音楽配信、再生数10回以下の曲が四割超
音楽配信には毎日10万曲ほどがアップロードされているが(MBW)、昨年、7割の楽曲が年間再生数100回以下、4割の楽曲が年間再生数10回以下、そして四分の一の楽曲が一度も再生されなかったとルミナンス社が明らかにした。同社はアメリカのエンターテインメント業界を専門とする調査会社。
■年間100万回以上再生された曲は0.24%
現在、音楽ストリーミング配信で流通している1億5800万曲(IRSCs)のうち6,710万曲が再生数10回以下、3,800万曲がひとりのリスナーも得られていない。
一方、人気曲は、年間再生数10億回以上が15曲のみ、1億回以上10億回未満が3,000曲、1,000万回以上1億回未満が43,000曲、100万回以上1,000万回未満が327,000曲、10万回以上100万回未満が160万曲だった(※)。
なお音楽サブスクで1回再生されると1円前後が音楽会社に支払われる。印税率10%で音楽会社と契約している場合、アーティストは1回の再生で0.1円前後の収入だ。
音楽会社と契約した新人が1年で10曲を出して音楽サブスクから1,000万円を得るには、1曲あたり平均1,000万前後の再生が必要となる。年間1,000万回以上、再生された楽曲は全体の0.03%だ。
昨今は、レーベルと契約せずとも誰でも自分のアルバムを、あらゆる音楽サブスクに配信できる。TuneCoreなど配信代行業者に年間5,000円ほど払うだけでよい。音楽会社と契約しなければ音楽を公開できなかったCDの時代と異なる点だ。
その場合、音楽サブスクからの支払いは直で全て受け取ることができる。が、かわりにプロモーションを受けられなくなる。一年の再生数が10回以下の楽曲が6,710万曲もある現状は、その結果といえるかもしれない。
なお、少し古いデータになるが2019年、YouTubeで100万回以上再生された動画は全体の0.1%未満だった(PEX)。宣伝費がないなら、YouTubeに楽曲を投稿してバズるのを待つというのもなかなかの低確率だ。
こうしたDIYミュージシャンがサブスクから年1,000万円を10曲で稼ぐには、1曲あたり平均100万再生が必要だ。1年で100万回以上、再生された楽曲は全体の0.24%だ。
この0.03%あるいは0.24%をどう感じるのか、意見の分かれるところだ。ただ、才能というのは数少ない存在だから才能と呼ばれるのは、時代が進もうと変わらないのかもしれない。
■投稿曲にリスナーをつける試み
だが、音楽を配信しても最初のリスナーを得られないというのは、才能とは関係のない技術的側面から来ていることも否めない。ほとんどのレコメンデーション・エンジンは、一定以上の再生数がないとその曲をお勧めの対象にしないからだ。
これはコールド・スタート問題と呼ばれていて音楽配信やネット通販だけでなく、動画やSNSの投稿など、ネットに載るコンテンツのすべてに関わっている。解決策はいくつかあるが、音楽配信での実例を2つほど上げておこう。
まずはアメリカの音楽配信Pandora.comの取った手法だ。彼らは再生数やイイネの数ではなく、まず人海戦術で一曲一曲を450の要素に分解。楽曲同士の構造的な近似性に基づいて、音楽をおすすめするAIを作った(MGP)。これによって、2005年のサービスインから8年後には、15,000組のアーティストにそれぞれ20万人超のリスナーをつけることに成功した。
次は最近の試みだ。音声共有のSoundCloudは今年7月末、投稿した楽曲に100人のリスナーを自動的につけるFirst Fansという機能を実装した。その100人はランダムに選出されるのではなく、投稿された楽曲に興味を持ちそうなリスナーをAIが探し出しておすすめするという仕組みだ。
PandoraのMGP、SoundCloudのFirst Fansは共にテクノロジーのちからで、宣伝費を持たなかったりSNSの影響力が低いアーティストに最初のリスナーをつける仕組みだ。とはいえ、それがプロモーションを完全に不要としたわけではない。やはり、駆け出しのアーティストがいかに宣伝費を確保するか、という問題は依然として残っている。
Pandoraの創業者であるティム・ウェスターグレンはその後、アーティストのオンライン・プロモーションを自動化する「プロモーション・エンジン」を提唱しているが、こうした新技術やWeb3のDAOなどを活用して、最初の100人のコア・ファンが駆け出しアーティストの宣伝をサポートしてゆく世界が、いずれ訪れるのではないかと期待している。