地下鉄サリン事件20年、専門知の悪用をどう防ぐか
去る2015年3月20日、地下鉄サリン事件発生20年の節目の日を迎えました。
あの時私は東大理学部の4年生で、普段利用する丸ノ内線がテロ被害にあったことに戦慄を覚えました。
サリン製造も含め、オウム真理教のテロには理工系出身者の専門的知識が悪用されたことが知られています。
参考:オウム真理教:洞察 ― テロリスト達はいかにして生物・化学兵器を開発したか
サリンを製造したとされるのは遠藤誠一、土谷正実、中川智正死刑囚です。
wikipediaによれば、遠藤誠一死刑囚は帯広畜産大学卒業後京都大学大学院にて遺伝子工学、ウイルス学の研究をしていました。博士課程中退後オウム神仙の会(オウム真理教の前身)。土谷正実死刑囚は、筑波大学卒業後、同大学院で博士課程まで進み(中退)、化学を専攻していました。そして中川智正死刑囚は京都府立医科大学卒業後医師免許を取得しました。
彼らは博士号を持たず、修士終了レベルの知識と経験しかなかったわけですが、それでもサリンを製造し、松本サリン事件、地下鉄サリン事件などを引き起こし無差別殺人を行いました。
予算と時間と材料さえあれば、大量殺戮兵器を作ることができる人材がごまんといるという状況…もちろん、理論と実践には乖離があり、また、物質の入手や予算など、様々な規制があるなかで、実際にテロを行うまでに至るケースはそう多くないとは想像できます。しかし、擬似的な「国家」を形成するテログループも存在する現在、地下鉄サリン事件のような事件の再来への危惧は、決して絵空事とはいえないと思います。
理工系の博士課程在籍者や修士課程修了者がなぜオウム真理教に入信したのか…いろいろな説がありますが、結果としてテロ集団に加わってしまったことは事実です。
こうしたテロに専門的知識を持ったものが参加するのを防ぐためにはどうすればよいでしょうか?
研究者倫理を教育することももちろん重要です。研究者には研究者倫理を身につけてもらわないと困ります。医師の「ヒポクラテスの誓い」のようなものが必要かもしれません。
しかし、それだけではとても足りません。若手研究者や博士号取得者の雇用の不安定化や非正規雇用化は、テロリストに付け入る隙を与えかねないように感じています。
また、少し前に、ISIS(ISIL)が医師を脅して臓器を取り出すことを強要させているというニュースがありました。
自発的にテロに加担しなくても、脅されて仕方なく行うというケースも考えられます。
一方、こんな意見もあります。名城大学の磯前秀二教授は、著書の中で以下のように述べています。
軍事研究の強化が言われる昨今、これも現実味を帯びるかも知れません。テロリストに専門知を渡さないためにも、博士号取得者を軍事研究に従事させるなどして囲い込むことが必要ではないか、という意見に行き着く可能性がありますが、賛否分かれることと思います。
地下鉄サリン事件から20年。この事件が提起した問題は、今でも、いや、ISISが台頭する今だからこそ真剣に向き合わなければならないと思います。