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「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表されたら、日本経済はどうなる?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:Fujifotos/アフロ)

南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)

 過去の南海トラフ地震では、1707年宝永地震のように全体が一度に地震を起こすだけでなく、1854年安政地震や1944/46年昭和地震のように、東側と西側の震源域が時間差をおいて活動することがあります。安政地震では32時間、昭和地震では2年の間をおいて後発地震が発生しました。このため、震源域の約半分で地震が起きる「半割れ」の場合には、後発地震が早期に発生する可能性が高いと考えられます。

 このため、気象庁は、今年3月29日に、「南海トラフ地震に関連する情報の名称について」を公表し、プレート境界でモーメントマグニチュード8.0以上の地震が起きたら「半割れ」の地震が発生したと考えて、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)を発表することになりました。

半割れ時の被災地の状況

 「半割れ」の地震が発生すると、被災地域では強い揺れや液状化、土砂崩れ、津波などに見舞われます。これにより、建築物や土木構造物が大きな被害を受け、地震火災も発生します。多くの人が命を落とし、怪我をします。沿岸部では津波避難が行われ、揺れや津波が収まった以降は、救命・救出に全力が注がれます。しかし、道路や鉄道は寸断し、空港は閉鎖され、港湾は津波被害や航路閉塞で機能停止するため、交通や物流がマヒします。電気・ガス・上下水などのライフラインも各所が損壊し、途絶します。さて、企業は、こういった中、どういった状況に陥るのでしょうか。

被災地の企業の様子

 企業の状況は地震の発生時間帯によって大きく異なります。休日や夜間だと、従業員は自宅などで被災し、災害対応人員が圧倒的に不足します。最初に、従業員の安否確認、出勤の可否などの情報収集が行われます。交通網の途絶で出勤や移動が困難になり、物流も途絶します。このため、施設や設備の点検に手間取り、さらに補修の遅れで復旧が遅滞します。

 一方、平日の日中であれば、自社施設内での従業員や顧客の被災、帰宅困難問題などが発生しますが、災害対応人員の確保は容易です。最初に従業員などの安否確認をし、その後、従業員は家族の安否確認をしつつ災害対応を始めます。

 自社施設・設備の損壊状況、仕入先や納品先の被災状況、ライフラインの被災、交通・物流の状況などを確認し、個々の復旧時期を見極めながら、操業再開までの道筋を考えます。

被災地外の企業の被災地支援

 被災地外の企業は、被災地内の自社施設や仕入先・納品先の被害、物流の被害状況に応じて、復旧の見通しを判断します。自動車産業のように3万社もの企業からなる巨大なサプライチェーンでは、一つの停止から全体へと大きく波及するので、まずは、サプライチェーンを構成する企業や物流に関する正確かつ速やかな情報収集が大切になります。そして、輸送ルートの変更、取引先被災時には早期復旧の支援や代替手段の確保、生産停止の判断、生産再開の見通しなどを速やかに検討する必要があります。

後発地震への対応

 被災地支援のためには、被災地外の企業は可能な限り事業継続する必要があります。そうしなければ、社会が委縮し日本経済は大きなダメージを受けることになります。本年3月29日に内閣府防災担当が発表した「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」には、「後発地震に対して備える必要がある地域では、最初の地震に対する緊急対応を取った後、自らの地域で発生が懸念される大規模地震に対して、明らかにリスクが高い事項についてはそれを回避する防災対応を取り、社会全体としては地震に備えつつ通常の社会活動をできるだけ維持していくことが必要」と記されています。

可能な限り事業を継続する

 ガイドラインでは、「地震発生時期等の確度の高い予測は困難であり、完全に安全な防災対応を実施することは現実的に困難であることを踏まえ、日頃からの地震への備えを再確認する等警戒レベルを上げることを基本に、個々の状況に応じて適切な防災対応を実施したうえで、できる限り事業を継続することが望ましい」、「住民事前避難地域内での明らかに生命に危険が及ぶ活動等に対しては、それを回避する措置を実施することが必要である」と記されています。

 事前避難地域内の事業所については、代替地での業務継続や休業等の判断が必要になりますが、それ以外の地域ではいつ起きるか分からない後発地震に備えつつ、可能な限り事業を継続する必要があります。

事業継続のために

 ガイドラインでは、臨時情報が発表された場合の企業の対応として、(1)必要な事業を継続するための措置、(2)日頃からの地震への備えの再確認等警戒レベルを上げる措置、(3)施設及び設備等の点検、(4)従業員等の安全確保、(5)地震に備えて普段以上に警戒する措置、(6)地域への貢献、(7)南海トラフ地震臨時情報等の伝達、(8)南海トラフ地震臨時情報に基づく防災対応実施要員の確保等、を求めています。

 具体的には、人に関しては、出社困難な従業員の把握、通勤手段の確認、人員の再配置、代替人員の確保、安否確認手段、発災時の役割分担の確認などが必要になります。また、日常の対策の再確認としては、食料・水・燃料などの備蓄、什器の固定・落下対策、主要生産設備の固定、危険個所や緊急用自動車の点検などが挙げられます。さらに事業継続のために、在庫の積み増し、重要データのバックアップや金型の退避、取引先の事業継続性の確認、輸送ルートの沿岸部から内陸部への変更、利用する港湾の変更、燃料貯蔵や車両燃料の常時満タン化、荷物の平積み化、代替事業所の確保なども適宜行うことになります

事業継続を支える社会インフラ

 どんな事業所も、電気・ガス・水道・情報通信などのライフラインや、道路・鉄路・港湾などの交通・物流システムに依存しています。これらの社会インフラをしっかり強靭化すると共に、現時点の安全性を情報開示することが、事業所の事業継続の判断には不可欠です。また、従業員が出社するには、家族が通う学校や保育園・幼稚園、福祉施設などが通常通り行われていることや、通勤手段の確保が前提になります。社会を支える行政、教育、福祉、医療、交通などが普段通り生きていることが大切になります。

世界への安心情報の発信

 臨時情報が発表されたときに日本社会が動揺すれば、世界は日本経済が危ういと感じ、為替・株式市場が混乱し、日本経済は先発地震による被害に加え、風評被害を受けることになります。万一、港湾や空港が危険だと思われれば、大型船や飛行機は入港・着陸を躊躇します。例えば、LNG船が長期間入港しなければ、数週間で日本は窮地に陥ります。日本社会が冷静に普段通りの生活を続けることが、世界に対する安心情報の発信につながります。

事前対策の徹底を

 先発地震での被害を抑え、後発地震に対して社会が動揺しないようにするには、事前の対策しかありません。施設や設備のハード対策、臨時情報発表時の社会の仕組み作りを徹底する必要があります。孫子の「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」のように、危険の回避、事前の備えを進めることで、被害を抜本的に減らし、「災い転じて福となす」を実現すれば、世界は日本を大いに評価してくれるはずです。あらゆる国民が、備えを始める時期だと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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