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「Society5.0」で南海トラフ地震の被害を軽減できるか?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:ロイター/アフロ)

Society5.0

 Society5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を融合させることで、日本の経済発展と、様々な社会的課題の解決を両立しようとするものです。人間中心の社会を目指した概念だと言われており、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の新しい社会だと位置付けられています。

 IoTであらゆる人とモノをつなげて、様々な知識や情報を共有し新たな価値を生み出します。そして、AIによって必要な情報を必要な時に提供し、ロボットや自動走行車などで、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題を克服していこうとしています。

 少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差は、災害被害の拡大要因でもあり、今後の日本が抱える2030年問題そのものです。Society5.0で実現される社会は、地震災害が減じられる社会だとも言えます。

第4次産業革命

 第4次産業革命とは、蒸気機関などを用いた機械化による18世紀末の第1次産業革命、電力を用いた大量生産による20世紀初頭の第2次産業革命、電子工学や情報技術を用いた自動化による1980年代の第3次産業革命に続くもので、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットを活用した技術革新だと言われます。第4次産業革命は、経済産業活動だけでなく、人間の生き方や社会のあり方にも影響を与えると考えられています。

 ちなみに、第1次産業は農業・林業・水産業、第2次産業は鉱工業・製造業・建設業など。第3次産業はサービス・通信・小売り・金融・保険などと定義されてきましたが、第4次産業として、情報通信・医療・教育サービスなどの知識集約産業が提案されているようです。

IoT、ビッグデータ、AI、ロボットと災害対応

 Society5.0や第4次産業革命のコアとなる技術は、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットですが、これらは、地震発生後の災害対応で大いに活用が期待されます。IoTによって、あらゆるものがモニタリングできれば、被害状況が即座に把握できます。災害対応に必要となる人・車両・資機材などリソースの位置や稼働状況が同時に把握できていれば、限られたリソースを優先的に配分することができ、救命・救出の効率を高めることができます。また、助けを求めるSNS情報や人流・物流などのビッグデータは災害後の社会の状況把握に活用できます。ただし、SNS情報にはデマ情報も含まれていますから、情報の仕分けが必要になります。それには、AIの利用が不可欠になります。また、ロボットは危険を伴う救命救出活動に力を発揮すると考えられます。

CASEが災害後の生活を支える

 Society5.0や第4次産業革命を支える技術の一つがCASEやMaaSです。CASEとは、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス)、Electric(電気自動車)からとった造語です。自動車を中心に、様々なセンサーが張り巡らされ、モノやデータの共有化が進み、Society5.0の基盤が構築されていきます。人流や物流をモニタリングできるのに加え、まちの様子や運転手の精神状態までも観察できます。また、自動車のバッテリーは、停電時の電力供給の大きな武器となります。再生可能エネルギーと組み合わせることで、昼間のソーラーパネルによる電気を蓄えることが可能になります。南海トラフ地震では、西日本が広域に大規模停電する可能性が否定できないため、CASEで実現される新たなMobilityの世界は、災害後の生活を支えてくれそうです。

欠かせない事前対策

 Society5.0やCASEが作り出す世界は、通信の確実な確保と電力供給が前提になります。このため、頑強かつ冗長性のある社会インフラが必要となります。また、地震による地殻変動も位置精度を減じる原因になりそうです。

 また、これらは災害後には有効に活用できますが、地震による被害を減らすには、Hazard(ハザード)、Vulnerability(脆弱性)、Exposure(暴露量)を改善しかありません。それぞれ、危険回避の土地利用見直しと堤防などの強化によるハザードの低減、耐震強化による脆弱性の解消、同時被災者を減らす都市への過密の解消などの事前防災対策が欠かせません。そのためには、国民一人一人が「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という意識を持ち、皆で対策を進めるしかありません。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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