福留孝介選手の存在は、阪神タイガースにとって大きな財産

軽快な動きで外野ノックを受ける福留選手

また見事な捕球を見せてくれた。福留孝介選手だ。

9月17日、神宮球場で行われた対スワローズ戦の七回、無死一塁の場面。雄平選手の放った打球はぐんぐん伸び、ライト頭上を襲った。その時だ。背走しながら大きくジャンプして、目いっぱい左手を伸ばした福留選手。打球がグラブに収まると、安心してその身をフェンスに預けた。

■まさに神技

この日だけではない。外野の頭を越す打球に「もうダメだ」と目を瞑ると、大きな歓声が沸き起こる。薄目を開けてみると、福留選手が左手のグラブを高々と突き上げている。そんなことが度々ある。

数々の素晴らしいプレーの中で、山脇外野守備走塁コーチが「あれはスゴかった。孝介やからできた」と唸ったプレーがあった。

昨年の4月11日、対ジャイアンツ戦。ボウカー選手が打ったライト線の打球に追いついた福留選手は、捕球するや時計回りに体を反転させ、即座に二塁に送球。アウトにした。「あの体勢やと、普通なら反時計回りになる。それじゃアウトにはならなかった。でも反転したことで強い球になってアウトにできた。孝介は咄嗟に時計回りにしたんや。瞬時の判断は、センスやな」。捕るだけでなく、0コンマ何秒という中で、何が最善かを計算できるのだ。また、それを己の体で体現できるのだ。その“神技”に何度ピッチャーが、チームが助けられてきたことか。

■福留先生の青空教室

福留選手の貢献はゲームの中だけではない。練習中、常に若手の動きに目を配っている。特に前日に守備でミスをした選手がノックを受けていたりすると、さりげなく近づいていく。そして会話を交わした後は、“青空教室”が開講される。アドバイスをし、自らノックを受けて手本を見せる。時には自分のランニング時間を潰して20分以上にも及ぶこともある。

俊介選手伊藤隼選手緒方選手…そして、狩野選手も“生徒”の一人だ。先日、失点に繋がる捕球エラーをしてしまった。その翌日のこと。外野ノックを受ける狩野選手の傍らには福留選手の姿があった。熱心に身振り手振りでレクチャーした後は、実際に捕球する形を見せている。

「ゲームでエラーしたからというわけじゃない。いつもどおりだよ。ボクが『こうしたらいいんじゃないか』と思うことを伝えただけ」。“福留先生”は事もなげに言うが、生徒の受け取り方は違う。狩野選手は「ポジショニングや捕り方、色々教えてもらいました。『オマエのせいで負けた』って言われましたけど、言ってくれるのは有難いですよね。外野のエラーは失点に繋がるんで」と、深く感謝している。

”青空教室”で先生に習う生徒たち
”青空教室”で先生に習う生徒たち

■もはや、お父さん!?

昨年は大和選手も弟子入りした。外野手として出場しだした一昨年は「何もわからずやっていた」と振り返る大和選手。それであれだけのプレーをしていたのも凄いが、昨年福留選手が加入したことにより、「孝介さんに一から教わっています」とゲームの中で様々な指導を受けた。それが「今年はもう大和に教えることはないよ」。なんと1年で、福留先生から“卒業”を認められた。

そんな二人の間、右中間に打球が飛んだ時は見事だ。打球が飛んだ瞬間にどちらが捕ってどちらがカバーに入るか、互いの阿吽の呼吸で決まるから、捕球後に二人が接触することなく交差する様は演舞のように美しくさえ見える。

そこまで達していない若手には、事あるごとにアドバイスを授ける。PL学園の後輩である緒方選手には、構えでの足の位置から送球時のボールの握り方まで、気づいたことは全て伝授している。更には自身と同じグラブを発注し、出来上がってきたら「オレが最高の型に作ってやる!」と自らの手で柔らかくし、捕球しやすい型に仕上げて手渡した。この面倒見の良さ、もはや先生というよりお父さんのようだ。

■コーチ陣も絶賛する、その守備

そんな福留選手の外野守備がどれほど凄いのか、現在ジャイアンツの大西外野守備走塁コーチが証言する。現役時代、ドラゴンズで最も身近で福留選手の守備を見てきた人だ。

「一直線にボールの落下点に到達する。球際の強さっていうのかな。抜けたと思ったのを、しっかり捕っている。それとやはり一番の武器は肩。外野手は小さく投げるとボールはいかないんだけど、孝介の投げる球は強い。何度もピンチで芽を摘んでくれたなぁ。今は敵チームだから、嫌な外野手だよ(笑)」。ショートから外野にコンバートされた福留選手だが、「ボールへの到達が速いことと強肩で、一流の外野手になるのは早かったね」と大西コーチは懐かしそうに語ってくれた。

タイガースの吉竹野手総合コーチも「“打球勘”だね。方向や強さといったね。天性のものもあるし、練習やゲームでの経験で培われたものもある。内野をやっていたことも好影響だね。打球判断が早いんだよ」と讃える。

開幕直後のアクシデントによる不調も癒え、打撃の状態も上昇気配。元来の勝負強いバッティングが戻ってきた。打って守って走って…そのプレーに間近で接することは、後輩たちにとって大きな財産になる。