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レディ・ガガが新型コロナ禍に対抗! 19日に開幕のWHO支援「オンライン」音楽フェスの全貌とは?

(写真:REX/アフロ)

人類は、通信技術と音楽文化でウィルスに戦いを挑む!

 かねてから噂されていた「巨大規模の」ロック・フェスの開催が明らかとなった。といってもこれは「オンライン」でのイベントだ。地球中どこでも、感染を避けるため人々が一箇所に集まることができない、という現下の状況に合わせて――いやこれを「逆手にとって」――TV放送やインターネット上の複数のプラットフォームを使って配信されるものとなる。

 米時間の4月6日、オンライン動画にて、現代アメリカを代表する音楽アーティスト、レディ・ガガがイベント開催を発表した。『ワン・ワールド:トゥゲザー・アット・ホーム(One World: Together At Home)』と題されたこのコンサートは、アメリカ太平洋時間の4月18日午後5時(日本時間19日午前9時)からスタートする。

グローバル・シチズンのインスタグラムより
グローバル・シチズンのインスタグラムより

 キュレーションをつとめるガガとともにイベントを率いるのは、WHO(世界保健機構)、それからソーシャル・アクション組織のグローバル・シチズン(Grobal Citizen)新型コロナウィルスに対抗することを主眼とした、ベネフィット・イベントとなる。TV放送は米ABC、NBC、CBSなどのネットワーク、ネット上ではYouTube、Facebook、Instagram、Twitterなどの名が挙がっている。

 こちらが公式ウェブサイトだ。

 つまりまさに「おうちでロック・フェス」を地球規模でおこなう、という試みがこのイベントだ。出演者はそれぞれ「自宅などから」音楽を発信する。その音や映像を、同様に自宅にて自主隔離中の世界中の人々が観る……だから「みんな一緒に、自宅にて:ひとつの世界を」形成することになるわけだ。現在の通信ネットワークを有効利用した、じつに今日的な試みだと言えよう。

イベントを発表するレディ・ガガ。公式動画より筆者がキャプチャ
イベントを発表するレディ・ガガ。公式動画より筆者がキャプチャ

史上初にして、地球最強の「おうちロック・フェス」の豪華顔ぶれ

 気になる顔ぶれだが、これがとてつもなく豪華だ。ガガは当然として、まずポール・マッカートニー、エルトン・ジョンという「英国の至宝」が登壇。アメリカからは大御所スティーヴィー・ワンダー。かと思えば、いまをときめく「驚異の10代」ビリー・アイリッシュもいる(彼女の兄、フィニアスも出る)。大人気のリゾもいる。そのほか、アラニス・モリセット、グリーン・デイのビリー・ジョー・アームストロング、クリス・マーティン、パール・ジャムのエディ・ヴェダー、ジョン・レジェンド、ケイシー・マスグレイヴス、キース・アーバン……などなど。

 といった米英豪勢に加え、イタリアからはテノール歌手のアンドレア・ボチェッリが参加(ガガらしい人選)。ナイジェリアからはシンガー・ソングライター、バーナ・ボーイが登場。コロンビアのスター、J・バルヴィン、そしてマルマも見参。中国が誇るピアニストのラン・ラン、インド映画界屈指の大スターにしてニック・ジョナスの妻でもあるプリヤンカー・チョープラー・ジョナス、さらに同国の人気男優、シャー・ルク・カーンも出るという。

 俳優ということで言うと、女優のケリー・ワシントンも参加。そしてなんと言っても、コロナ禍の早い時期に陽性反応が出たことで世間に衝撃を呼んだ英俳優イドリス・エルバと妻のサブリナも参加する! イドリスは元――ではなく現役のDJであり、じつはラップもうまいので大いに期待。「オンライン」のフェスであるからこそ、感染者もこうして参加できるわけだ。

