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「シルワン―侵蝕される東エルサレム―」・4〈「家屋破壊」政策の背景〉

土井敏邦ジャーナリスト

家を破壊され、怒りを噛み殺す東エルサレムの少女(撮影・土井敏邦)
家を破壊され、怒りを噛み殺す東エルサレムの少女(撮影・土井敏邦)

【パレスチナ人住民に出ない「建設許可証」】

 なぜシルワン地区で、多くの家屋がエルサレム市当局によって破壊されるのだろうか。シルワンの家屋破壊への抵抗運動のリーダー、ファフリ・アブディアブはこう説明する。

シルワンの家屋破壊の現状と背景を語るファフリ・アブディアブ(撮影・土井敏邦)
シルワンの家屋破壊の現状と背景を語るファフリ・アブディアブ(撮影・土井敏邦)

 「シルワンは旧市街に一番近い地区です。アルアクサ・モスクの南側と南東側に接しています。イスラエル、特にユダヤ人入植団体にもっとも狙われている地区です。2千年以上前、この地区からユダヤの国が始まったという考えからです。入植者たちはここを『ダビデの街』と呼び、アラブ人を追い出すために団体を作りました。『 ここがかつてのユダヤの国の中心だったので、その過去を再興したい』という主張です。この地区を狙っているのは、入植者団体とエルサレム市、占領システムに関わるすべての機構です」

イスラム教の聖地アルアクサ・モスクのすぐ傍で、パレスチナ人住民の家を破壊した跡で、ユダヤ遺跡の発掘作業が進められている(撮影・土井敏邦)
イスラム教の聖地アルアクサ・モスクのすぐ傍で、パレスチナ人住民の家を破壊した跡で、ユダヤ遺跡の発掘作業が進められている(撮影・土井敏邦)

 「シルワンでは、一番人口密度が高い地区でも建設許可は1件も下りず、過去10年間で340戸以上の建物が破壊されました。その一方で、この間に72カ所がユダヤ人入植者に奪われ、2800人の入植者が住みつきました」

 「家屋破壊の理由は、エルサレム市当局から『建設許可証』を得ていないためだと言いますが、その許可がエルサレム市から出ることはありません。全ての条件を満たした場合でも、1999年から1件も許可されていないのです。当局に『住民を追放する』という意図的な政策があるからです。これまでシルワン住民には5640件の破壊命令が出されました。1世帯の平均人数を少なく見積もって5人とすると、シルワン人口の4割が追放の脅威にさらされていることになります」

【イスラエル人のためだけの「公共福祉」】

 一方、シルワン住民の家が破壊される現状について、エルサレム市の市長アドバイザー、ベン・アブラハムはこう説明する。

エルサレム市当局によるシルワンの家屋破壊を語る市長アドバイザー、ベン・アブラハム(撮影・土井敏邦)
エルサレム市当局によるシルワンの家屋破壊を語る市長アドバイザー、ベン・アブラハム(撮影・土井敏邦)

 「(パレスチナ人住民が家を建てた後、家族が増えて2階を建てることを)私たちは、それを禁止しているわけではありません。誰かが家を拡張したいというのを私たちは禁止したりはしません。ただその地区が『居住区』と定められている限りです。どういう『地区』かによります。それがシルワンの主要な問題なのです。シルワンは『居住区』に指定されていないので、それがほとんど不可能なのです。他の地区で、たとえば家を『不法』に建設したとしても、『居住区』内だったら、最終的に法的な解決法は見つかります。シルワンの場合は、全地域ではないのですが、今話をしている地区は『空地』または『緑地』に指定されています。公園などです。だから違法に建設された家を合法化するのがさらに難しいのです」

 しかし東エルサレムでの家屋破壊を調査するイスラエルNGO代表、アビブ・アタルスキーは、家屋か破壊の背景をこう語る。

「イスラエルの都市計画の方針が東エルサレム全体で深刻な問題になっていて、シルワンはその極端な例です。

 イスラエルは占領した1967年以降、東エルサレムに多くの国立公園をつくりました。国立公園は本来、自然や史跡を保護し遺産を伝えるための場所です。しかし東エルサレムでは、『パレスチナ人地区の開発を止めるため』に使われています。

1967年後、シルワンの大部分を占めるワディ・ヒルウェ地区が国立公園に指定されました。それから40年、イスラエルは「ここは移住区ではなく国立公園」としています。だから家の建設許可を出さないし、学校も作らせない。でも人口が増えるので、住民は家を建てる必要があります。自分たちの土地ですから」

家屋破壊の理由の「公共の福祉」は大半の「ユダヤ人市民の福祉」のためだと語る。(撮影・土井敏邦))
家屋破壊の理由の「公共の福祉」は大半の「ユダヤ人市民の福祉」のためだと語る。(撮影・土井敏邦))

 「どの国でも私有地の接収は起こります。例えば日本で政府が高速道路を作るとしましょう。そのルートの一部は私有地を通るので、公共の福祉のために仕方なく私有地を接収して、政府は補償を支払います。

 イスラエルは東エルサレムで同じメカニズムを用いています。『公共の福祉のために新しい居住地を作らないといけない。そのためにこの土地が必要なので接収する』と。

 ただし実態は、パレスチナ人の土地だけが接収されます。そして『公共の福祉』の居住区がイスラエル人のためにだけにつくられるのです」

 「ではパレスチナ人が所有している自分の土地に建てられるかというと、そうはいきません。前述したように、エルサレム市当局からの『建設許可』が必要なのです。パレスチナ人はエルサレムの人口の37%を占めます。彼らが建設できる土地は、市全体の8・5%だけです。パレスチナ人が結婚して、家を建てようと思ったら、『許可証』が必要です。しかし建てられる土地が非常に限られていて物件が足りないので、人びとはエルサレムを出ざるをえません。ベツレヘム、ラマラなどヨルダン川西岸の地域に出て行った人たちがいます。

 一方、出て行かない人たちもいます。占領下では『法』は自分たちに味方しない。先祖代々の土地に家を建てて、親戚の近く、自分が生まれ育ったコミュニティーに留まりたい。だから多くのパレスチナ人が『無許可』で家を建てます。イスラエルは彼らを、『法に反して建設する犯罪者』と呼びます。それで家を破壊するのです。非常に深刻な問題です」

 「1967年以降、イスラエルはイスラエル人用の家を東エルサレムに5万戸建てました。一方、パレスチナ人にはたったの500戸です。過去10年はニル・バラカート市長、ネタニヤフ首相の時代ですが、バラカート市長はイスラエル人居住区に1万件の建設許可を出しました。パレスチナ人居住区は何件でしょうか?ゼロです」

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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