■「日本海オセアンリーグ」初のトライアウト

 11月3日は「晴れの特異日」と言われている。この日、独立リーグ球界は“トライアウト祭り”だった。心地よい秋晴れのもと、九州では「九州アジアプロ野球リーグ」に所属する大分B―リングス福岡北九州フェニックスが、大阪ではBCリーグが、そしてそのBCリーグから分離した日本海オセアンリーグが富山で、それぞれNPB(日本プロ野球機構)入りを夢見る若者たちの挑戦を受けた。

 プロ野球独立リーグとして9月に発足した日本海オセアンリーグ(以下NOL)は、もともとBCリーグに加盟していた富山GRNサンダーバーズ(以下富山球団)、石川ミリオンスターズ(以下石川球団)、オセアン滋賀ブラックス(以下滋賀球団)、そして新しく立ち上がった福井ネクサスエレファンツ(以下福井球団)の4球団で結成される。

各球団の首脳陣、関係者
各球団の首脳陣、関係者

 ボールパーク高岡で開催されたNOLのトライアウトはリーグ設立後、初の一大行事となったが、随所に独自性を見せた。まず「書類審査」が設けられ、それを通過した選手だけが現場で実技テストに臨める。これについて、NOL代表である黒田翔一氏はこう説明する。

 「過去、たとえば打席に立つときに食器洗い用のゴム手袋を着けていたり、昨日買ってきましたというような新品のユニフォームだったりと、冷やかしのような思い出作りに来る人が何人もいたというのを散々聞いている。真面目に受けている選手に失礼。それで年齢や球歴も見て、審査させていただいた。ここは狭き門でいいのかなと思っている。それだけ高い水準の給料も払いたいし、レベルの高いリーグにしたいので。もちろん地元の子や若い子は優先的になる」。

 たしかに過去のトライアウトで60歳代の受験者を見かけたこともあった。当日の限られた時間を、より可能性の高い選手の審査に割くのは賢明だろう。

背番号のついたTシャツで臨む受験者たち(写真提供:日本海オセアンリーグ)
背番号のついたTシャツで臨む受験者たち(写真提供:日本海オセアンリーグ)

 その書類審査には予想を超える246名もの応募が殺到したため、当初は約60名と予定していた通過者の枠を約80名にまで拡大したという。当日の参加者には背番号のついたオリジナルTシャツが渡された。通常、ユニフォームの上にゼッケンやビブスを着けることが多いが、これも「後ろに番号がついていて実戦ぽいし、わかりやすい。それにゼッケンより動きやすいから」とオリジナリティを出している。

 さらに驚いたのは受験料だ。どこのリーグも球団もほぼ5千円だが、なんと倍の1万円である。これに関しても黒田代表は「日本一高い。これだけ戴くので、どこよりも強い傷害関係の保険を全員にかけている。スタッフにも全員。かつ、照明も入れてできるようにしているし、Tシャツも持ち帰っていただく。(当日参加した)選手全員の写真入り名鑑も作ったし、全選手のインタビューも実技も撮っている。本気を出してきてほしいからこそ、安売りをしたくなかった。1万円の価値はあるトライアウトかなと思う」と胸を張る。

 朝10時から始まったトライアウトは、一次の基本プレーのテストに合格した56名が二次の実戦形式のシート打撃に進み、すべてが終わったときには夕方5時を回るという長丁場で、準備していたナイター照明の恩恵を享受した。

 そして翌日すぐにドラフト会議が行われ、合計42選手が指名された。

ナイター照明も準備(写真提供:日本海オセアンリーグ)
ナイター照明も準備(写真提供:日本海オセアンリーグ)

■日本海オセアンリーグとは

 さて、この新しく発足した日本海オセアンリーグとは、どのようなリーグなのだろうか。代表の黒田氏に設立の経緯、現段階で決定していること、また今後の構想などを聞いた。

 オセアングループのCEOを務めている黒田氏は、自身も野球経験者だ。経営が立ち行かなくなった滋賀球団の前身・滋賀ユナイテッドの救世主となり、新たにオセアン滋賀ブラックスとして球団を立て直し、今年は球団社長に就任した。チーム改革を一気に推し進め、昨年の西地区最下位から今年は地区優勝、そしてリーグ準優勝したのも、黒田氏の手腕によるところが大きい。

