新型コロナウイルスと季節性インフルエンザ〜比べて良いのか
緊急事態宣言
新型コロナウイルスの感染が拡大している。世界保健機関(WHO)はついに、新型コロナウイルスによる肺炎を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)に該当すると宣言した。
私は医師(病理医)だが感染症の専門家ではないうえ、刻一刻と事態が変化しているので、このウイルスに関する詳しい解説等は他の専門家に任せる。
Yahoo!ニュース個人でも、感染症専門医の忽那賢志先生が詳しい解説をしているし、旧知の病理医である峰宗太郎先生も、詳しい記事を書かれている。
その他感染症界のエースと呼ばれる岩田健太郎先生も、YouTubeなどで発信されている。
こうした専門家の正しい情報をフォローし、過剰反応せず、かつ侮らず冷静に対処してほしいと願う。
インフルエンザのほうが死んでる
というわけで、一介の病理医の私の出番などないわけだが、少し気になることがあって記事を書くことにした。
それは季節性インフルエンザと新型コロナウイルスを比較した報道が増えてきたことだ。
- 日本国内の報道は中国の新型コロナウイルス一辺倒だが、アメリカのインフルエンザは感染者1500万人!! 入院患者14万人!! 死者8200人以上!! 国内大手メディアが報じないと巨大なパンデミックも存在しないことに!? 2020.1.30
- 「新型コロナウイルスよりもインフルエンザが危険」な理由とは?
- A deadly virus is spreading from state to state and has infected 15 million Americans so far. It's influenza
アメリカでは年間1万2千人がインフルエンザが原因で亡くなっており、2017年から2018年にかけての流行期には、45万人がかかり、6万1千人が死亡した。
それに比べれば、新型コロナウイルスによる肺炎などまだまだ大したことはないだろう、と言うわけだ。
それはその通りだ。インフルエンザが死にどの程度影響を与えたか推定するのは難しいが、日本では大体年間1万人程度が亡くなっているという。
コロナウイルスはまだ日本国内で死者が出てはいない。インフルエンザのほうがよっぽど生命に影響を与えるので、インフルエンザに対する対策をしっかりすべきであるというのは当然だ。
感染症の専門家である岡部信彦氏は以下のように述べる。
比べて良いのか
ただ、新型コロナウイルスとインフルエンザを単純にかかった人の数や死者数だけで比べて良いのだろうか。
共にウイルスによる感染症であり、比較は容易いと思われるが、新型コロナウイルスはいまだ明確な治療法がなく、しかも次々と新しい情報が発信されているという、いわば「クライシス」(緊急事態)の状態にある。こうした「クライシス」の時には、コミュニケーションの仕方に注意が必要とされる。
こうしたクライシスの状態では、安易なリスク比較は危険だとされている。
新型コロナウイルスはインフルエンザよりも死者は少ないので、大したことない、全然怖がる必要ないと言い切ってはいけないということだ。
インフルエンザの感染が大きな問題であるのは事実だが、新型コロナウイルスと比較して強調するのではなく、それはそれとしてきちんと啓蒙し対策を立てていくことが重要だ。
新型コロナウイルスに関しては、WHOや中国政府、そして日本政府は、分かっていること、分かっていないことを包み隠さず公開していくことが、「クライシス・コミュニケーション」として求められていると言えるだろう。そして、それを受けて、メディアも冷静な情報発信を続けてほしい。
追記
クライシス・コミュニケーションに関しては以下のページが参考になる。
追記(2020年2月14日)
次第に新型コロナウイルス(SARS-CoV2)とその感染症(COVID-19)と季節性インフルエンザの違いが見えてきた。東北大学の押谷仁教授は以下のように述べる。少々長いが引用させていただく。
追記2(2020年3月15日)
1月に書いたこの記事がいまだ多くの方々に読まれているので、追記する。
WHOもパンデミックを宣言した。生活にもおおきな影響が出てきている。それでもいまだ「まだ10人くらいしか死んでいない」「他のことの方がもっと影響ある」「騒ぎすぎ」という声が聞かれる。季節性インフルエンザとの比較は減った印象だが、他のリスクとも比較が行われている。
繰り返すが、不明なことがまだ多い現在進行形のクライシスの中で、数字だけを比較してはならない。数字は未確定であり、これから増えていく。
死亡率が低くとも、今年中に例えば日本人の半数、6000万人が感染すれば、死亡率が1%で60万人、0.1%で6万人が亡くなることになる。
このように見れば、確定した他のリスクの数値と比較するのは適切ではないことはお分かり頂けるだろう。こうしたミスリードは、対策を遅らせることにもつながる。