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Spotify 62%超の曲が支払い無しに

榎本幹朗作家/音楽産業を専門とするコンサルタント
著者作成

Spotifyは今月から年間再生数が1,000未満の曲には楽曲利用料を支払わない新ルールを施行した。このルール変更によりSpotifyにアップロードされた1億曲のうち6,200万曲が無報酬となる。2022年、Spotifyで年間1,000再生未満だった曲は全体の62.5%だった(参照元)。

似た事例として、YouTubeはチャンネル登録者数1,000未満の動画に広告売上を支払わないルールを設定したが昨年6月、収益条件を登録者数500人に緩和している。

また中身の無い再生で楽曲売上を掠め取るフェイク・ストリーム対策のため、内容の無い「ノイズ・トラック」の削除も始めた。削除対象の楽曲は100万曲単位となる。

Spotifyは一連の新ルール変更により「働いているアーティスト(Working Artists)」の収入が今後5年間で10億ドル(約1500億円)以上増えると予測している(参照元)。

なお、この金額は基本的にレーベルや著作権権利団体などへの支払いでありアーティストの直接収入が1500億円増えるわけではない。

一連のルール変更は「Spotifyの支払いが低い」と声を上げる人気アーティストが増えたことへの答えと見られる。Spotifyはフリーミアムモデルのため、有料会員のみのApple Musicなどと比べて再生数あたりの支払いが低かった。

また、主にユニバーサルミュージックが音楽配信に求める「アーティスト中心モデル」への転換を反映したものともいえるだろう。「アーティスト中心モデル」は、単曲の再生数単位で楽曲利用料が決まっていた従来の「楽曲中心モデル」に対し、アーティスト単位で楽曲利用料を計算するモデル。

インディーズやDIYアーティストから「メジャー・アーティスト優遇だ」という批判も出ているが、YouTubeの前例を見る限り、それほど大きな声にはならなそうだ。

とはいえYouTubeが昨年ルールを緩和したように、Spotifyも新しい音楽の多様性を維持するため「1000」ルールを緩和する日が来てもおかしくはない。

生物の世界で淘汰と繁栄はトレードオフの関係だが、その基盤には多様なエコシステムがある。バランスが大事であり、それは音楽も同じかもしれない。

(Musicman編集長 榎本幹朗)

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作家/音楽産業を専門とするコンサルタント

寄稿先はNewsPicks、Wired、文藝春秋、新潮、プレジデント。取材協力は朝日新聞、ブルームバーグ、ダイヤモンド。ゲスト出演はNHK、テレビ朝日、日本テレビ等。1974年東京都生まれ。2017年まで京都精華大学非常勤講師。上智大学英文科中退。在学中から制作活動を続け2000年、音楽TV局のライブ配信部門に所属するディレクターに。草創期からストリーミングの専門家となる。2003年、チケット会社ぴあに移籍後独立。音楽配信・音楽ハード等の専門コンサルタントに。著書「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)

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