ブルペンでのピッチング前のキャッチボール(写真提供:日本海オセアンリーグ)
ブルペンでのピッチング前のキャッチボール(写真提供:日本海オセアンリーグ)

 北は福島から西は滋賀まで12球団が所属するBCリーグは、これまでは東西2地区に分かれ、地区内での対戦のほか交流戦や読売ジャイアンツ3軍戦が組まれていた。しかし昨年はコロナ禍で遠方への移動ができないため、東中西と3地区に分かれ、大半の試合が地区内の近隣1チームとの対戦といういびつな形での開催を余儀なくされた。

 そして今年、東地区と中地区は交流戦もジャイアンツ戦も再開したが、遠く離れた西地区だけは“蚊帳の外”で、BCリーグに留まる意義を見出せなくなってしまった。しかし、そこで逆に気づけた。

 「やってみて、西だけで十分できると思った。北陸道で米原から富山なんて1本、まっすぐ行くだけ。しかも渋滞がないから確実に時間が読める」。

 西地区だけの移動なら負担も最小限だ。さらに、他地区との違いも改めて考えた。

 「経済規模も人口も違いすぎる。福井県と石川県と滋賀県を足したって横浜市くらいの人口で、同じことができるわけない。野球人口なんかも全然違う。目指したいところも球団によって違いすぎる」。

 富山球団の永森茂社長、石川球団の端保聡社長に持ちかけると、同じ思いを抱えていることがわかり、5月ごろには黒田氏を代表に立てて新リーグを作ろうと話がまとまった。

シートノック(写真提供:日本海オセアンリーグ)
シートノック(写真提供:日本海オセアンリーグ)

 もちろん移動の利便や同規模の県というだけでなく、「ふるさとを活性化したい」という志を同じくしていることも確認できたからだ。

 「NPBに出すことだけが目的じゃなくて、僕はそもそも地元の経済を盛り上げたり、活性化させることに魅力を感じていた。野球を引退したあとのセカンドキャリアも地元で、と徹底してリーグ主体でやりたい」。

 思い立ったらすぐ行動に移せる実行力に大手ゼネコンのトップとして築いてきた幅広い人脈、潤沢な資金力、そしてなにより地域振興に懸ける情熱。それらを持つ黒田氏を中心に、新リーグ立ち上げへと一気に加速した。

 NOLの代表となった黒田氏は滋賀球団の社長からは退き、「やはりオセアンは滋賀の会社じゃないというのはわかっているので、これからは滋賀の会社として新しいリーダーで盛り上げる」と、後任に滋賀出身の田中一輝氏を任命した。

 それに伴って、滋賀球団の名前からは「オセアン」の名称は外される。

天候に恵まれた(写真提供:日本海オセアンリーグ)
天候に恵まれた(写真提供:日本海オセアンリーグ)

■セントラル方式でのショーケース

 さて、4球団でスタートするNOLだが、試合開催は土日を中心に、平日ナイターも数試合プラスする。これまでにない新しいスタイルを標榜しているが、おもしろい試みなのが「セントラル方式」だ。これは1つの球場で4チームが2試合、つまり1日に全球団の試合を見ることができるというものだ。1か所でやることのメリットは大きい。

 まず、これまでは1日ごとに違う球場で開催していたため、選手やスタッフの移動の負担がかなり大きかったが、それが軽減される。また、開催場所がわかりやすくなり、全球団のファンを一度に集めることができるので、集客数も増える。遠方のファンにも来てもらえるような仕掛けも打ち出していく予定だ。

