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保育園の「待機児童数」は入園の難易度とは無関係

普光院亜紀保育園を考える親の会アドバイザー/ジャーナリスト

8月30日、国は「保育所等関連状況取りまとめ」を発表した。

それによれば、令和4年4月1日時点での全国の保育所等の利用者は約273万人で前年よりも1.2万人減少した。待機児童数も2,944人となり半減した。(保育所等とは、認可保育園、認定こども園の保育部分、小規模保育・家庭的保育などの地域型保育)。

待機児童数の50倍の「利用できなかった子ども」

近年、自治体が待機児童対策に力を入れてきた成果が現れて、入園事情が徐々によくなってきていることは間違いない。

しかし、この待機児童数は、「保育所等に入れなかった子どもの数」そのものではない。申し込んで不承諾(保留)通知を受け取った場合でも、国が定義する理由にあてはまると、自治体は待機児童数にカウントしなくてもよいことになっている。そのため、「待機児童数ゼロ」と公表している自治体でも、申し込んだ全員が認可に入れているわけではないことに、これから「保活」をする人たちは注意する必要がある。

国の発表数値から計算すると、「保育所等の利用を申し込んで保育所等を利用できなかった子どもの数」は、上記の待機児童数の約28倍に上ることがわかっている。さらに、保育園を考える親の会が行う首都圏と政令市など100の市区を対象にした調査で同じ計算をすると、なんと約50倍という倍率になることがわかった。都市部ほど待機児童数を過小評価する傾向があるようだ。

次の2つのグラフは、100市区について、認可の保育所等の申込児童数から利用児童数を差し引いた数(認可に申し込んだが利用できなかった児童数)を算出し、待機児童数にカウントされない理由別の数がわかるように示している。この理由は国が定義し、自治体はそれぞれの解釈であてはめて算出している。上のグラフは実数を、下のグラフは構成比で示しているが、いずれも濃紺の箇所だけが待機児童数としてカウントされている部分になる。

保育園を考える親の会 2022年「100都市保育力充実度チェック」調査データより作成。
保育園を考える親の会 2022年「100都市保育力充実度チェック」調査データより作成。

20年前からディスカウントが始まる

世間が思っている待機児童数のイメージとの違いに首を傾げる人は多いだろう。

筆者は長年にわたり、保育の状況を調査してきたが、2000年までは、このような引き算はされていなかった。2001年から東京都の認証保育所制度(認可外の助成制度)が開始され、こういった自治体の事業(地方単独事業)で保育されている子どもは待機児童数としてカウントしなくてもよいことになった。しかし、その子どもたちも認可の保育所等に入園申請をしていたことに変わりはなく、なぜカウントしなくてもよいことになったのかはわからなかった。近年は、地方単独事業は減少する傾向にあり、ここに該当する数も減っている。

グラフで例年コンスタントに4割以上を占めている「特定の保育園等のみを希望する者」とは、申請の際に希望園を1つしか書かなかったり、空きのある保育施設(認可外も含む)を自治体から案内されても断ったりした場合に該当する。「遠すぎる」「園庭のある園に入れたい」「質に不安がある」など保護者が断った理由はいろいろだと思われるが、何が希望に合わなかったのかは調査されていない。

増加中の「育児休業中の者」については、育児休業を延長するために不承諾(保留)通知をもらうことを希望した場合が含まれると考えられ、ここは確かに「入れなかった児童」とは言い難いかもしれない。しかし、ここの子どもの数を無視したとしても、カウントされない部分はとても大きい。

「待機児童ゼロ」と入園の難易度は関係ない

「待機児童ゼロ」が政府や自治体の首長の公約となって以来、待機児童数はどんどんカウントされない部分が大きくなっていった。保育園を考える親の会の100市区の調査では、この数字とは別に、入園の難易度を把握できる「入園決定率」という数値を調べているが、「待機児童数ゼロ」でも「入園決定率」が平均以下の自治体は多数に上っている。残念ながら地域の入園の難易度は「待機児童ゼロ」とあまり関係ない。

全体としては、不承諾(保留)となる子どもの数は確かに減少していて入園事情が改善している。であれば、むしろ待機児童数のカウント方法は改めたほうがよいのではないだろうか。認可の保育を申し込んだのに、認可外(企業主導型、地方単独事業)に行かざるをえなかった子どもは待機児童としてカウントしてよいのではないか。小さい子どもをかかえて「求職活動(ハローワークや面接に出かける)」ができなかった保護者の子どもも待機児童としてカウントしてもよいのではないか。「特定の保育園等のみを希望」した家庭も待機児童数としてカウントした上でなぜ自治体が案内した施設を希望しないのか理由を調べたほうがよいのではないか。

自治体は「ゼロ」を宣言するために入園を希望する家庭を選別することに労力を費やすのではなく、地域の子育て家庭の状況を把握して柔軟に対応することにもっと力をかけてほしいと思う。

4月1日で「待機児童数ゼロ」でも年度後半に向けて待機する子どもの数がふえてくる。年度途中入園ができないために苦境に陥る家庭もある。ちなみに、国が実施してきた10月1日時点での待機児童数調査は、令和3年度「地方分権改革に関する提案募集」での指定都市市長会からの提案により、今年度から廃止された。グラフで示したような待機児童数の算出に手間がかかるためだ。何か本末転倒していないだろうか。子育て支援を強化して少子化に歯止めをかけたいのであれば、保育の質も含めた子育て家庭のニーズをもっと積極的に捉えていったほうがよいのではないか。

特に懸念されるのは、「待機児童数ゼロ」が理由になって地域の保育施策が後退してしまうことだ。量の整備の財源や労力に余力が生じたのであれば、それを保育の質の確保・向上に向けてほしいし、地域の子育て支援を拡大しながら、年度途中入園の枠も確保するなど、保育の子育て支援力を十分に活かす施策に注力してほしい。

保育園を考える親の会アドバイザー/ジャーナリスト

保育制度、保育の質の問題に詳しい。保育園を考える親の会アドバイザーとして、働く親同士の交流・情報交換の場を支え、また保育に関する相談にも応じながら、ジャーナリストとして保育や仕事と子育ての両立に関する執筆・講演活動を行っている。大学講師(児童福祉・子育て支援)、国・自治体の委員会委員も務める。著書に、『共働き子育て入門』(集英社)、『変わる保育園』(岩波書店)、『保育園のちから』(PHP研究所)、『共働きを成功させる5つの鉄則』(集英社)、『保育園は誰のもの』(岩波書店)、『保育の質を考える』(共著、明石書店)、『後悔しない保育園・こども園の選び方』(ひとなる書房)ほか多数。

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