最強のチャンピオンの命を奪った敗血症性ショック
最強のチャンピオン逝く
元ヘビー級チャンピオン、ムハマド・アリ氏が6月3日死去した。享年74歳だった。
私たちの世代(1971年生まれ)は現役時代のアリ氏の記憶が乏しい。アントニオ猪木氏との異種格闘技戦(とはいっても、1976年6月26日に行われたそうで、4歳の私がリアルタイムで見ているはずはない)の印象と、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」という言葉が心に刻まれている。
御冥福お祈りする。
入院中のアリ氏を最後に死に至らしめたのは、「敗血症性ショック」だった。
敗血症性ショックとは何か
最強のチャンピオンの命を奪った「敗血症性ショック」とは何か。
敗血症性ショックは、以下のような人がかかりやすいと言われる。
アリ氏の場合も呼吸器の疾患で入院していたというから、おそらく人工呼吸器やカテーテルなどを外からつながれていたのだろう。つながれた管や呼吸器が菌の侵入経路になるのだ。
敗血症と闘う医療現場
私も何度かこのYahoo!ニュース個人の記事中で、この病気について触れてきた。がんや長期の入院の最後に敗血症性ショックが起こったことが、直接の死因になるケースが多いからだ。病理解剖(剖検)を行うと、長い間の病との闘いの最後に敗血症性ショックが起こったと考えられるケースにしばしば遭遇する。
厚生労働省の人口動態調査(2014年)では、敗血症で亡くなった人は1万2千人程度であり、このなかに敗血症性ショックも含まれる。決してまれな疾患ではない。
最近、敗血症および敗血症性ショックの診断基準が変わった。
診断基準の変更はあくまで医療者の問題であるが、元世界チャンピオンの命を奪う疾患に対し、医療現場が必死の闘いをしていることはご理解いただけるだろう。
最近気になることがある。
近年、抗生剤が効かない耐性菌の問題が、人類の今後を左右する深刻な課題として認識され始めている。
つい先日も、どの抗生剤も効かない菌が現れたことが大きく報道された。
今後重症者が入院する病院で、抗生剤が効かず、敗血症性ショックの治療に苦闘する可能性が高まっていると言える。
ところで、アリ氏のような著名人の死因がオープンになることは、今医療現場で何が問題になっているかを考えさせてくれるという意味で、私たちにとってとても重要なことだと思う。ご遺族にとってはお辛いことではあるが、死因を正確に知ることで、今後の医療をどうしていくべきか考えることができるし、医療にかかわりのない人たちも、誰にでも訪れる死について考えを深めることができる。
死をタブーにしすぎてはいけないのだ。