 そして、なによりNPBのスカウトにも一度に見てもらえる。これまではスカウト陣からも「どこでやっているのかわからない」という声が多く聞かれたそうだが、足を運んでもらいやすくなり、見てもらう機会が増えることで選手を売り込むチャンスが拡大する。まさに「ショーケースリーグ」といえる。

 また、これから力を入れようとしている配信サービスに関しても、1試合ごとに機材を動かす必要がないので経費もかなり削減できる。試合当日の受付など、運営もリーグスタッフがすべて行うので、各球団の負担もかなり減ることになる。

実戦形式のシート打撃
実戦形式のシート打撃

 試合数は公式戦として60試合はできる見通しだ。すべてが屋外球場であるため、雨天による振り替え試合などを考慮すると、これ以上組むのは難しい。

 加えて、公式戦以外の他リーグやクラブチームとの交流戦、そしてNPBファームとの試合もすでに決定し、年間スケジュールに入っている。これらを合計すると70試合を超えるかもしれない。

 セントラル方式を取り入れながらも、ホームでの開催も30試合近くにはなる。これまでと比べて本拠地開催の試合数としてはやや減少するが、1日あたりの集客数は大幅に伸びる見込みだ。

 もう一つ、おもしろい企画も進めている。NPBファームも参加してのトーナメント大会だ。スポンサーを付けて、優勝チームや活躍した選手に賞金も出すような“冠トーナメント”である。

 関西大会、関東大会、やがては東北大会や九州大会…と、全国で展開する予定だ。現段階ですでにあちこちから多くのオファーが来ているが、来季にすべて実現するのは日程的に不可能なため、今後毎年、さまざまな地方で開催することになりそうだ。

外野手の送球
外野手の送球

■高額な報酬

 次に、報酬だ。シーズン中の月々の給料に関して高卒選手は18万円以上、大卒選手は22万円以上を保証するという。これに惹かれてトライアウトを受けた選手もけっこういたに違いない。

 「これまでより上がることになるので、その分はリーグとして負担すると各球団に約束している。『ほんとに払えんのかよ』という声もあると思うが、絶対に払います」。

 キッパリと黒田氏は言いきった。

 これまで独立リーグというと、少ない給料でハングリーにNPBを目指すというイメージだったが、これならこのリーグをゴールとして目指すという選手も出てくるだろう。

 黒田氏も「それは全然いいと思う。他の地方からこのリーグを目指して来て、4県の魅力を知って、引退後はセカンドキャリアで残ってくれるといい」と人口増加にも寄与できるのではないかと考える。

シートノック
シートノック

■練習環境と食環境

 続いて練習環境、食環境も整えていきたいと意気込む。「滋賀、福井に関しては練習環境は問題ない。専用球場もある。ただ富山と石川は歴史も古い分、僕もまだ知らないこともたくさんあり、これからの課題」とし、「練習以上に栄養面が重要だと思う」と熱く語る。

 「たとえば四国アイランドリーグplus)の徳島インディゴソックス)さんがやられているように、うどんの店を自社で経営するというのも一つの手。やはり食はとても大事で、素質のいい子が多いだけに、体を大きくさせればもっとよくなる。だから、そこを強くしたいというのは僕の一つの野望でもある」。

 自身の会社では飲食店の経営も数多く手掛けており、滋賀球団のホームゲームでは自社のキッチンカーを出店させている。その経営ノウハウを駆使し、選手の栄養管理ができるよう食環境の整備も検討中だという。

ボールパーク高岡
ボールパーク高岡

■有料アプリが広げる可能性

 さらに力を入れるのが有料アプリの開発だ。映像の配信や来場ポイント、抽選企画やゲーム機能、またECサイトで4県の特産品を販売し、ふるさと納税として行政と繋げるなど、総合サイトとしてコンテンツを思案中だ。大手企業とのタイアップなど、黒田代表の手腕がここでも発揮される。

