■コロナの影響を大きく受けている学生スポーツ

 新型コロナウイルスは依然、我々の生活に大きな影響を与えている。ことに学生スポーツの現場では、存分な活動ができないまままだ。

 元プロ野球選手の江草仁貴氏も、そんな現状を憂えている一人だ。2002年のドラフト自由獲得枠で阪神タイガースに入団した江草氏は、2005年の優勝に大きく貢献。その後、埼玉西武ライオンズ広島東洋カープで活躍したあと、2017年にユニフォームを脱いだ。

 引退後は自身が設立した会社(株式会社キアン)を経営するとともに、大阪電気通信大学 硬式野球部の投手コーチも務めている。

甲子園球場にて引退の胴上げ…広島東洋カープ編
甲子園球場にて引退の胴上げ…広島東洋カープ編

 コロナ禍は大学野球にも暗い影を落としているという。所属する阪神大学野球連盟では昨年、春季リーグ戦がすべて中止になり、秋季リーグ戦はかろうじて1試合ずつの総当たりで5試合のみ戦った。

 今年の春はなんとか開催することはできたが、さまざまな制約があった。無観客は当然で、試合会場に入場できる部員の数も制限された。つまり部員全員が球場で試合を見られるわけではないのだ。

 ルールも改正され、延長なしの九回打ち切りになったり、いきなりタイブレークになったり、さらにはグラウンドが使えなくなって突然中止になったり、はたまた急遽試合が組まれたり…スケジュールも振り回された。リーグ戦に向けての練習試合さえも満足に組めないという、教え子たちの境遇に心を痛めた。

 また、野球部としても来年度の選手のスカウティングに動きたいが、それすらもできない。高校生も十分な活動ができておらず、たとえ試合があったとしても見に行くことはできないからだ。あらゆる動きが制限されている。

 「従来なら大学側が見にきて進学できるはずの子が、見てもらえないまま『どこに行っていいかもわからんし、どこからも声がかからんかったら野球は高校までで辞~めよ』っていうことも出てくると思う。いい素材が目に留まらずに終わっちゃったらもったいない」。

 大学側にとってもだが、いち高校生の野球人生を考えても大きな損失だ。

 「そういう高校生たちが、自分を見せる場を作れたらいいな」と考えた江草氏は、そこから「それって野球だけじゃない。他のスポーツも芸術も、幼稚園の運動会も発表会だって、何もかもがなくなっている」と、3人の子を持つ父親としても思考を巡らせた。

甲子園球場にて引退の胴上げ…阪神タイガース編
甲子園球場にて引退の胴上げ…阪神タイガース編

■「みんなの動画投稿スタジアム(みんスタ)」とは

 「みんなの前で披露できる場を作りたい」―。

 そこで自社で生み出したのが、「みんなの動画投稿スタジアム(通称みんスタ)」というウェブサイトだ。これが非常に有益で、かつおもしろい。

みんスタのトップ画像(写真提供:キアン)
みんスタのトップ画像(写真提供:キアン)

 「みんスタ」のやり方を説明しよう。

 まず自身で撮影した動画を「みんスタ」のLINEアカウントに送る。この「LINEで送れる」というのが、なんともお手軽である。

 するとプロが編集して、「みんスタ」のサイトとYouTubeに投稿してくれる。誰でもが閲覧可能で、しかもカテゴリー分けがされているので、検索もしやすい。

 これなら無観客の試合や運動会、発表会などを、遠く離れた両親やおじいちゃん、おばあちゃん、友だちやチームメイトに見てもらえる。さらに対戦相手を検索して映像を観察することで、事前に偵察するという使い方もできる。

 もちろん大学生や社会人、独立リーグなどの選手の映像は、プロ野球のスカウト陣にとっても貴重な情報となり、スカウティング活動にも役立つに違いない。通常なら足で稼いでダイヤの原石を発掘するが、このコロナ下においてはそれも叶わない。しかしこのサイトで見つけられる可能性は大いにある。

 活用の仕方はそれぞれで、その範囲や目的も幅広くなりそうだ。

さまざまな方法で検索できる(写真提供:キアン)
さまざまな方法で検索できる(写真提供:キアン)

■無料で編集&賞金も

 ポイントは「動画編集をしてくれる」というところだろう。

 今やスマホがあれば誰だって簡単に動画撮影ができる。しかし素人にとって、もっともハードルが高いのが編集だ。撮った動画をただたれ流すだけでは、見られたものではない。「見せる動画」「惹きつける動画」にするためには、編集が“肝”なのだ。だが編集にはそれなりの腕が必要であるし、なにより面倒だ。

 その一番の難関である編集を「みんスタ」がしてくれる。しかも無料だ。たとえば野球を例にあげると、打席での全球を見せることもできるし、ヒットを打ったシーンにその前の球、さらにヒットのスローモーションとつなげて演出することもできる。撮影した動画を送って大まかな要望を伝えれば、それに沿って仕上げてくれるのだ。

 多種多様なスポーツに加え、ゲームやダンス、音楽や書道といった芸術部門などの動画も受け付けている。さらには、テレビ番組やYouTubeなどで見かける「ホールインワンするまで帰れない」などといった“トライ系”もオッケーだ。成功シーンだけでなく、真剣な中から生まれる珍プレーも対象となる。