 そのほかセレブ枠ではデーヴィッド・ベッカムも登場。総勢24組(エルバたちがカップルなので人数としては25人)の堂々たるラインナップが公開されている。

 さらに司会がすごい。ジミー・ファロンにジミー・キンメルにスティーブン・コルベアの3人がそろい踏み!する。つまり現代アメリカのTV界を代表するナイト・ショウのホストが集結してしまうわけだ。ネットワークの力の入りようは想像するに難くない。

最前線に立つ医療従事者とWHOを支援する、今日版〈ライヴ・エイド〉だ

 そして我々視聴者としては、これら錚々たる面子の、自宅などプライベート空間の一部をモニタ越しに見てみることができるわけだ。まるで家に招いてもらったみたいに、親密に、彼ら彼女らのパフォーマンスを享受することができる、かもしれない。お互い目と目を見つめ合うように……。

 このイベントの主目的は、新型コロナ・ウィルス(COVID-19)と最前線で戦い続けている医療従事者とWHOを支援することにある。ガガはすでにグローバル・シチズンとともに3500万ドル(約38億円)の寄付金を集めていることを公表していて、このイベントによってさらに多くの支援を求めるつもりだという。だからつまり、形式的には、1985年に開催されて歴史に残った〈ライヴ・エイド〉と同質のものだ。

 ブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフに率いられた〈ライヴ・エイド〉は、アフリカの難民救済、飢餓撲滅のための募金集めを主眼としたベネフィット・コンサートだった。すこし前に超特大のヒットを飛ばしたクイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)のなかでも、最大の見せ場となっていたことをご記憶のかたも多いだろう。

 同コンサートは英米のスタジアムを主会場として開催。それをTVで中継、世界中で放送するというもの。ライヴ会場での動員も計16万人と立派だったが、なによりもTVの視聴者数がすさまじかった。世界150カ国でおよそ19億人、なんと世界人口の40%近くがこのイベントを「観た」換算になるという。

難局を前にしたときこそ顕現する、人間の「真価」を音楽とともに!

 いまとなっては奇異に思うのだが、当時の日本には、こうしたベネフィット・コンサートを批判する声が音楽業界内にあった。「ロックは反抗的でなければならない」とかいった呪縛(もしくは、間違った思い込み)のせいだったのか?  慈善活動をおこなうロッカーを、偽善的とか嘘くさいと非難する論調があった。

 だがしかし、ロックだろうとなんだろうと、人間が持てる力を総動員して「難局」に当たるのは、これは当たり前のことだ。成功したミュージシャンや俳優は、当然の帰結として、社会的影響力が高まる。であるならば相応の「社会的責任」を果たさねばならない。それが「社会の一員としての義務」だから――。

 こうした意識が腹の底まで染み渡っているのが市民社会というもので、だからどうやら、80年代の日本はまだそこに達していなかったのだろう。今日も「まだ」のようにも思える(あるいは退行したのかもしれない。江戸時代ぐらいまで)。

 とはいえ、あなたの自宅に視聴環境があるならば、これを見逃す手はないだろう。つまり「歴史的」イベントに参加することで、ウィルスと戦う「人類軍」の一部になることを意味するのだから。

 もしかしたらこのイベントは、後世「ライヴ・エイド以上だった」と呼ばれるものになる、かもしれない。この困難な時期に、なんだか勇気が湧いてくる話じゃないか? 僕はいま、期待を高めつつある。「自宅にて」キーボードを叩きながら――。

 

作家。小説執筆および米英のポップ/ロック音楽に連動する文化やライフスタイルを研究。近著に長篇小説『素浪人刑事 東京のふたつの城』、音楽書『教養としてのパンク・ロック』など。88年、ロック雑誌〈ロッキング・オン〉にてデビュー。93年、インディー・マガジン〈米国音楽〉を創刊。レコード・プロデュース作品も多数。2010年より、ビームスが発行する文芸誌〈インザシティ〉に参加。そのほかの著書に長篇小説『東京フールズゴールド』、『僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ』、教養シリーズ『ロック名盤ベスト100』『名曲ベスト100』、『日本のロック名盤ベスト100』など。

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