある。

 さて、それでは、揺れの動画を見てみましょう。ここでは、キャスター付きの机の上に、「はるちゃん」に乗ってもらいました。皆さんの家庭では、落ちると危ないので、もう少し低いものが良いと思います。最初は、足をそろえ少し背伸びしたポーズをとってもらいました。そして、東海地震のように、最初はガタガタ、その後でユサユサと揺すってみました。するとどうでしょう。ガタガタの揺れでは軽く揺れをいなしていたのに、ユサユサの揺れで、体が大きく揺さぶられました。背伸びしたはるちゃんは、ユサユサの揺れが苦手のようです。

 もしも、はるちゃんがしゃがんで縮こまっていたら、ガタガタの揺れの時に、ひっくり返りそうになったと思います。このように、背の高さによって苦手な揺れが異なります。

踏ん張りポーズは揺れない! 下層階を頑丈に。

 さっきは足を閉じていましたが、次は、足を開いて踏ん張ってもらいます。すると、揺すっても全然平気です。足の踏ん張った形を見ると、三角形になっています。三角形は、形を変えないので堅いんです。これは、建物で言うと、足を閉じているのは柱だけでできたラーメン構造、踏ん張っているのは壁が沢山ある壁式構造に相当します。ラーメン構造に比べて、壁式構造は余り揺れません。足腰がしっかりしている建物は頑丈です。1階に広々とした部屋のある家や、1階が駐車場のような建物は、要注意ですね。

荷物を持つと不安定になる! 重心が高くて遠いと大変。

 今度は、重い荷物を持ってもらいましょう。動画では椅子を持ってもらいました。足を閉じた状態で、椅子を手に持って前に差し出してもらいます。この状態で揺すってみると、体の重心の位置が高くなり、体の中心から椅子の方に遠くなるので、体が捩れながら大きく揺れてしまいます。はるちゃんはとっても怖そうです。

 つぎに、足を踏ん張って、椅子を体に付けてもらいます。今度は、へっちゃらです。重さのバランスが悪いと、建物は変な動き方をします。お子さんに色々なポーズをしてもらって揺すってみてください。どんな形の建物が揺れにくいか、一目瞭然です。バランスの悪い形の建物は、地震には強くありません。例えば、富士山の形の建物と、富士山を逆立ちさせた形の建物でどちらが安全か、簡単に分かりますよね。

足をふにゃふにゃにすると揺れない! 免震や制振の理屈が分かる。

 最後に、足をふにゃふにゃにしてみます。すると、ふにゃふにゃの足が揺れを吸収して、体はほとんど揺れません。これが免震建物の理屈です。建物の下に、横揺れに対して軟らかい免震装置を設置することで、地面が揺れても建物が揺れないようにできます。

 つぎに、ちょっと揺すり方を変えてゆっくり揺すってみると、ふにゃふにゃだと、かえって揺れてしまいます。人間は賢くて、こういったときに、少し足を突っ張って揺れなくしようとします。よく、皆さんがバスの中で立っているときに、バスの動きに応じて、足を踏ん張ったり軟らかくしたりしていることを思い出してください。このように、地震の揺れに応じて建物の堅さなどを変化させることで揺れを減らすのが制振です。免震も制振も最新の建築技術ですが、人間の方が遥かにすごい性能を持っていることが分かります。

 多くの先端技術は、自然の中にあることをヒントに作り出されています。子供たちと人間振動実験をしながら、親子で夢の先端技術を語り合ってみませんか?

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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