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「貴重な23歳の1年をつぶされた」それでも前向きな“コロナ入社”世代たち

道満綾香Z世代のメディア「Z総研」アナリスト
Z世代で流行っているハートで顔を隠すポーズ(オンラインインタビューより)

若いのにコロナで友人と会えず旅行もできない――と、世の中からかわいそうがられている若者たち。国内で初めて緊急事態宣言が発令されてから1年が過ぎ、当時新卒社会人だった世代には後輩ができたころです。社会人になったばかりの時期がコロナ禍と重なって生活を翻弄された2020年の苦悩を、「コロナ入社」世代を含む若者たちは今どう振り返るのでしょうか。この春に新卒2年目を迎えた、エンタメ系のベンチャー企業で広報を務める星野さん(23)、医療機関で管理栄養士として働く鈴木さん(仮名、23)、新卒3年目で生命保険会社勤務の佐藤さん(仮名、24)に聞きました(取材は2021年3月25日に行われたものです)。

◆「この会社に入って良かった」コロナで実感

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写真はイメージ写真:アフロ

――この1年間、仕事でどんな不安や不便がありましたか?

星野「実は、特に不便だと思ったことはないんです(笑)。入社したての去年春から夏ごろまでフルリモートで、感染者の増加が落ち着いてきたところでリモートと出社が半分ずつの分散出社でした。その後にオフィスが移転してディスタンスが保てるようになったので今は毎日出社して仕事していますが、いずれにしても、職場でマスクもせずにみんなでワイワイするようなコロナ前の状況を知らないので、今が当たり前という感じで。リモートの時はリモートが普通、出社するようになってからは出社が当たり前。ディスタンスを保ち、手洗い・消毒、ゴミの捨て方に気をつけるなども普通にやっているので、不便もないかな、と」

――コロナ後しか知らないからこそ、不便を感じることもないと。

鈴木「不安で言うと、周囲の感染状況は心配でした。私は病院の厨房業務で、近くの病院で『陽性者が出た』『クラスターが起きた』という話がよく入ってくるので。でも勤務先が病院だからこそ衛生管理をしっかりしているという安心感もありました。今後もし他の職を探さなければいけないとなったときも、管理栄養士の資格があれば、仕事がなくなることがないのでは、とも思います」

星野「今後のことで言えば、今すぐ辞めたいわけではないですが、コロナがなければ同じ業界とか外とのつながりができていたかもしれないので、将来転職するとなったときへの不安はあります。リクルートとかに登録して、というのはもうやりたくないので。もともと交友関係を広げるのが苦手で、その壁がコロナで高くなっている気もするので、転職に余計怖さを感じている部分はあります」

――コロナで経済全体が揺らいでいる中、今後の仕事のことも考えますよね。佐藤さんはどうですか?

佐藤「私は当時2年目で、1年目の3月頃に自宅待機が始まりました。交代出勤で週5日が休みになり、この状態が6月頃まで続きました。その期間に資格とかに手を出せば良かったんですが、なかなかやる気が起きず、週2日の出社さえ嫌でした。でも一方で、コロナ禍で友達の会社が倒産したり、ボーナス無しになったりという話を聞く中、うちの会社はこの状況が中長期的に続いた場合、具体的にどれほどの利益を確保できるのか説明をしてくれて、『苦労している社員に必ずボーナスは出す』とボーナスも本当に満額もらいました。入社したての頃は若手が少ないことや今より残業が多かったこともあって、『なんでこの会社に入社したんだろう』と思っていたけど、コロナを通して、入社の決め手だった会社の健全性を実感し、この会社に入って良かった、というか、この会社で働いていこうという気になりました。今は出社に戻っていて、しんどさもありますが、出社に戻って良かったです」

――やはりみなさん仕事への安心や不安を敏感に感じ取っているんですね。入社してすぐにリモートになったり、人との接触に敏感になったりしましたが、職場にはすぐ馴染めましたか?

鈴木「毎日出勤していたので、4人くらいいる同期とは割とすぐ仲良くなれました。でも、歓迎会や、ご飯に行きたいという話をしても実際は行けないので、なかなか深い話もできなくて、ストレス発散もできませんでした。電話とかビデオ通話で話してストレスのはけ口にすることはあります

星野「私は最初のリモートの頃は、同期や職場になじめていると思ってなかったです。リモートの前にインターンは(対面で)やっていたけど、人見知りなので他の部署の同期と話したことはほとんどなかったし、リモートで余計話さなくなりました。オフィス移転後に全員が出社して働くようになって、同期ともやっとたわいもない話ができるような仲になりました」

――出社することに前向きなんですね。逆にもしリモートが続いていたら「きつい」と思いますか?

星野「リモートはリモートで楽しかったです。おばあちゃんが私のことが大好きで、ずっと話しかけてきたので、おばあちゃんが話し相手になっていました(笑)。それに『リモートに柔軟に対応してくれる会社』ということなので、きついとは思ってないです

◆『貴重な23歳の1年をつぶされた』

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写真はイメージ写真:アフロ

――出社とリモート、どちらの境遇にもメリットを見出していますね。プライベート生活にも影響はありましたか?

