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アピールしまくる泥んこクン、野口恭佑(阪神タイガース)に吉報が届きますように

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
アウトカウントを指で示す野口恭佑

■猛烈アピール

 「オレを見てくれ!」ー。そう言わんばかりの猛烈アピールだ。

 7月22日の日本海リーグ石川ミリオンスターズ戦でレフトへホームランを放り込み、2度にわたる好守を見せた阪神タイガース野口恭佑選手は、同26日のウエスタン・リーグ、福岡ソフトバンクホークス戦でも代打でレフトオーバーのタイムリー2ベースを放って、打撃好調を誇示した。

 育成選手にとって、今季の支配下登録の期限は7月31日。“滑り込みセーフ”を狙い、打って守ってアピールしまくっている。

入団時から打撃には定評あり
入団時から打撃には定評あり

■2度の故障

 2022年ドラフトで九州産業大学から育成1位指名された。春季キャンプで左太もも裏を痛め、復帰したものの再発させてしまい、4月1日のジェイプロジェクト戦を最後にまた、ゲームから離れた。別メニューを続け、ファーム本隊に合流できたのは5月23日だった。

 翌24日、独立リーグとの練習試合に代走から出場したが、立った1打席では左ふくらはぎに死球を受け、九回の守備でも先頭の左前打をそらして湯浅京己投手の足を引っ張ってしまった。(湯浅投手は次打者を得意のフィールディングで投ゴロ併殺打に仕留め、事なきを得た。)

 和田豊監督は当時「練習もまだ数をこなしていないしね。もっと数多く、打つだけじゃなくて打球も捕らないといけない。やっぱりブランクがね」と語り、明らかな練習不足を指摘していた。

 野口選手もそれは重々痛感していた。実戦での打席もわずかで、守備も経験が不足している。「バッティングでは変化球の対応とか…。守備と走塁が課題なので、徹底的にやっていきたい」と話し、2度痛めた左太もも裏も「慎重にはなるけど、慣れというか、1日1日やるごとに怖さはどんどん減っていくと思うので、一生懸命やりきりたい」とケアをしつつ、全力プレーを誓っていた。

ハッスルプレーで泥んこ
ハッスルプレーで泥んこ

■非凡なバッティング

 その後、ウエスタン公式戦にも復帰し、そう多くはない出場機会ながら打撃の状態を上げていった。7月6日にはホークス戦(@タマホームスタジアム筑後)でプロ初本塁打を放ち、先述した石川戦でも打撃、守備ともに魅せた。

 石川戦では「3番・レフト」でスタメンに名を連ね、まずはアリエル・ヘルナンデス投手のスライダーをレフト頭上へ運んで二塁打とした。

 「まっすぐを待ってて変化球を打てたというのは、よかったかなと自分でも思います」。

 ヘルナンデス投手のストレートはこの日、最速157キロを記録していたが、その速球をマークする中での変化球対応は、自画自賛に値した。

 次の打席では、代わった青山凌太朗投手のストレートをかち上げ、左翼ネットを揺らした。これが勝ち越しの3ランとなり、勝負強さもアピールできた。

 「低めだったんで、うまく打てたなというのはありました。打った瞬間、いったなと思いました」。

 ニコニコ笑顔が、手応え十分だったことを物語っていた。

パワフルなスイング
パワフルなスイング

■華麗なスライディングキャッチ

 好調なのは打撃だけではない。守備でも2度のスライディングキャッチで投手を救った。

 「守備は本当に課題としている。なかなか練習でもああいうプレーはできないので、自信になったというのはあります。2こ目は自分でもビックリするくらいうまく捕れたんで、継続というか自信につなげて、今後も守備をもっと鍛えていきたい」。

 意欲的に取り組んでいる守備で結果が出たことで、さらなる上達に向けて意欲がわく。現在は後ろの打球への背走とボールまでの速さ、そして送球を意識しているという。

 「送球を引っかけることが多いので、カットマンを越えるくらいの強い球で送球することを意識しています」。

 教わったことをスポンジのように吸収し、どんどんレベルアップしている。

「守備と走塁が課題」と口にする
「守備と走塁が課題」と口にする

■工藤隆人コーチに聞く

 ◆守備について

 つきっきりで守備走塁の指導をしている工藤隆人外野守備走塁コーチも「本人の前ではあんまり言わないですけど(笑)」と前置きしたあと、「かなりの成長を見せてくれていますよね」と讃える。

