「天才少年」が起こした論文盗作事件

研究不正はSTAP細胞事件だけではない。世界で発生し続けている。(写真:ロイター/アフロ)

論文の自己盗用で…

 Astrophysical Journal(天体物理学雑誌)に掲載された一つの論文が撤回されることになった。

 アメリカ天文学会のホームページに撤回理由が書かれている。

Song & Park (2015) draws extensively from an earlier publication by Dr. Park, “Stationary Versus Nonstationary Force-Free Black Hole Magnetospheres," in Black Hole Astrophysics 2002: Proceedings of the Sixth APCTP Winter School (World Scientific Publishing Co., 2002). In fact, the differences are modest, mostly confined to an alternate formulation of the analytic results, and could raise the question of copyright violation. Park (2002) is not part of the peer-reviewed literature, and scientists frequently use a conference proceeding as the rough draft of a subsequent submission to a professional peer-reviewed journal. However, in this case the overlap between the 2002 book chapter and 2015 paper is exceptionally large.

(抄訳:ソンとパクの2015年の論文は、パクの2002年の学会発表の資料から広範囲に引用されたものであり、違いはわずかだ。パクの2002年の資料は査読がなされておらず、こうしたものを下書きとして査読付き論文に投稿する研究者は多いものの、ソンとパクの論文とあまりに広範囲に一致しすぎている)

出典:Astrophysical Journal Paper Retracted for Plagiarism

 いくら著者のひとりが書いた学会発表の資料といえど、引用したことを明示しなかったことから、この論文は盗用とされ、撤回されることになった。

 盗用は捏造、改ざんと並んで最も行ってはならない研究不正とされている。日本では特定不正行為とされ、いわば「即アウト」だ。

捏造

存在しないデータ、研究結果等を作成すること。

改ざん

研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。

盗用

他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること。

出典:研究活動における不正行為への対応等に 関するガイドライン

 なぜ他人ではない自分の過去の資料を引用するのが盗用なのか。

重複出版は自己盗用(自己剽窃)とも呼ばれており、一種の盗用とみなされます。これは、新たな論文を執筆する際に、過去に書いた文章を丸ごと再出版したり、その一部を再利用することを指します。過去に出版した論文でも適切に引用されていれば、著作権で保護された自分の論文を再利用することは可能です。しかしながら、すでに出版済みの論文を、あたかも新しいものとして出版するのは、非倫理的行為と見なされます。

出典:Dr.Eddyのお悩み相談: 自己盗用の何が問題なのですか?

天才少年の蹉跌

 撤回されたこの論文の著者は韓国人のソン・ユグン氏(科学技術連合大学院大(UST)大学院生)と、ソン氏の指導者であるパク・ソクチェ韓国天文研究院研究委員。

 ここまでは、言ってしまえば「ありふれた」研究不正事件だが、韓国ではこの事件が大きな話題になっている。というのも、ソン・ユグン氏はなんと17歳、韓国では「天才少年」として有名だったからだ。

1997年11月27日生まれのソン君は、5歳で掛け算をクリアし、7歳で微積分を解いた。中学・高校過程を検定試験で修了し、仁荷(インハ)大学に随時選考で入学した。若干8歳での快挙だった。ソン君は、韓国史上最年少の大学生となり、科学神童プログラム第一号に認定された。

出典:ワウコリア

 先週、ソン氏が韓国史上最年少の博士となると報道されていたこともあり、韓国では大きく報道されている。

 ソン氏の「最年少博士」は、論文の撤回により要件を満たせなくなったことよりお預けとなった。

ソン君が博士学位論文審査を通過した大田(テジョン)の科学技術連合大学院大学(UST)は卒業の要件として、SCI(科学技術論文引用索引)級ジャーナルに1件以上の論文を発表することを規定している。しかし同学術誌がソン君の論文を撤回したことで、ソン君は卒業資格を満たすことができなくなった。

出典:中央日報

 著者にもなっている指導者の学会発表資料からの自己引用であり、ソン氏の「天才性」とは関係ないのかもしれないが、ルール違反であり言い訳はできない。

揺れる韓国学術界

 この事件が明らかになる直前、別の事件が明らかになっていた。

韓国検察は24日、全国50大学の教授200人を立件したと発表した。問題になったのは本の盗作。教授らは、他人の本の表紙だけをすり替え、自らの著作として出版していた罪に問われている。

出典:日刊サイゾー

 ほぼ同時期に明らかになった二つの事件で、韓国の学術界は強い批判にさらされている。

ほぼ同時に発生した両事件は単なるミスを越え、国内の学界に蔓延した研究倫理に対する無知と軽視傾向をそのまま表した。

出典:中央日報社説

他人事ではない

 こうした事態は、決して他人事ではない。

 ご存じのように、日本国内でも、多くの研究不正事件が発生している。昨年世間を騒がせたSTAP細胞事件、STAP細胞事件よりも大規模かつ悪質(その割には報道量が少ない)な東大分子細胞生物学研究所加藤茂明教授の事件、172本もの論文に不正を行った東邦大学の事件など、知られているものだけでも多数ある。

 日本人が出した論文の画像加工を疑わせる率は、平均より高いという指摘もある。

PNAS誌(2003年 Vol.100(1)~100(3))では日本人名が含まれる論文と含まれない論文で比較検討したところ、日本人名が含まれる論文で画像に疑義のあり調査・検証が必要と考えられる論文の率(画像加工要調査率)は42.9%となり、日本人名が含まれない論文での17.2%と比べて有意(P<0.05)に高い傾向が見られた。

出典:生命科学研究の電気泳動画像は揺らいでいた

 小保方晴子氏に責任を押し付け、嵐が過ぎ去るのを待っている研究者は多いと思うが、研究不正が起こる構造はまだそれほど変わっていない。隣国での研究不正事件は、日本の研究者にも警鐘を鳴らしていると言えよう。