佐藤「週末の会社の飲み会がなくなって結構ストレスフリーになりましたね。あと、前より高校の同級生とコンスタントに連絡を取って、近況報告をする時間が多くなった印象もあります。同級生が全国に散らばっているので、コロナをきっかけに、みんな『今ひま?』と連絡を取り合って。高校を卒業してから年1回くらいしか会っていなかったので、コロナの後は『コンスタントに連絡とれてる、すごい』と」

星野「私はもともと結構家にいる出無精なタイプだったんですけど、逆にあそこまで押さえつけられると外に出たいという気持ちになりました(笑)。バイクが好きなので、それをSNSで発信したいと思っていたけど、自粛ムードの中で外出していると一個人のSNSであっても色々なところからたたかれる要素になるじゃないですか。私が見ているユーチューバーも、『外に出ていません』とかいろいろと注意事項を書いています。そういうのは本来趣味で負うはずのリスクではないんじゃないかと思って、バイクの免許を取る気力も失せちゃいました。イベントやコンサート、ほかの楽しみも全部削がれたので、友達と『貴重な23歳の1年をつぶされた』と話したこともありました

――友達とも会いづらい状況ですが、そこはどうですか。

星野「逆にうわべだけの友達はいなくなって、仲がいい子だけとLINEとかでつながれている感はあるので、それはそれでいいです。考えが合わない子を突っぱねても、『別にコロナだから会わないのは普通だよね』という感じのニュアンスでいけますから」

◆恋愛に興味がなくなった

――コロナで人生計画が狂った、と思うことはありますか?

星野「母が23歳の時に結婚したので、なんとなく自分もそれくらいの時期に結婚できたらなという憧れのようなものがありました。でも人に会う機会もないし、そういう気にもならないし、人に興味がなくなったというか。恋愛に興味がなくなりました。今は趣味に『全振り』している状況で、新しい趣味を見つけたり、今まで苦手としていたことを始めてみたり、今できる楽しいことを全力で楽しんでいます」

鈴木「恋愛はたしかに、する機会があまりありませんでした。恋愛話をするだけでも楽しいし、恋愛自体ももっと発展させられれば良かったのですが。仕事でも1、2年目は基礎を固めて、3.4年目からは少し余裕を持ってやれたらと思っていましたが、最初の研修がなかったり、コロナ対応に追われたりでうまく進められなかったです。この1年は仕事でもプライベートでも前に進めなかったという印象があります。ただ、私も星野さんと同じでバイクが好きで、バイクは密にならないので、コロナ禍でもストレス発散とか、今度あそこの景色のきれいなところに行ってみよう、という楽しみも見つけられました

佐藤「私は大好きな旅行に当分行けず、そういう独身だからできることを謳歌したかったけどできないというのが悲しいです。でも、その分お金が貯まって、貯金額を見るのがうれしい。とはいえ貯め続けていくのもさみしいので、学生の頃から『入社して何年目かのご褒美で買おう』と思っていたバッグを3年目になるタイミングで買いました。仕事から帰ってきてそのバッグを箱から出して見て、『ああ、かわいい』と言って、しまって、また次の日も見たり。その分の幸福感は、あります

――社会人になったばかりで「やるぞ」という意気込みがいきなりくじかれてしまった面はあるのかなと感じます。他方、コロナの影響でかえって昔の友人とのつながりが深くなったり、先行きがわからないからこそ今を楽しもうとしたり……。みなさんそれぞれがコロナ禍でもポジティブに楽しんでいることがよくわかりました。ありがとうございました。

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写真はイメージ写真:アフロ

コロナで先が見えない状況の中、将来転職をすることへの不安を感じていたり、逆に今の会社で働き続けようと決心したりと、仕事やキャリアを改めて意識するZ世代社会人の姿が見られました。

プライベート面では、「ソーシャルネイティブ」というZ世代の特性を生かして、それぞれがビデオ通話やSNSなどオンラインで友達とのつながりを維持していました。またZ世代の若者は、「モノ消費」より「コト消費」を好む傾向にありますが、旅行やイベントなど「コト消費」が難しいなか、密にならない趣味としてバイクで出かけたり、かわいいバッグを買って自身の幸福度をあげたり、モノ・コトにこだわらず臨機応変に楽しみ方を見出していました。

 制限の多い状況下でも、「今」を全力で生きるZ世代社会人。早くこの状況が収束することを願うばかりです。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

Z世代のメディア「Z総研」アナリスト

兵庫県出身。大学在学時に女子大生のマーケティングを目的としたTeamKJを設立し、プロデューサーを務める。大学卒業後はリクルートグループに入社。その後、スタートアップ数社でZ世代を対象としたPRやプロモーションを行い、数々のメディアに取り上げられるなど若者向けのアプリがブレイク。その後、Z世代のプロモーションやインフルエンサーのキャスティングを行う株式会社N.D.Promotonで取締役に就任。Z世代の研究メディア「Z総研」ではアナリストとして、ジェネレーションギャップが生まれるZ世代の「今」を取材している。

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