 「最初のころは筋肉がつきすぎて体が重くてキレがなかった。ボールまでの追うスピードも全然なかったんですけど、最近体も絞れてきて、動きも出てきた。すごくいい状態になってきてるんです」。

 トレーニングコーチの指導もあり、基本的なアジリティの動きや走り方も改善した。それによって動きが変わり、キレが出てきた。そのキレが、球際の強さを生み出しているようだ。

内野でノックを受ける
内野でノックを受ける

 さらにスローイングについてもこう話す。

 「課題はショートスローなんですけど、もともと投げる能力の高い選手なので、そこもしっかり修正してきて、だいぶ成長したのかなと思いますね」。

 注意しているのは捕球体勢やボールを捕る位置など、「本人も頭が痛くなるくらい『基本』『基本』言ってますよ(笑)」と、「基本」ばかりだという。

 基本ができてきたからこそ、ファインプレーも生まれたのだと解説する。「ああいうプレーが出たってことは、すごく成長しているという証しだと思うので、本人も嬉しいだろうし、僕自身も本当に嬉しい。トレーニングコーチやトレーナーさんも含め、みんなの努力があってのこと」と、チーム一丸で取り組んできた成果に相好を崩す。

スローイング
スローイング

 ◆走塁について

 走塁に関しても「打球判断は悪くない」と工藤コーチはうなずく。

 「あとはちょっとした技術的なこと。スチールをバンバンするタイプの選手ではないけど、エンドランのスタートとか、相手の隙をついてのディスボールのスチールとか、そういう隙のない走塁を身につけさせたい」。

 サインが出たときに確実に応えられるよう、今後も指導していくという。

 「大学では守れなくても打てればよかったと思うけど、プロ…とくにセ・リーグは走攻守、ある程度のプレーができないと試合には出られない。彼にはそういうところもしっかり身につけてほしい」。

 打力を活かすためにも守備走塁をさらに向上させ、出場機会が増えるよう願っている。

師匠・工藤隆人コーチ
師匠・工藤隆人コーチ

■体力向上を

 和田監督は「体調面がいいときには、あれくらいのバッティングはできる選手。バッティングの技術的には本当に素晴らしいものを持っている」と認めた上で、課題を挙げる。

 「問題は体力だよね。スタミナがね。2~3試合出たら疲れてしまうタイプ。試合に出続けて、疲れたときにどういうバッティングをするか。今までは疲れてくると、もちこたえられなくて故障してしまっていた。そこを乗り越えていかないといけない」。

 トレーニングでもかなり鍛えているが、「ゲームの体力というのはまた違う」と言い、技術のレベルを上げるためにも体力をつけることは必須で、試合に出ることで体力を向上させていくことを課している。

「技術的には素晴らしいものをもっている」と和田豊監督お墨付きのバッティング
「技術的には素晴らしいものをもっている」と和田豊監督お墨付きのバッティング

■自室ではストレッチと寝るだけ

 入団時に“筋肉キャラ”で注目されただけに、体力不足の指摘には驚いたが、野口選手本人も自覚している。

 「鍛える体と動く体は全然違う。筋肉がつきすぎて動きが悪くなったらダメ。長く続けるためには走り込みとか、そういう体力が必要。ウエイトで鍛えるのとはまた別」。

 9回に出続け、それを何試合も継続できる体力。しかもケガに強い体。それを求めて、今も強靭なボディを作っているところだという。

 ただ、コツコツ練習するのは得意だ。夕食後も自室にはほぼいないという。日替わりで室内練習場で打ち込むか、トレーニングルームで体を鍛えるか。常に体を動かしている練習の虫である。

近本光司先輩の打撃を間近でガン見する
近本光司先輩の打撃を間近でガン見する

■“泥んこクン”に2ケタの背番号を

 7月末のタイムリミットが迫る中、「そこを目標にやってきたので、最後まであきらめずに一生懸命アピールしたい」と気合いを入れる育成ルーキー。

 工藤コーチも「彼にも焦りはあると思うけど、確実に成長してくれてるんで、まずは支配下を目指すのは当たり前として、プロ野球選手としてもっともっと成長してくれたらと思っています」と、愛弟子を後押しする。

 「泥くさいプレー」という表現があるが、野口選手はまさに泥まみれでガムシャラにプレーしている。泥んこのユニフォームの背中が軽い番号になるよう、願ってやまない。

吉報をキャッチする準備はOK
吉報をキャッチする準備はOK

(撮影はすべて筆者)

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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