 映像もこれまでとは違って、クオリティの高いものを提供するという。配信をどことどのようにやるのか、現在、数社と話し合いを重ねているところだ。

 「見られている」という意識はプロとして必要不可欠である。球場に足を運べない遠方のファンにもプレーしている姿を届け、NPBスカウトにもアピールしていく。

 また映像技術を使って、ゆくゆくは独立リーグ初のリクエスト制度の導入も考えている。「審判にもやっぱりNPBを目指してレベルを上げてもらいたいというのがある」と、選手とともに審判にも質の高さを求めていく。

日が暮れるまで行われた(写真提供:日本海オセアンリーグ)
日が暮れるまで行われた(写真提供:日本海オセアンリーグ)

■ふるさとの活性化

 さまざまな新しい取り組みに出費も相当なものになるかと思うが、すでに「全国規模の大手企業が何社もスポンサーになってくれている。僕から各球団にスポンサーさんを紹介もするし、僕自身が動いて営業力をめちゃくちゃ強化する」と自信を覗かせる。「リーグや球団だけじゃなく、スポンサーさんにも必ずメリットが出せるような、そういうリーグにする」と意気込む黒田代表だ。

 自身は鎌倉生まれでオセアン本社も横浜市にあるが、実はお父さんが富山の出身で、その実家はなんと富山球団・永森社長の自宅のすぐ近所だ。親戚も富山に大勢いる。なので幼いころから北陸には馴染みがあり、大好きな地だという。

 いちスポンサーから球団社長になり、さらにはリーグ代表になったのも、何か導かれるものがあったに違いない。黒田代表にとっても北陸は「ふるさと」であり、思い入れもひとしおなのだ。

 「若い子が都心に憧れる気持ちはわかる。でも地元はこんなにステキな街なんだよということを僕からメッセージを出したい、プロモーションしたい。関東が上で、地元が下だって思っている子が多いけど、全然違うよってことを言いたい。だから野球を引退しても、セカンドキャリアは地元の企業をしっかり紹介する」。

 つまり球団経営をし、新たにリーグも立ち上げたが、それは黒田代表がやりたいことのほんの入り口だということだ。

 「スポーツの中でも最大のベースボールという武器を使って、メジャースポーツを地方に出すという、これが僕にとっては盾みたいなもの。これを使ってどんどん前に進みたい」。

 子どものころから打ち込んできた大好きな野球。その野球によって培われた体力や根性には自信があるし、築いてきた縦横の人間関係は大きな財産だ。それらを携えて、“ローカルでのサイクル”を構築し、「ふるさとの活性化」を推進していく。

 滋賀も含めた北陸を、もっともっと盛り上げたい―。それが黒田代表が独立リーグをやる最大の目的であり、自身に課す使命でもある。

42名が指名された(写真提供:日本海オセアンリーグ)
42名が指名された(写真提供:日本海オセアンリーグ)

 だから当然、選手の人間形成にも力を入れる。

 「テンション高い子がいい。盛り上げてくれる子。そういう子は社会に出ても通用するから。自分のことばかり考えていてはダメ。自分のプレーはもちろん大事だけど、チームスポーツなので周りのことを考え、周りに感謝できないと。そういう育成をしていくし、そういう意識の高い子を集めたい」。

 もちろん野球に関しては相当追い込む覚悟だ。

 「去年まで1軍監督(オリックス・バファローズ)をしていて、しかも日本一監督(千葉ロッテマリーンズ)にもなっている西村徳文さん(福井球団会長兼GM)はじめ、指導者も気合いが入っている。とにかくプロとしてやる以上、ものすごく厳しく徹底的にやらせる」。

 鼻息も荒い。

 話せば話すほど、黒田代表の口調は熱を帯びてくる。おもしろいリーグになるだろうなという予感に胸が高鳴るが、しかし実際にプレーするのは選手たちだ。

 日本海オセアンリーガーたちには、黒田代表を上回る“熱さ”を期待したい。

日本海オセアンリーグのロゴ(写真提供:日本海オセアンリーグ)
日本海オセアンリーグのロゴ(写真提供:日本海オセアンリーグ)

(表記のない写真の撮影は筆者)