 YouTubeや各種SNSなど動画を投稿する場所は多々あるが、一般人の投稿は埋もれてしまい、大勢に見てもらうことは難しい。しかしこういう専門のサイトでカテゴリー分けされていると、見つけてもらいやすい。

 さらに嬉しいのは、ただ披露して見てもらうだけではないという点だ。

 「月間MVP」「年間MVP」が設定され、著名人が審査をする。受賞者には賞金(月間MVPは10万円、年間MVPは100万円)が授与される。そのほか、「投稿懸賞」(投稿者の中から毎月5名にQUOカードが贈られる)などもある。

 これによって撮影や投稿にも、よりやりがいが生まれるというものだ。もしかするとスマホに眠っている動画が、とんでもないお宝映像になるかもしれない。

甲子園での最終戦に臨む江草仁貴氏(左隣は久保田智之氏)
甲子園での最終戦に臨む江草仁貴氏(左隣は久保田智之氏)

■伸び続けるスマホの動画視聴

 今やスマホの動画視聴者数、視聴時間は飛躍的に伸びている。それに関して、キアンの企画・営業部長の新本一弘氏も「テレビ世代のわたしも、最近は深夜番組などを見る時間が短くなっている。そのかわり、寝る前にベッドでちょっとスマホを見てしまったりと、動画を見る機会が非常に増えている」と、自身の生活から実感しているという。

 「何か調べものをするとき、我々ならYahooやGoogleを使うのが普通だと思っていたけど、20代前半のわたしの子ども世代になるとYouTubeで検索している。文章で読むのではなく、動画でやり方を見て学ぶのが主流だそう」。

 加えて新本氏は「スマホのバッテリーのもちのよさ」も、動画視聴の伸びの一助になっているのではないかと考察する。「だからスマホで完結するものを提供したかったというのがある」と明かす。

火の国サラマンダーズの開幕戦(雨天中止)で始球式をする江草仁貴氏(写真提供:キアン)
火の国サラマンダーズの開幕戦(雨天中止)で始球式をする江草仁貴氏(写真提供:キアン)

■グループサイト「主務シュム」

 「みんスタ」は7月にプレオープン、8月にグランドオープンする予定だ。さらにグループサイトとして「主務シュム」も立ち上げる。これは対戦相手の募集とマッチングができるサイトだ。そもそもの発端は、江草氏のこの思いだった。

 「このコロナ禍で、他校が活動しているのかどうか状況がまったくわからなくて、練習試合が組みにくい。学生も『試合を申し込んで(活動休止しているからと)一度断られた学校が、いつ再開してるかわからない。しつこいなと思われてもなんだから、何度も電話はかけづらい』って言っていた。対戦相手を探すのに、簡単に登録できて信頼できるサイトがあったらいいなと思って」。

 「必要は発明の母」とはいうが、まさにコーチとしての現場での実体験が「主務シュム」の誕生につながった。これも学生野球だけでなく、草野球、はたまた他のスポーツでも利用することができる。コンタクトがとりにくい今の状況下だ。ウェブ上で試合相手をマッチングできるというのは非常に便利である。こちらも利用は無料である。

対戦相手マッチングサイト「主務シュム」(写真提供:キアン)
対戦相手マッチングサイト「主務シュム」(写真提供:キアン)

■みんなが幸せに…

 すべては教え子や我が子を思う愛から生まれた。

 無観客で行われた今春のリーグ戦では、教え子たちは大健闘した。7勝2敗で迎えた最終戦、相手は8勝1敗の関西外国語大学。この戦いに勝てば同率で、東西戦への切符を賭けたプレーオフに進出できる。関西外大との1戦目では9―7で勝利していたこともあり、自信をもって臨んだ。

 しかし最終戦は7―7で引き分けた。そう、このコロナ禍で延長戦がなく、九回打ち切りだったのだ。涙を呑むしかなかった。

 そして、このような息詰まる一戦を、誰にも見てもらうことができなかった。いたるところで煽りを受けている。

 だからこそ、少しでも救いになるものをと、これらのサイトを企画したのだ。

 「サイトを通じてひとりでも多くの人に、自分のプレーだったり好きなことをやっている姿を見てもらいたいし、それによって幸せになってもらえたらなと思う」。

 そんな思いを込める。多くの人がさまざまな使い方で、それぞれ幸せになってほしい―。それが江草氏の願いだ。

 思い起こせば、現役時代から人を喜ばせることが大好きな男だった。マウンドでの奮闘はもちろんのこと、オフのイベントなどでもこれでもかとサービス精神を発揮していた。その生き方が、これらのサイトを生み出すことにつながっている。

 江草氏の思いが詰まった「みんなの動画投稿スタジアムみんスタ)」「主務シュム」はきっと、多くの人を喜ばせてくれるに違いない。これらのサイトの今後の発展に注目したい。

 そしてさらに、江草氏には夢がある。次回は現在の活動を交えながら、新しい夢についてご紹介する。

地元のエフエムふくやまでパーソナリティを務める江草仁貴氏(写真提供:キアン)
地元のエフエムふくやまでパーソナリティを務める江草仁貴氏(写真提供:キアン)

(表記のない写真の撮影は筆者)

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