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国会での議論が必要だ

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
衆議院が解散された9月28日の臨時国会(写真:つのだよしお/アフロ)

 政府・与党は、衆議院総選挙後の特別国会を、11月1日から8日間の日程で開くことを決めたが、安倍首相は所信表明を行わず、そのうえ年内に臨時国会も召集しない見通しだという報道に接して唖然としている。

 せっかく選んだ国会議員に、なぜ議場で仕事をさせないのか。特別国会を短期間で閉じるのであれば、改めて臨時国会を来月中に開くべきだ。

1年に5か月余りしか国会を開かない?!

 1月20日に始まった通常国会が6月18日に閉じられた後、野党が臨時国会の開催を求めたが、政府・与党は応じないままだった。9月28日に冒頭解散した臨時国会を含めても、今年国会が開かれていた期間は151日。このまま臨時国会を開かなければ、国会開会期間は1年にわずか5ヶ月間余り。平成に入って、もっとも国会を開いた期間が短い年になる。

 昨年8月3日に現在の自称「仕事人内閣」が発足したが、閣僚らは、一部委員会での閉会中審査で答弁した者を除いて、国会に対する説明をすることもなく、そのチェックを受けることもない事態が、来年の通常国会まで続くことになる。

 安倍首相は、通常国会終了後の記者会見で、森友・加計問題などでの自らの答弁態度について「深く反省している」と述べた。9月の衆議院解散を明らかにした記者会見では、そうした問題について、今後も「丁寧な説明」をしていくと語った。選挙後には、「自民党に対する厳しい視線があることをしっかり認識をしながら、この勝利に対して謙虚に向き合っていきたい」と述べた。

 こうした「反省」や「丁寧な説明」や「謙虚」な姿勢は、口だけのものなのか。安倍首相は、国権の最高機関である国会を、もはや政府・与党の方針を追認するための機関と見ているのではないか。ここまで国会を軽視する首相は、これまでいただろうか。

前回の冒頭解散の後は……

 平成に入ってから昨年までの間で、一年間の会期が最も短かかったのは、平成8(1996)年の180日だ。この年は、今年と同じように、9月27日開催の臨時国会の冒頭で衆議院が解散された。小選挙区比例代表並立制での初めての総選挙が行われ、自民党が勝利。それまで連立内閣を構成していた社民党・新党さきがけが閣外協力に転じ、3年ぶりの自民党単独内閣となった。

首相官邸ホームページより
首相官邸ホームページより

 11月7日に召集された特別国会の会期は6日間だった。しかし、特別国会閉会から17日後の11月29日には臨時国会を召集し、橋本龍太郎首相は衆参両院で所信表明を行い、各党からの代表質問を受けた。

 自民党は選挙には勝ったとはいえ、この時期には、様々な不祥事が相次いでいた。組閣の当日、政界への金のばらまきや官僚接待の疑惑がかけられている石油卸商が逮捕された。特別養護老人ホームをめぐる汚職事件で、臨時国会召集の当日、厚生省前事務次官が東京地検特捜部の事情聴取を受けた。その後前次官は逮捕される。

 橋本首相は、所信表明を「最近、行政に対する信頼を失墜させる事態が続いたことはざんきにたえない」「政治の責任も痛感している」と不祥事に関する陳謝から始めざるをえなかった。それでも、自らの政治課題である行政改革についての考えを語り、「身を燃焼させ尽くしてもやり抜きます」と強い意気込みを見せた。

 この臨時国会の会期は12月18日までの20日間。審議では、当然不祥事も議題になり、橋本首相が陳謝した。会期中に10法案が可決された。

 野党からの追及やメディアの批判がある中でも、橋本首相はそこから逃げず、自身がこれからやろうとしている政策について語り、質問にも答え、国民に理解と協力を求めた。なぜ、安倍首相にそれができないのだろう

「国難」にどう対応するのか説明せよ

選挙で自民党候補の応援演説をする安倍首相(撮影:小川裕夫)
選挙で自民党候補の応援演説をする安倍首相(撮影:小川裕夫)

 森友・加計問題のほかにも、九州北部豪雨や台風21号の被害に対する対策、北朝鮮問題、過労死を防ぐ働き方を巡る問題、少子化・人口減に対する対応など、議論するべき課題はたくさんある。なにより、安倍首相自身が「国難」を突破するため、として衆議院を解散したのだ。その選挙結果を受けて、「国難」にどう対応するか国会でしっかり説明し、質問に答える義務が、安倍首相にはある

 言論の府である国会で、活発な議論が行われてこそ、民主主義国家だろう。野党議員も、選挙前や選挙中の諸事情にとらわれたり、責任追及の内輪もめなどをやっている場合ではない。せっかく国民の代表として選ばれたのだから、この点については一致結束して、国会での審議を行うよう求めるべきだ。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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