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子どものマスク着用、懸念される一律対応

普光院亜紀保育園を考える親の会アドバイザー/ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 2月4日、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が2歳以上の子どものマスク着用を推奨する方向で検討していることが明らかにされ、その日のうちにネットで大議論が巻き起こりました。分科会の中でも一律に子どもにマスクを強いることを疑問視する意見があり、公にされた提言では「2歳以上」という年齢の明示を避けた上で「可能な範囲でマスク着用を推奨する」とされました。

 後藤厚労大臣は8日の記者会見で「発育状況等からマスクの着用が無理なく可能と判断される子どもについては、可能な範囲で子どもや保護者の意図に反して無理強いすることのないように留意して、一時的にマスクの着用を推奨する」と述べています。

 同日、東京医師会の定例記者会見の場で、小児科医の川上一恵氏が「幼児のマスク着用は心肺機能への負担が大きい」などの懸念を表明したことが報道され話題を呼びました。

子どもの特徴に理解を

 川上氏はメディアからの質問に答え、2歳以上の子どものマスクの着用について小児科医の見地から反対意見を述べています。子どもは運動量が多く、マスクを着用することで気道に負担がかかり、十分な酸素が取り込めず息苦しさを感じるといいます。また、嘔吐を起こしやすいので、マスクの中に吐いてちっ息するおそれがあると指摘しています。

 実際、幼児は活発に動き回ります。大人が幼児のマネをして動いてみれば、マスクをしていなくてもすぐに息が切れてしまうでしょう。

 子どもが落ち着きなく動き回るのは、自らの体を育てるためにほかなりません。この時期の子どもは、多様な運動を繰り返し行うことで筋肉・神経、それらを司る脳の機能を育んでいるのです。こういった子どもの特徴を理解しないで、大人と同じようにふるまうことを押し付けようとすると、子どもを苦しめ、その育ちを邪魔することにもなりかねないと思います。

 川上氏はマスクをすることの身体的な面での問題を明らかにしていますが、子育て中の親や保育者からは、そもそも2歳児は「マスクをつけていられない」という声も多く上がっていました。当然です。大人に指示されたとおりマスクをつけていられる2歳児もいるかもしれませんが、嫌がってはずしてしまう子どもは多いでしょう。つけていられたとしても、外からはわからない不快感や不安を感じている場合もあると思います。

 2歳くらいというと、言葉を覚えて大人の言うことを理解したり言葉で自己主張をしたりできるようになっていく時期ですが、物事を筋道立てて考える段階には至っていません。人は前頭葉の発達によって、何かの目的のために現在の欲求をがまんすることができるようになりますが、2歳ではそれが難しいのです。マスクをはずしてしまう子どもを「がまんが足りない」とか、「親のしつけがなっていない」と言うとすれば、それは子どもへの理解に欠けるというしかありません。

 幼児期は発達の個人差が大きい時期であることにも注意が必要です。それぞれのペースで、それぞれの個性を認められて育つことが、この時期の子どもにとっては重要です。

 後藤厚労相は「発育状況等からマスクの着用が無理なく可能と判断される子どもについて」と条件を付していましたが、「マスクの着用を推奨する」という言葉が一般社会や保育現場、家庭にどんな影響を及ぼすのかが心配されています。その判断は、本当に子どもを理解した上でなされるでしょうか。マスクをしない幼児を連れている親が白い目で見られたり、保育士が子どもにマスクをさせようと無理したり、公共の場で小さな子どもにもマスクをするように迫る大人が登場したりしないでしょうか。

保育現場の懸念

 保育園は、子どもたちが思い切り体を動かし子ども同士で遊ぶことで、心身のさまざまな力を自ら培っている場です。その活動もコロナ禍で制約を受けるようになっています。

 子どものマスク着用については、園によって対応はさまざまです。子どもにはマスクを着用させない方針の園もあれば、3歳以上児には原則マスク着用としている園もあります。マスク着用を問題視する意見としては、

・5歳でも着用し続けるのは難しい。

・子どもは外してしまうので、マスクが放置されたり、他の子が取り違えたりすることのほうが危険。

・マスクを衛生的に管理する余裕が保育士にない。

・嘔吐があったときに危険。

・保育士が体調を診ることに支障がある。

・子どもと保育士、子ども同士のコミュニケーションがとりづらくなる。

などがあります。

 特に、最後の点に関しては、保育の専門家からも、この時期の子どもは相手の表情から気持ちを読み取ることを学んでいる時期であることを挙げて、影響を懸念する声があります。

 保育現場は今、感染防止対策と子どもの心身の健やかな成長のために望ましいことの両方に配慮することが求められていますが、コロナ禍が長期化することで、両立はますます悩ましいものとなっています。

 マスクという新たな課題を課すのであれば、その分、国や自治体は保育現場への支援を強化する必要があるという意見もあります。

違うことを認め合って協力する

 コロナ感染防止対策に関する考え方はさまざまです。家庭の経済状態、親の職業や働き方、家族構成、子どもの年齢や発達・個性などなど、それぞれが置かれた状況によっても、感じ方・考え方、できること・できないことは大きく違うでしょう。

 結局、できる人ができることをやりながら、協力し合って乗り越えていくしかないのですが、そのとき、互いに状況が違っていることを認め、分断を呼び込まないようにする必要があると思います。子どものマスクについても、一方的な対応にならないように、関係者にお願いしたいところです。

保育園を考える親の会アドバイザー/ジャーナリスト

保育制度、保育の質の問題に詳しい。保育園を考える親の会アドバイザーとして、働く親同士の交流・情報交換の場を支え、また保育に関する相談にも応じながら、ジャーナリストとして保育や仕事と子育ての両立に関する執筆・講演活動を行っている。大学講師(児童福祉・子育て支援)、国・自治体の委員会委員も務める。著書に、『共働き子育て入門』(集英社)、『変わる保育園』(岩波書店)、『保育園のちから』(PHP研究所)、『共働きを成功させる5つの鉄則』(集英社)、『保育園は誰のもの』(岩波書店)、『保育の質を考える』(共著、明石書店)、『後悔しない保育園・こども園の選び方』(ひとなる書房)ほか多数。

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