物理的に届かない防災無線、耳に入らない防災無線の諸問題

一般的な防災用屋外スピーカー。音の指向性が強く、死角が多い

先日、伊豆大島を襲った台風と土石流被害ですが、今も新たな台風が接近中で被害が心配されていますね。

こんな時に必要となる災害情報について、広く地域住民に伝達するのが防災行政無線(防災無線)です。行政が整備する防災無線には、大規模災害からテロ、ミサイル攻撃までを瞬時に警報する総務省の全国瞬時警報システム(通称:J-ALERT)から、市町村で整備する防災行政無線まで様々なレベルでありますが、ここでは身近な市町村防災行政無線を防災無線に絞って触れたいと思います。

市町村が整備する防災無線は、屋外に設置したスピーカーによる広域放送、若しくは戸別に設置された受信装置により、地域住民に対し災害情報が伝達されます。しかし、今回の伊豆大島では、屋外スピーカーの音が聞こえなかったというケースがあったと報道されています

伊豆大島を襲った土石流は、避難の遅れが被害拡大につながった可能性が高い。自治体が住民へ災害・避難情報を迅速に伝えるため欠かせない設備として「防災行政無線(防災無線)」があるが、今回の災害でも「聞こえなかった」など運用上の課題が残されている。  島内では20日も、道路の通行止めや避難の徹底を呼び掛ける防災無線が何度も鳴り渡った。タクシー運転手の山下浩司さん(65)は大島町役場近くで車の中にいた。防災無線を聞こうと窓を開けたが、「町の言葉で『ナライ』という北東の強い風が吹き、音が流れて、まったく聞き取れなかった」と振り返る。

出典:防災無線「雨音で聞こえなかった」 運用に課題「複数の伝達手段確保が必要」

台風のような風雨を伴う天候の場合、屋外スピーカーによる情報伝達は相当の制約が出ます。この他にも地形により、あるいはスピーカーの指向性によって、屋外の全住民に放送を伝達することが難しい事態が想定されます。また、風雨を伴う災害においては、屋外スピーカーが損傷し、放送出来ない事態が現実に起きています。これらは音が届かない、出せないという、物理的に聞こえる様な状況ではなかったケースとなります。

一般的な防災無線の屋外スピーカー。指向性が強い(Wikipediaより)
一般的な防災無線の屋外スピーカー。指向性が強い(Wikipediaより)

ところが、放送が住民に物理的に届いていても、それが災害情報として認知されないケースも存在します。東日本大震災でも、地震後の対応に手一杯で、津波が迫っている事を伝える放送が届いていたはずなのに、その事実を認識していなかったケースが多々ありました。東日本の方は震災当時を振り返って欲しいのですが、地震直後は家族や職場への連絡に追われていて、周囲の放送や駅員のアナウンスなどに注意を向けられていなかった方は大勢おられると思います。放送があっても耳に入ってない事は、誰もが陥りがちなことです。

これら物理的、あるいは認知的な要因によって、防災無線の伝達は阻害されます。総務省がまとめた「災害時における情報通信の在り方に関する調査結果」によれば、先の東日本大震災において、実に57.1%の住民が防災無線が聞こえなかった、あるいは耳に入ってなかったと回答していることが明らかになっています。また、放送を聞いていても、津波を過小に評価して避難に繋がらなかったケースも32.8%もありました。近年は地震以外の災害については事前に精度の高い予測が出来ますので、避難をさせるための災害情報をいかに確実に伝えるかが、防災・減災の鍵になってくるでしょう。

では、これらの問題解決について、どのような対策が必要でしょうか。

まず、物理的に放送が届かない点については、戸別の受信機の整備、屋外スピーカーの指向性の実態調査と再調整による改善が挙げられます。しかし、戸別の受信機は費用的な問題があると共に、普段は緊急性の無い自治体の行事案内にも使われている為、静謐が乱されたとして訴訟を起こす地域住民もいます。戸別受信機を用いた放送が平時に常態化すると、「オオカミ少年」効果により緊急性のある放送が見逃される可能性もありますので、普段の放送内容を精査することも重要になるでしょう。

また、屋外スピーカーの問題については、近年は全方位かつ広範囲に音を伝えるスピーカーが市場に出ていますので、従来型のスピーカーから変更による改善も望めます。1台の設置で直径約5キロメートルの広範囲をカバーできるスピーカーもあり、平時のメンテナンスや災害時の可用性についても大きなメリットがあります。

米WHELEN社製の超広域伝達スピーカー。全方向に広範囲に音を伝える
米WHELEN社製の超広域伝達スピーカー。全方向に広範囲に音を伝える

難しいのは「耳に入っていなかった」、認知的要因に帰する問題への対策です。確実に情報が伝送されたとしても、それに注意を払っていなければ意味がありません。発災時、まず自身と周囲の安全の為の情報収集を行うよう啓発することも重要ですが、現実には難しいでしょう。

このような場合、広範囲かつ、「個人」に直に情報を伝える手段が重要になります。その有力な手段が携帯電話です。先に挙げた総務省調査では、回答者の95.1%が携帯電話を身近な情報端末として保有していた事が明らかになっており、個人に伝達するための有力な手段として期待されています。

携帯電話の主要キャリアは、気象庁からの緊急地震警報・津波警報等を携帯電話の同報機能を利用して配信するサービスを行っています。携帯の機種により設定が別途必要な場合もありますので、契約キャリアのサイト等で確認をとり、災害時に作動するよう設定を行いましょう。また、地域の災害情報を携帯に配信するサービスを行っている市町村もありますが、キャリアと契約してキャリアの同報機能で配信を行っているか、独自にメールサービスを行っているか、市町村ごとに違いがあります。お住まいの市町村の防災サイトで、サービスの有無と内容を確認してから、必要に応じて登録・設定されると良いと思います。

一方で、バッテリーの持ち時間が短い事、中継局が被災で使用不能になると通信が出来なくなる問題が携帯電話にはあります。それらには、予備バッテリー・モバイルバッテリーといった充電手段を普段から持ち歩いたり、音声・データ通信とは異なる仕組みで配信されるワンセグ等の機能を持った機種にするなどの対策を講じる必要があるでしょう。

ここまで書いてきた対策は、特に認知問題の部分において、個人の対応に委ねられるものが過半です。防災は普段からの心がけとは言いますが、そうは言っても中々手を付けないのが人の性です。しかし、携帯電話は一度設定してしまえば、機種変更等をしない限りは心がけと違って永続的に続きますし、外出時はいつでも肌身離さず持っています。これを読まれた人の中で、自分の携帯電話のキャリア又は住んでいる自治体の災害情報サービスをご存知無い方は、今すぐ確認してみましょう。一回の設定で済むのですから、万全ではないにせよ、こんなに楽な災害対策はありません。

ほとんどの人が携帯電話を持っているのです。せっかくの機能・サービスを、活かすも殺すもあなた次第です。

【主要キャリアの災害情報サービスのリンク一覧】

NTTドコモ:緊急速報「エリアメール」

au/KDDI:緊急地震速報:緊急速報メール

SoftBank:緊急速報メール(緊急地震速報+津波警報+災害・避難情報)

EMOBILE:緊急速報メール