万一、富士山が噴火したら首都圏はどうなる?

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

活火山の富士山

 私が学生だったときには、富士山は休火山だと習いましたが、富士山はれっきとした活火山です。かつては、いま噴火している火山を「活火山」、有史以来の噴火記録があってもいまは活動していない火山を「休火山」、有史以来の噴火記録がない火山を「死火山」と呼んでいました。ですがその後、噴火記録のある火山や今後噴火する可能性がある火山はすべて「活火山」と考えるようになり、2003年に火山噴火予知連絡会が「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義しました。 その結果、現在、活火山は全国に111あり、富士山もその一つになりました。

噴火の繰り返しで美しい姿に

 富士山は長い間噴火し続けています。愛鷹火山や先小御岳火山、小御岳火山が噴火した上に、10万年くらい前から古富士火山が噴火を続け、さらに1万7千年ほど前から新富士火山が噴火することで、円錐形の美しい形になりました。富士山や伊豆半島は、海洋プレートによって北西方向に圧縮されており、北西から南東にかけて割れ目が生じて、富士山や伊豆東部の火山群ができました。

 富士山は、有史以来も噴火を繰り返しています。紀貫之が古今和歌集に残した「しるしなきけぶりを雲にまがへつつ夜を経て富士の山と燃えなむ」にあるように、平安時代には活発に噴火していたようで、平安以降、10回の噴火があったとされています。中でも、大規模な噴火をしたのが864年から始まった貞観噴火と、1707年の宝永噴火です。

多くの火山噴火と地震の中での貞観噴火

 貞観噴火では、富士山の北西山麓で大規模な割れ目噴火が起こりました。このときに流れ出した大量の溶岩でできたのが青木ヶ原です。富士五湖のうち、本栖湖、精進湖、西湖もできました。この時代の様子は六国史の最後の国史・日本三代実録に描かれています。

 噴火の前年863年に越中・越後地震、864年には富士山に加え阿蘇山の噴火、868年に播磨・山城の地震、869年に東北地方太平洋沖で貞観地震が発生しました。この間には疫病も蔓延し、866年には応天門の変が起きて藤原氏に権力が集中するようになりました。その後も各地で、火山噴火や地震が続発し、878年に関東地震と疑われる相模・武蔵の地震、887年には南海トラフ地震の仁和地震が起きています。まさに動乱の時代でした。

南海トラフ地震の直後に起きた宝永噴火

 南海トラフ地震の宝永地震が発生した49日後に、富士山の南東の山腹で爆発的噴火がありました。新幹線に乗ると富士山の右側に宝永山が見え、3つの火口が並んでいます。溶岩の流出はありませんでしたが、100kmも離れた江戸まで火山灰が降りました。

 この時の江戸の様子は、新井白石の「折りたく柴の記」に残されています。当日については、「九時雷數聲也。昨夜ハ地震もしたり。九半時出仕、道より灰ふる、天くらし。」などと記されています。前夜に地震があり、昼頃から雷鳴のような音が聞こえ、やがて雪のように白灰が降ったとあります。翌々日からは灰の色が黒くなり、呼吸器疾患を起こす人が続出したとも書かれています。噴出物に変化があったことも分かります。

 富士山周辺、とくに小田原藩領の被害は甚大で、伊奈忠順が砂除川浚奉行として対応に当たり、酒匂川に堆積した火山灰の砂除けや堤防修復、農地回復などを行ったことは有名です。江戸でも火山灰の片づけが大変だったようです。

心配される富士山の噴火

 南海トラフ地震の発生が危惧される中、富士山の噴火も心配されます。宝永噴火から300年以上が経ちます。もしもすでに噴火しやすい状況になっていたとすれば、地震によってマグマだまりが圧縮されたり、揺れでマグマがサイダーのように発泡したりすることで、噴火することも考えられます。M9クラスの地震が起きると周辺で火山が噴火しやすいとも聞きます。

 富士山では、2000年ごろに低周波地震が活発になったり、2011年東北地方太平洋沖地震の4日後に直下で静岡県東部の地震が発生したりしているので、警戒は必要です。危機管理の基本は、最悪の事態を想定しておくことです。このため先月、中央防災会議の「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」が「大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策―~富士山噴火をモデルケースに~」を報告しました。

富士山が大規模噴火したときに首都圏で心配されること

 報告には、宝永噴火クラスの噴火があった場合に、首都圏で心配されることが示されています。以下に、列記しますが、過去の災害で経験したことも多いと感じます。

 地上の鉄道は、微量の降灰でも運行停止し、地下の鉄道も需要増や車両・作業員の不足等で、運行停止や輸送力低下が起きます。また、停電エリアでは全ての運行が停まります。

 道路は、乾燥時には10cm以上、降雨時は3cm以上の降灰で二輪車が通行不能となるそうです。これ以下でも、視界不良や、道路上の火山灰などで速度低下や渋滞が発生します。

 物資は、買い占め等で食料・飲料水等が売り切れる可能性があります。また、道路の物流に支障が出ると、配送や店舗営業ができなくなり生活物資の入手が困難になります。

 人の移動も難しくなります。鉄道の運行停止や道路渋滞が起きると、一時滞留者が生じ、帰宅・出勤等ができなくなります。また、空路、海路の移動にも制限がかかります。

 電力についても、降雨時には0.3cm以上の降灰で碍子の絶縁低下により停電します。数cm以上になると火力発電所の発電量が低下し、供給力が十分に確保できないと停電します。

 通信は、降雨時には、基地局等の通信アンテナへの火山灰付着により通信阻害が起きます。停電エリアでは、非常用発電設備の燃料が切れると、通信障害が発生するようです。

 上水道は、水質が悪化して浄水施設の処理能力を超えると飲用に適さなくなり、断水になります。また、停電エリアでは、浄水場及び配水施設等が運転停止し、断水します。

 下水道も、降雨時には下水管路が閉塞し、雨水があふれます。また、停電エリアでは、処理施設・ポンプで非常用発電設備の燃料切れにより、下水道の使用制限がかかります。

 木造家屋は、降雨時に30cm以上堆積すると、重みで倒壊しはじめます。体育館等の大スパン建物も心配です。また、5cm以上堆積すると空調設備の室外機に不具合が生じます。

 健康被害も心配です。降灰により、目・鼻・のど・気管支等に異常を生じます。とくに、呼吸器疾患や心疾患のある人は、注意が必要です。

 このように、現代社会で不可欠なライフラインや人流・物流が途絶えそうです。また、火山灰の片づけも大変です。いつも大規模噴火になるわけではないので、必要以上にビクビクする必要はないとは思いますが、桜島とうまく付き合っている鹿児島などから学びつつ、普段からの災害への備えをしっかりしておきたいものです。